「まるでマンガみたいだ」
現実離れしていて、あり得ない・有り難い状況を形容するのに使用したりしますね。外国語ペラペラ、お金もたんまりあってFIRE達成。日頃は趣味の文化的活動にいそしみ、教科書に載ってしまうほどの業績を挙げる。果ては、欧州人の年の離れた若い奥さんをもらう。
羨ましいと思われる御仁もいらっしゃるかもしれませんが、これこそが本作の筆者シュリーマンの自伝で語られる内容です。彼が、ホメロスによる『イリアス』に描かれたトロイア遺跡を発見したという事実は、多くの世界史の教科書に掲載されていると思います。
初め1/3はドラマチック、その後はやや単調…
自伝の内容ですが、これがまた紆余曲折ありドラマチックです。
子供のころに父親に教えてもらった『イリアス』に胸を熱くし、いつかトロイアを見に行きたいと願う。そんな彼のよき理解者である幼馴染ミンナと子供ながらに将来を約束しあうも、父親のスキャンダルや母親との死別があり、ギムナジウムを退学、丁稚奉公に出る。その後コツコツと外国語の勉強をしつつ業務に勤しみ、貿易業でようやく財を成したときにはかつてのミンナはちょうど結婚してしまった、という展開。
傷心もあったのか46歳にしてビジネスをたたみ、世界一周旅行の最中、1868年には日本にも寄っているそうです。安全も確保しづらい日本に(幕末ですよ)旅行に来るというのは相当な好奇心ですよね(ここまでで約30%強)。
その後の内容(ボリュームにして約70%弱)は、ギリシア人ソフィアと結婚後にトロイア遺跡やそのほかの遺跡を発掘する、ないしは発掘関連の話です。遺跡の発掘話は・・・まあそこまで面白くないかもしれません笑
自伝はきれいにまとまり過ぎている!?
ところで本作上では恋愛話が全く載っておらず、いつの間にか奥様と結婚しトロイア遺跡しているという風の編集になっています。一体年若い奥さんとどのように知り合ったのかとか、しょうもないことが色々気になりだし、恋愛事情を探るべくwikiを見てみると、また違った視点が得られました。
他の著者による作品『甦るトロイア戦争』『シュリーマン 黄金と偽りのトロイ』などの内容のようですが、曰く、一度ロシア人と結婚・離婚していた(幼馴染のミンナを思い続けていたわけでもない?)。発掘事業は商売を畳んだ後に思いついた(昔からの夢じゃなかったの?)。19か国語をマスターしたというのは疑わしい(これはまあ確かに)、などなどです。本自伝では大分ストイックな雰囲気だったんですがね。
おわりに
本作、確かに多少の脚色はあるのやもしれません。上記の著者言及内容は未読なので正確には分かりません。しかし、トロイア遺跡の発掘の成功という事実は消えません。また本作は、著者没後に奥様と出版社が手記等をまとめて出版したものだそうです。その意味では大切な故人をしのぶ記録でもあり、決して自己顕示欲ばかりの作品でもないと思います。
ということで、幕末時代の一趣味人の記録として本作楽しく読めました。古代ギリシアや遺跡好きの人にはお勧めできる作品です。
評価 ☆☆☆
2022/06/05