海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

独学のための強力な道しるべ。ただし自分を変えるのは自分だけ |『独学大全』著:読書猿

本書の帯を見て、中3の娘が言いました。
これ全部お兄ちゃんに当てはまってるじゃん

娘よ、その慧眼には敬服するが親としては一抹の悲しさを覚えるぞ。

その帯は下のイメージの通りですが、こうあります。

「自分を変えたい」すべての人へ。頭が悪い 続かない お金がない やる気がでない 読むのが遅い 時間がない

本作、もともとは高2の息子のモチベーションを何とかしようと購入しました。隗から始めよの心意気で私から読んだものですが、実践を含めて自分からはじめてみたいと思います。


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やっと読み終わった。752頁にも渡る、この辞書のような本を通読し終えるのに何日かかったか。しかしこれは終わりではなく始まり。そう、自分の独学の始まりです。

 

端的に言えば独学テクニック集

本作は独学、換言すれば誰からも強制されない学び、をより良い形で続けていくための手引きであります。

収録された55のテクニックは表層的なものにとどまらず、なぜ学びたいのかといった自己分析を行うものや、知りたいことのレベルを測るシネクドキの技法など多く役に立つものがありました。

・・・

少し私事を。

私は本を読むことや日記を書くことが好きですし、上の子の高校受験を機にスタディサプリで世界史とかも勉強したりしてましたが、自分が本当に何を勉強したいのかはよくわかっていませんでした。でも、この本を読みつつ、カルテ・クセジュという技法でブレインダンプ的なことをしているうちに、自分が学びたいこと・知りたいことが分かった気がします。

ちなみに私が知りたいのは「人間性(humanity)とは何か」ということです。他の動物と異なる人間の特徴を改めて知りたい。理性だったり感情だったり、それがために秩序だった本能の営みから逸脱しイレギュラーな行為が生まれる本性。科学全盛の時代には哲学的アプローチをすると空虚になりがちだが、脳科学行動経済学なども併せて学びたい。そこでは無慈悲なアイヒマンも生まれ、また友や仲間を守るために自己犠牲を厭わない多くの無名のヒーロー・ヒロインも生まれる。この悲しくも素晴らしい人間という種の本性を改めて学びたい。…ちなみに卒論でも修論でも類似のテーマで挑んだものの射程が広すぎて破綻した感がありましたが笑

 

「面の読書」のすすめ

もう一つ本作で感銘を受けたのが技法28の目次マトリックスをはじめとした知識の鳥瞰のための技法です。筆者はこれを「点の読書から面の読書」と呼んでいますが、言い得て妙かと。

今まで私がしてきたのはある作者の本を読み、ちょっと面白そうだと参考文献をみて感覚で次を選ぶという、いわば運だよりの読書でした。しかし膨大な情報があふれる昨今、その波に飲み込まれることなく効率的に航海図を描くことも必要になります。本技法は類似書籍の目次をマトリクス(表)にすることで現在学会で盛り上がっているトピックや中心的話題やトレンドなど学問の概観が可能になり、またある作品で言っていることが他でどのように評されているかなどの比較にも使用できます。こうした整理をしたうえで読書を始めることで、外れを引くことも少なくなりますし、より精緻な読書ができると考えます。

もちろんジャケ買いやタイトル買いのロマンも捨て難いし否定する気はさらさらありませんが、既に人生の折り返しを優に過ぎた自分、残された時間がいかほどかわからないのならば、合理で包括的なアプローチを採用するほうが自分の知的好奇心に適うと考えました。

 

おわりに

おそらく今年一番感銘を受けた本だと思います。

技法ではありませんが、「巨人の肩にのる」というアイディアはとても感動しました。曰く、人間の知的営為はどれも最前線はすべて独学以外にあり得ず(誰も研究していないから)、そうした文化遺産(知の巨人たちの肩)を拝借して我々も遠い地平を眺めるというものです。つまり私たちの独学もどこかで知の巨人とつながっているというものです。

本作、自己向上・自己研鑽に挑む人にはすべての方にお勧めできると思います。ただしこれを読んでも何も変わらず、ここからどう進めてゆくかは当然の事ながら読者自身に委ねられています。

 

評価     ☆☆☆☆☆

2022/07/02

 

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