海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

デビュー作から村上色満開|『風の歌を聴け』村上春樹

先月8月に2年半ぶりに実家に帰りました。実家の書籍については度々処分しているのですが、それでも残っている本が数十冊ほどあります。私の記憶ではこの十年くらいは伊坂幸太郎さんとか恩田陸さんとかを結構読んだのでそういうのが残っているのかな、と予想。ところが実家においてあったのは、開高健太宰治谷崎潤一郎、そしてこの村上春樹の作品群。なかでも村上氏の作品が一番多くありました。別にハルキストを自称するわけではないのですが、大分好きだったのねえ、と過去の自分に感慨にも似た気持ちに。ということで、数冊をトランクに突っ込んで、東南アジアの居所に戻りつつ、道すがらで読了したのが本作であります。


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ひとこと

本作は村上氏のデビュー作。どれも似ているといえばそれまでですが、デビュー作にしてすでに村上色が大いに出ています。

主人公キャラのエッジが立つ

その特徴といえばやはり主人公。

やや厭世的・衒学的・理知的で、運動を定期的に行う。周囲に無関心気味、微妙な比喩を繰り出し、相手と若干かみ合っていないような会話もしばしば。近い知り合いが死ぬ。キザめな音楽からの引用や文学からの引用の数々。そして濃厚な性描写(でも冷静)。こうした要素がウイットに富んだ軽妙な文章で綴られる。

 

そんな主人公が出る作品が売れたわけですから、やはり主人公のような人物が、時代のロールモデルというか憧れ、だったのでしょうか。

思えば私も、文学、音楽、運動、全部好きでした。が、いかんせん男子校上がりで女性にはモテなかった。だから彼女(今の嫁さん)ができたら、もうのぼせ上っちゃって、冷静どころではなかったですねえ笑 ということでついぞ主人公のような人物にはなれませんでした。だからこそ冷静なエロにあこがれたものです。知的で社交のできるむっつりスケベ。これが村上作品の主人公にたいする私のイメージです(大分偏見が入っていますが)。

 

村上作品は今も若者に支持されるのか?

他方、今の10代、20代が本作のような村上作品を読んだらどう反応するんだろうか?とちょっと気になりました。若者気質も時々刻々と変化します。今の若者にとっては村上作品の主人公はちょっと「面倒クサ」「わけわからん」とかなるのではないかと感じました。今の若者は全般的にもっと覚めていてかつシンプル・ストレートなコミュニケーションを好むような気がしました。言っても若者なんて自分の子供とその友人数人くらいしか知りませんが。

 

おわりに

ということで10年ぶりか20年ぶりくらいに読み返した村上春樹氏のデビュー作でした。昔は熱読し今も好きですが、2022年の今、1970年代の作品にやはり「時代」を感じざるを得ませんでした。

本作はじめ村上氏の作品が今後10年20年と残っていくかは予測できません。もし残るのならば、そこに某かの普遍的価値・気分のようなものが捉えられているということなのでしょう。あるいは、昭和の名著として学者による注釈が巻末についたうえでやっと読み継がれるような、化石のような物語になるのでしょうか。結果は空の上から見守るしかありませんねえ。

評価   ☆☆☆☆

2022/09/02

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