海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

英国の伝説・伝統的冒険譚。ファンタジー嫌いも楽しく読める |『KING ARTHUR AND HIS KNIGHTS OF THE ROUND TABLE』ROGER LANCELYN GREEN

 

世界史を勉強すると英国史で言及されることが多いアーサー王伝説。英国の伝説・伝承文学にして最も有名なものと言いうると思います。サクソン人(Saxon)を撃退し、英国(Briton)を平和に導くアーサー王と彼を支える円卓の騎士の物語です。

 

で、これが予想をはるかに超える面白さでした。同じタイトルでキンドルで無料であったので読んでみようかと思います。ちなみにキンドル無料版で翻訳物もダウンロードしたのですが、恐ろしい量の旧漢字の山(おそらく戦前のもの)で、そちらは挫折しました笑

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伝説に基づく口承的な性格があるためか、同じタイトルでも多くのバージョンがあるようです。本バージョンは20世紀初頭の作家Roger Lancelyn Greenという方によるもので、本作をはじめギリシア神話等をモチーフにした作品を多く執筆されている方のようです。

 

四部構成の内容と見どころ

で、本作は4部構成となっており、それぞれ
1. THE COMING OF ARTHUR  
2. THE KNIGHTS OF ROUND TABLE 
3. THE QUEST OF HOLY GRAIL 
4. THE DEPARTING OF ARTHUR
となっています。

 

魔剣エクスカリバー

1部では塚に埋まった魔剣エクスカリバーが引き抜かれるところが見どころ。その剣を塚から抜いたものこそ英国の王となる人だとの予言が流布するなか、唯一アーサーがその剣を塚から抜き、アーサー王が誕生するという結構有名なシーン。

騎士道精神とスター家来たちの話

2部及び3部では、アーサー王は最早わき役で、主役は各章ででてくる円卓の騎士たち。つまるところ、彼らの冒険譚です。有名どころですと、ワーグナーの歌劇にもなった『トリスタンとイゾルデ』の話。もとはフランスのお話らしいですが、時代を経てアーサー王伝説にも取り込まれ、本作にも収録されています。また、騎士パーシバルの話とかも収録されています。

これら騎士の冒険譚については、騎士道Knighthoodに基づいた倫理にのっとった行為が通底するテーマになっています。その典型については以下のパーシバルの話に良く表れていると思います。彼が山奥で育ち、騎士を目指して山から出ていく際の母親の別れの言葉が以下になります。

Go on your way now, and remember that if dame or damsel ask your aid, give it freely and before all else, seeking no reward. Yet you may kiss the maiden who is willing, but take no more than a kiss, unless it be a ring. (P.232)

 

おかん、具体的やな。。。って、キスまではええんかい!という突込みはなしで笑
端的に言うと、人を助け、見返りを求めず、純潔を守る、と。

 

また、騎士だけに一騎打ちjoustを行うシーンが多く出てきます。で敗者が降伏すると、勝者は敗者に命じてアーサー王の下へはせ参じ忠誠を誓わせるというくだり。このくだりは一騎打ち終了の典型のようで、本作だけで7, 8回程度この形の表現が出てきたと思います。

 

3部は聖杯伝説に基づく冒険譚です。聖杯とはキリストが磔刑に処された際に流された血を受けたという杯のことで、どういうわけかそれを求めて騎士が冒険をするというものです。キリスト教世界ではこうした聖遺物を重んじる伝統がありますので、キリスト教的世界観の一部を理解するという観点でも面白く読めました。

 

最後は、あまりに人間的な結末

4部はアーサー王の死と王国Logresの終焉の話。ここは唯々暗い。アーサー王の妻GuinevereとLancelotとの悲恋?浮気? が原因で国が二分し最終的にアーサー王は死去、Guinevereは尼さんnunになり、Lancelotはフランスに落ち延びるという結末。これまで魔法とか聖遺物とか騎士道とか何だかんだ出てきましたが、最後は人間臭い男女関係が国を壊したという、苦くも生々しい結末でした。

 

おわりに

ということでアーサー王伝説、楽しく読めました。ファンタジー系が苦手なので、初めは読み切れるかどうか心配に思っていました。が、本作、ファンタジー系である前に神話・伝説的要素の方が強く、またサクソン人の侵入等歴史的ベースもあるところから、『ホビットの冒険』のようなファンタジー感は薄かったと思います(なお『ホビット…』の作者トールキンと本作作者Green氏はお友達だったとあとがきにありました)。また人の性(さが)を感じさせる悲しい結末は、物語に重厚感・文学性を与えていたと思います。

英国文化、騎士道文化等に興味があるかた、またファンタジー好きの方にもお勧めできると思います。

ちなみに英語ですが、頻繁に繰り返される倒置はやや気になりますが、単語はそこまで難しくなく、そうですね、高校生程度の英語力がれば楽しく読めるのではと思います。

 

評価     ☆☆☆☆

2022/09/25

 

 

 

王妃Guinevereと騎士Lancelotは純潔のまま結ばれませんが、悲恋というと以下の話を思い出しました。

lifewithbooks.hateblo.jp

 

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