海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

ニコニコ動画式政治で民主主義をアップデート!?|『一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル』東浩紀

いやあ、これはすごい考えでした。読中もむむぅと唸りがとまりませんでした。

なお筆者は哲学・現代思想が専門であり、本作は言わば「夢」を語ったもの、と注意書きをしています。


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どういうものかというと、、、

「民主主義後進国から民主主義先進国への一発逆転。
ユビキタスコンピューティングとソーシャルメディアに浸透された、まったく新しい統治制度の創出」(P.7)

 

私の理解でいうと、法案審議や国会中継ニコニコ動画(風なもの)を見ながらやるべし、というなんともドラスティックな話です。

 

この時点で胡散臭さ満載かもしれません。既にユビキタスとか死語ですしね(筆者も予見していましたが)。でも、日本の哲学界のエース(と私が勝手に思っている)がいうことです。騙されたと思って読み進めていただきたいです。

ポイントは副題のある通り、ルソー、フロイト、グーグルです。

 

一般大衆の意志の総和

ルソーの一般意志というのは東氏曰く、「つねに正しく、つねに公共の利益に向かう」ものであり、私的な利害の総和ではないという。ん?既に実現不可能な概念を突き付けられた感があります。別の言い方では、個々人の利害の総和から「相殺しあう」ものを除いたうえでのこる「差異の和」だそうです。よくわかりませんね笑

結局、彼は一般意志を算術的なベクトルの和のようなものと措定しています。とりあえずこれはこれでおいておくとします。

 

むしろ無意識的欲望としての一般意志

次にフロイト。ここでは無意識の重要性について力説し、実は一般意志は無意識(欲望)の集積であると言っているように見えます。そしてそのような無意識的欲望はツイッターなど、オープン過ぎて他者性を感じない環境に発露すると言っているようです。

本来「正しい」一般意志がそんなSNSの欲望垂れ流しのつぶやきの和でよいのか分かりませんが、SNSが無意識的発言の集積たりえることは何となくわかります。故にか、名称は一般意志2.0、ネット時代の無意識的欲望のつぶやきの集積、といったところでしょうか。でも、まあ不思議、かつてのルソーの一般意志は全くの想像の産物でしたが、現代の情報化社会では一般意志2.0は現実に想像に難くありません。

 

一般意志2.0を可能にするビッグデータ

そしてグーグル。検索のサジェスト機能が示すようにグーグルは大量の検索データを集積しています。東氏はこのような大量のデータベースがキーになると考えているようです。今でいうところの所謂ビッグデータから人々の無意識的欲望を形にすることを要求しているように私は理解しました。つまり、一般意志2.0のインフラとしてグーグルが持つようなデータベース(ビッグデータ)が措定されます。

 

上記をあわせると、当初に書いたニコニコ動画方式の法案審議、みたいなものをやりましょうぜ、ということを主張しているようです。イメージは審議中にモニターに意見やコメントがどわーっと流れてくるやつです。

 

ニコニコ動画式議論で、オープン議論化、全国民政治参加へ

まずこの方式の良い点。これまでの定石?であった密室での決定を衆目に晒すことを可能にします。政治って年取ったおっさんがこそこそ勝手に決めているというイメージありますよね。そこにニコニコ動画式に審議の内容に対する感想が流れてくる。国民の無意識の総体ないし欲望がここで可視化されます。勿論、ビックデータから導かれる無意識的意識的欲望の数々ですから、政治家は言わば国の「理性」としてそうした欲望との対峙も要求されます。少なくとも完全無視はできません。

 

またこの専門化した情報化社会で、政治参加のコストを圧倒的に下げてくれる可能性があります。市民運動とか、政治家になるとか、もう普通出来ないじゃないですか(時間も金もキャリア?も浪費する?=コストかかる)。というか、国会で何をやっているかなんて、多くの国民は分からないわけです。それを勉強するだけでもコスト。でも内容を説明されれば感想くらいは言えますよね。税金が上がると言われれば即刻やめてというでしょうが、将来のためと言われればちょっと考えてしまう。こうして我々が意識的・無意識的につぶやいたコメントが政治家と対峙することで、国民は無意識的に政治参加することになります。

 

相対価値社会ではエリートよりも衆愚の方がましか?

他方「衆愚」に陥る可能性は否めません。ただ、何をもって「衆愚」とするかはまた難しいところ。この専門化した社会、絶対的価値観がなくなった今、どこまで「選良」(エリート・官僚・政治家)の決断が正しいと言えましょう。何かの専門家がコメンテーターとしてワイドショーに出ていたりしますが、その筋の専門家でもほかの事では素人同然なのです(あるある)。むしろ相対的無意識的欲望こそが意思決定に叶うものかもしれません(ちょっと怖いけど)。

また筆者はやや希望観測的に、人間の動物的共感というワードを提示します。利害は別として、苦しんでいる人がいたら、憐みの感情を「無意識」的に持ってしまう、と。

つまりこういうことかしら。国会中継ニコニコ動画でやっていて、実際の政治家も四苦八苦しながら流れるコメントを受けた発言をする。1視聴者に過ぎない私は審議と関係あることないこと取り敢えず政治家のオッサンにネガティブになりそうな投稿を繰り返す(無意識的欲求?金満政治家に対するルサンチマン?それもまた無意識か?)。それでも必死に答弁を頑張る政治家を見ているうちに、すこし応援したくなってきて、徐々に攻撃から応援、さらに審議の内容を知りたいという欲求に転じるとか?

 

私の理解であっているかは分かりませんが、このような形で、動物的な無意識的欲求をベースに(ニコニコ動画式)、ガラス張りの劇場で政治家の討議・熟議が理性的に果たされる、そしていざとなれば人間の共感が発露されどうにかうまくいくのでは、という感じか。こういう形で政治を展開されてはどうでしょうという提案だと思います。

なお作品ではほかにもアレントハーバーマス、ロールス、ノージックなどを援用しつつ議論をまとめてゆきます。

 

おわりに

ということで非常に刺激的な本でした。「夢を語ろうと思う」というセリフにたがわず、確かに実現するためには多くの決め事を決着する必要があります(ビッグデータからコメントを生成するアルゴリズムをどうするか、当該システム構築する企業は私企業でいいのか公社化がよいのか等)。だから今の体たらくの政治では何も決められずおよそ実現は難しそうですよね笑。

それでも現状の政治を良しとせず、それを具体的にこう変えるべきだと語った点は非常に素晴らしいことと思いました。当初は眉唾物で読み始めましたが読後は「ありかも」という感想を抱きました。

日本の政治を憂う方、民主主義ってどうなのと感じる方、現代思想が好きな方等々にお勧めできる作品だと思います。

 

評価     ☆☆☆☆

2022/10/31

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