イラン、というと皆さん何かイメージは湧きますでしょうか。
正直、なかなか難しいのではないでしょうか。
私もイスラム教、イラン・イラク戦争、くらいしか直ぐには思い浮かびませんでした。多少詳しい方ですと、シーア派、ホメイニ氏、などは思い浮かぶかと。
さらに世界史に詳しい方ですと、作品名にもなっている古代都市のペルセポリスを思い起こすかもしれません。
我々日本人は、ムスリム、というとそれだけで身構えてしまうことも多々あろうかと思います。ましてや原理派のシーア派の国というと、ちょっと恐怖すら覚えてしまうやもしれません。
じゃあ、そうした国の人たちがみんながみんなコテコテの原理派で理解不能か、といえば、そんなことは全くないと思います。本書はその証左の一つです。筆者は本作で、主人公マルジを通じてイランの市井の様子をビビッドに伝えています。
概要
ちょっと「おませ」なマルジの、少女から大人への成長の半生が描かれます。開放的・先進的な家庭で育まれ、イスラム革命、イラン・イラク戦争、欧州留学、当地での恋愛・パーティー・クスリ、帰国後のcultural gap、結婚と離婚を経験し、最後に再びイランを出るまでが描かれます。
人の根っこは国籍や宗教によらない
さて、本作で一番私が印象的であったのは、開放的な両親の姿勢です。イスラム教国にありながらイスラム革命前は王政に猛反対。デモにも頻繁に参加。加えてなんと飲酒をたしなむ! 彼らは日常的に飲酒をしている様子ですので、おそらくハラム(禁忌)についても聖典字義通りではなく、咀嚼して自らの理解のもの受け入れているであろうことが想定されます。言わば自立した宗教心をお持ちの方なのでしょう。
ロックやパンク、西洋文化を子供に許し、イラン・イラク戦争の最中に娘を欧州へ脱出させ、また、成人ののち傷心して戻ってきたマルジを暖かく無言で受け止めるのも親心じゃあないですか。
そういう描写を見るにつけ、たまに聞く「イスラム教こわい」とかっていうのも、知らないから怖いだけなんだろうなあと感じます。
マルジだって普通の隣人
主人公マルジについても同じことが言えます。子供のころから口喧嘩上等、先生にも歯向かいます。欧州ではドラックはやるわ、彼氏は作るわ、下宿飛びだして路上生活するわ、まあ自己主張と感情の揺れが激しい。原理派の支配するイラクに帰国しても、隠れてパーティーやったり(男女混合+飲酒)。その後結婚して、それもやっぱり違うと離婚したり。
つまりこういうのって、まんま若い時代の過ち・若気の至り的衝動、じゃあないのかなと思うのです。
そう、程度の差こそあれ、我々の若いころとそんなに変わらないのです。
秀逸なイラン現代史の教科書
そして本作、同時に良質な歴史の教科書とも言いえます。
なぜシャーの独裁があったのか、どうして革命が起こったのか、どのようにしてイラン・イラク戦争が始まったのか等々、イランの現代史が主人公マルジの両親の視点から語られます。
やや陰謀論的ではありますが、金目の資源に大国が裏で糸を引く様子が描かれます。ちなみに作品はマンガですので、すらすら読めます。
おわりに
ということでイランのぶっとび少女マルジの半生記でありました。スーパーフラットな描写タッチも、斜に構える主人公ととてもよくマッチしていたと思います。
イスラムに関心がある方、女性の権利(フェミニズム)等に関心のある方には楽しく読んでいただけるのではないでしょうか。
自己陶冶の青春物語Buildingsromanとしても読めますし、家族のほっこり話としても読めます。異なる文化の方が身近に感じられる良作であると思います。マンガですらすら読めますが、映画もあるようです。良ければそちらも。
評価 ☆☆☆☆
2023/01/30
イスラム教もそうですが、ユダヤ教もなんかインナーサークルの秘教めいた印象があります。下記の作品は読後ユダヤ教への偏見を解いてくれたと感じました。