海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

激動の明治大正昭和を駆け抜けた、いち翻訳家の生涯|『アンのゆりかご』村岡恵理

先日、齢80を迎えようとする母のスーパー積ん読文庫を、実家へ帰ってきた私の姉が処分するべく整理していました(一応母の希望)。その中から面白そうなものを数冊救出して、こっそり読もうと思った中の一冊が本書であります。

ちなみにこのスーパー積ん読文庫は合計ミカン箱3つくらいになり、めでたくブックオフに引き取られました。大体7,000円くらいになりましたでしょうか。高い本ばっかり買ってんなーって思いました笑


f:id:gokutubushi55:20230208012503j:image

ひとことでいうと

本作の主人公は翻訳家の村岡花子さん。赤毛のアンを翻訳した人、といえばすぐに通じるでしょうか。彼女の生涯を扱う作品です。

ただ本作、いち翻訳家の生涯というよりも、むしろ、一女性の目を通して綴られる明治・大正・昭和の女性の自立・地位向上の話、といってもよいと思います。

それほどに、熱く激動の人生を生きた女性であったと読後に感じました。

 

明治大正昭和の三時代を駆け抜けた職業婦人

貧乏だった家庭で唯一学校通いを許された花子。キリスト教系の東洋英和で女性宣教師からみっちり英語を叩き込まれ、図書室で洋書を貪るように読み、外国に行くことなく英語を話せるようになったエピソード。日本にはヤングアダルト向けの自己陶冶的小説が少なく、自らを筆をとり文筆家をスタートさせたこと。自らの進学後一家離散となった家族のため、卒業後も必死で稼ぎに出たこと。日本女子大創設者の広岡浅子の伝手で、市川房江など女性進出のパイオニアと知己を得ていたこと。キリスト者でありながら、妻子ある身の男性と恋に落ち、所帯を持つに至ったこと。震災で夫の会社が傾き、家の生活費を自らが稼ぐ決意をしたこと。一粒種の道夫を病気で亡くしたこと。良質なヤングアダルト小説を子供たちへ届けたい一心で、空襲のさなかでも、敵性言語である英語で書かれた“Ann of Green Gable”の翻訳に注力したこと。戦後は一層、赤毛のアンシリーズの翻訳に取り組んだのは言うまでもありません。

 

東洋英和での学生時代の話を除くと、花子は断続的に苦境・逆境に襲われるのですが、もがきながらもたゆまず前進を続ける様子には胸が熱くなります。

 

日本語のセンスを磨くべし

加えて驚くべきは、花子が日本語、わけても詩や和歌に注力していたことです。なんと和歌・詩歌で有名な歌人佐々木信綱氏にも師事していたということです。目の付け所が違います。

 

卑近な例で考えると、所謂キコクである自分の子供たちを見ていると、英語もまあ通じるし、読み書きはできるのですが、受験英語の下線部訳の問題はからっきしダメなのです。Google翻訳的直訳というのでしょうかね。

 

やはり日本語の語感やセンスを磨かないと、腑に落ちる訳文は生まれない、と本作を読んで改めて感じた次第です。訳者ならずとも、日本語力や言葉への造詣がないと、外国語の豊かさは汲み取れないのでは、と感じました。

日本語力、大事です。

 

おわりに

ということで、村岡花子さんの生涯でした。

 

驚くほどにドラマティックな個人史でしたが、瞠目すべきは、このような傑物がそこまで注目されずにいる現状であります。もっと知られて良い方だと感じました。

 

本作、女性の社会進出、明治以降の現代史、児童文学に興味がある方等には楽しんでいただける作品だと思います。ぜひ「赤毛のアン」も併せて読み、気取った女子高的雰囲気を楽しんでいただければと思います。

 

評価   ☆☆☆☆

2023/02/01

海外オヤジの読書ノート - にほんブログ村
PVアクセスランキング にほんブログ村