海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

世の価値観の変遷に思うアクティビストの役割|『動物の権利』編:ピーター・シンガー、訳:戸田清

この前、高2の息子がオンラインでクラスメートとディスカッションをしていました。お題は『動物園は廃止するべきか?』 そしてマイク越しにムスコが喋った言葉に耳を疑いました。

『いや、ピーター・シンガーの議論もさあ、slkdurfap〇▽&^%#@$E』

むむぅ? 日がな『ダルイ』とつぶやくかYoutubeをみて息を殺して笑っているかの君から、よもやそのような高尚が名前が出ようとは。

私が20年以上前に読んだ本作を棚から引っ張り出し、『ほれ。ピーター・シンガー。読む?』と問うと、即座に『いや、断る』

ただ、逆に父は少し感心しました。最近の高校の倫理ではこういうトピックを扱うんだ、と。

ということで、感慨に耽りつつ20年ぶりの再読でございます。ちなみに「動物園反対論」という小論が本作に所収されており、きっとこれが倫理の授業で取り上げられたのだと思います。

 


f:id:gokutubushi55:20230315014618j:image

 

アクティビストの啓発的な存在意義

いわゆるアクティビスト、というとエクストリーミストというイメージがあります。

「危険な奴ら」みたいな。

 

本作、久々の再読でしたが、以前とは違った印象を得ました。

それは、極端なアクティビスト達の存在意義も十分にあるのかな、ということです。彼ら活動家の話は、本作に収録されている「アニマルライト活動家たちの声」に明るいところです。もちろん、破壊活動であったり暴力であったり、常識的な観点からすれば十分法に触れる行為だと思います。眉を顰めたくもなります。有名どころだというとシーシェパードとか(本作にも出てきます)。

でも、その極端な行為というのは、現状の価値観に異議を唱えるための問題提起なのだろうと、ちょっと肯定的にとらえ始めている自分がいます。動物愛護や動物実験の代替方法も大分進んでいるようですし、アクティビストの活動もイノベーションの一助になっているのではないかと感じました。

 

主張自体は好きではないも・・・

いやもちろん、個人的には、世の中の価値観というのは、0か1か、とか白か黒かとか、はっきりと分かれるものではないと思います。だから本作にあるように、畜産への大々的批判とかをするとちょっと居心地がよくないんです。だって私、しゃぶしゃぶだって焼肉だって好きだし。

しかも、本作では、感覚のある生物や高等な知能を備える哺乳類と人間との間に、その生命の尊さの差異の境界線を設けるのが厳しいと主張します。まあ同意できます。でも、だったら、生命の尊さという観点では、魚や草木だってみだりにその生命を奪うことはやっぱりよろしくないのではないか、と考えてしまいます。植物については本書に触れられていませんが。というより、そもそも人間という種は生きている限り他の生物の殲滅しかしない害悪にしか見えなくなってきます。だったらさっさと人類は死ぬべきか?とか極論に至りそうで。

種の間の命の平等ってあるのかなあ?良く分かりません。

 

理論的な基礎づけの作業は専門家に任せるとして、一般人の考えはアクティビストの啓発等もあり徐々に考えが変わってきたのかなあと思います。ファッションぽい人も一部いますが、ヴェジタリアンやヴィーガンも増えてきました。動物に対するそうした「まだら」の価値観の模様はひょっとしたらアクティビストらの活動のおかげでもあるのかなあ、と。私は、そうした多様な考えから冷静な議論が進むといいなあと考えます。

 

今でもこうしたアクティビストを素直には見れません。なんだかやかましいなと。類例では、環境保護とかで声高に叫ぶ人たちを見ると、どうにも覚めてしまう自分がいます。でもそうした活動から省エネだったりリサイクルだったりが普及するきっかけとなるのであれば、世の中の良化に資する可能性はあると肯定的に捉えることが出来る、と最近は思うのです。

 

おわりに

ということでピーター・シンガーの本でした(じっさい彼は編者プラス頭と終わりにちょろちょろ、だけですが)。

かなり古い本になりますが、種の間の命の価値の差異、他の種の権利の有無等々、現代的倫理トピックに満ちた作品だと思います。

動物が好きな方、命の重たさの軽重?などのトピックに関心のある方には興味をもって読める本だと思います。

 

評価     ☆☆☆

2023/03/13

 

 

 

 

貴重なお時間を頂きまして、ありがとうございました。

海外オヤジの読書ノート - にほんブログ村
PVアクセスランキング にほんブログ村