私事で恐縮ですが、来週長崎に家族で旅行に行こうと考えています。
一家の人柱を自認している私は、各種予約、旅程表作成も自分の仕事と理解しております。そして最後の仕事は、旅行先が舞台になっている小説をチョイスand読むということ。
うーむ。長崎が舞台。色々調べたのですが、一発目は歌手のさだまさしさんの作品を選びました。読み口が優しく読みやすいので、子供たちにも何とか無理やり読ませたいと思います。
佐田家のファミリーヒストリーを繙く
死。
人が生まれたら必ず経験するもの。
特に直系の親族や年の近い家族の死は、周囲にとっては大きな悲しみであることは言うまでもありません。
当然の事ながら、その辛さは芸能人でも一般人でも変わりはありません。
本作「かすてぃら」は、歌手のさだまさしさんのお父様の死に際から始まる、言わばファミリーヒストリーの回顧です。
その父親の豪快さ故か、文章はどこか軽妙でユーモラス。そして昭和の牧歌的な雰囲気が全編に漂います。
満洲で育ち中国語を解し当地で徴収、引き上げに際して戦友の地元であり母の出身地であった長崎に還ってきたさだの父、雅人。人が良くて他人の保証人になっては借金を肩代わりする。借金の返済を迫るヤクザに逆に凄みを利かせともに心中しようとする。そんなチンピラも、頭を下げる場合には助けてあげてしまう。水害で商材の材木を失い大損害を出しても、友人の安否の方が大事。お金を持っていない自分が悪いのに高速道路の集金でツケ断られもめにもめる。駐禁で捕まった警察官にキレて、爾来駐禁を見つけるとその警察官に取り締まるよう電話する(メンドクサ!)、等々。
こういう規格外の方なので、何のかのと人が集まる。明るい偏屈さ、とでもいうのでしょうか。
きっと実際には家族が被った迷惑もそれなりにあるのでしょうが、奥様の内助の功でしょうか、家族が仲良く関係を維持できているというのは素敵なことだと思います。
キーアイテムは、カステラ
興味深いのは、題名にもなっている「かすてぃら」。昭和の終戦後、カステラは地元の名産やローカルな食べ物というより、むしろ贈答品。ヤクザの親分のお礼の時も出てきますし、改まったときに桐箱に入ったカステラを贈ることで何がしかの誠意を示そうとする。そんな詫びを断る、礼も受け入れない、でも持ってくるカステラだけは受け取るという雅人。そのカステラを愛してやまない姿がなんとも微笑ましい作品でありました。
なお本作でも高級品として福砂屋のカステラが登場。私も長崎に行ったら是非食べてみたい笑。そういうと、思案橋のそばの宝雲亭でぎょうさを食べるという話も出てきました。こちらも気になる。
おわりに
ということで、ほのぼのとしたファミリーものの小説でした。
私も老いた両親を持つ身として、その関係に悩むものです(まあ親父はボケ気味だし、お袋は面倒くさいし)。でも順番を考えれば、諍い争う時間は本当にもったいない。できるうちに孝行はしたいと改めて思った次第です。
親が面倒だと思っているこどもたち、長崎に縁のある方、ファミリー系の話が好きな方にはお勧めできると思います。文章も至って平易ですので、中学生、場合によっては小学生でも読める本だと思います。
評価 ☆☆☆
2023/03/18