海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

長崎の傑物、女商人大浦慶を骨太に描く | 『グッドバイ』朝井まかて

いつの間にか4月ですね。

一昨日、下の子の高校の入学式に参加してきました。ここから7年間の学費のピークに対し、馬車馬のごとく歯を食いしばって金を稼がねば、と決意を新たにしました。

当初子どもたちは公立高校に入ってもらう予定でしたが、両親が海外の場合は受け入れられず(東京都)というルールを上の子の時に知り、結局二人の子供は私立高校へ。ちなみに私立高校学費補助はこれまた保護者が海外在住の場合は収入が確認できないとのことで最低限(確か年間12万円くらい?)。まあ補助して頂けるだけでありがたいですが・・・。

 

さて今回は3月に行った長崎旅行にあわせて買った作品です。本当は旅行前に読みたかったのですが、旅行後の読了となりました。


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ひとこと

本作は、長崎の三女傑の一人、茶葉商人の大浦慶を描いた歴史小説です(ちなみに残りの二人はシーボルトの娘で医師の楠本イネ、ロシア語を極めロシア人専用ホテルなどで繁盛した道永栄)。

 

主人公、大浦慶が面白い

で、やはり人物がダントツに面白い。

幕末に商家の一人娘として生まれたものの、祖父が跡継ぎたる父を見限り、孫の慶へ英才教育を施すという背景もあります。この慶が、落ち目の家業である油商ではなく、当時藩の直轄だったオランダとの交易にどうにかして食い込もうと奮闘します。

 

ちなみに、お慶さん、驚きのどストレート発言が信条.。

せっかく婿をとったのに、数日で離縁したいと周囲に漏らす。それも、「これはダメな男」だとの勘。というのも、火事の際に娘(慶)を置いて逃げ出した父と同じ匂いがするとのこと。されたほうはたまったものでもないが、周囲も離縁を認めてしまうのは、おそらく信用されている証拠。破天荒というより直情径行、雰囲気を読まないところが豪快で逆に胸をすく人物です。

 

営業経験者感涙のスポ根系サクセスストーリーも

個人的に最も印象的だったのは、慶にとって外国人との初取引となる、ヲルトと茶葉販売の納品のシーン。

やっては見たのの、とにかく品物が揃わない。前銀を貰った手前、「やっぱりできませんでした」は期日に言えない(船がカラで帰るだけ燃料代が無駄になるし)。そもそも自由に外国人と取引していいと言われていないグレーな時に、大っぴらに助けも求められない(ってか罰せられるよ)。何とか言い草をつけて知り合いの茶葉商人から相当量をおろしてもらったり。その顔をつぶさないように、他の茶葉商人には話さず、直接嬉野の農家へ赴き商品確保に成功したり。それでもまだ足りずその農家の家庭用の粗茶(枝と葉とないまぜになったもの)をバルクで買い上げ、自前で茶葉だけにふるい分けしたり。期日までに所定の納品量の9割程度まで集め、若干足りないものの何とか納品が終わりディールが完了したところは圧巻。

私もかつて証券マンで営業しましたが、ノルマが期日ギリギリのところで(大抵最終日に残業しながら)各自電話やPCにかじりつきながら、ホワイトボードでノルマ残が少しづつ減り、すんでのところで全部売り切る、そういう感覚を思い出しました。

ちなみにこの後、慶の茶葉交易は爆発的に拡大し、商いは年々うまくいきますが、好事魔多し、大切な部下に死なれたり、騙されたり、一本調子ではありません。でもだからこそ、もう一発ツイストが来ます。ここもビジネスパースン感涙の「やっぱりコツコツ頑張るのが大事だ」って場面になります。ぜひご堪能を。

 

歴史も学ぶのです

あと、歴史人物が相当数交錯します。

幕末を駆け抜けた武器商人のグラバーや、茶葉商人オルト。どちらの邸宅も現在のグラバー園に移設されていますね。また大浦屋の二階でたむろすることを許すことでいつの間にか支援する形になった、大隈重信亀山社中の面々(坂本龍馬も)が登場。私はこの本で、なぜ土佐藩脱藩兵士が日本の転換期に関わったのかをやっと理解しました。

 

それ以外にも慶の脇を固める頑固頭の番頭の弥右衛門、弥右衛門なき大浦屋を支えた元気キャラの友助、夫を7人持った月花楼の女将のお政など、物語を彩ります。

 

おわりに

ということで、長崎の歴史ものでした。

著者の朝井まかてさんの作品は初でしたが、ちょっと風景描写が多い気がしました。「これっていわゆる心情を表す風景描写か」って国語の受験テクを思い出しました。

なお斎藤美奈子さんの解説は簡便にして的を射ており、読んだ瞬間感想を書く気が失せました。書いているけど。

 

歴史好き、長崎好き、幕末好き、女性のトップランナー系の話が好きな方、お勧めです。

 

評価     ☆☆☆

2023/04/07

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