海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

栄利子の壊れっぷりに震える|『ナイルパーチの女子会』柚木麻子

私、聞かれれば確かに、「読書が趣味です」と答えます。ですが、この10年ほどの読書はどちらかというと現世利益的。私の人生に起こった問題や疑問を解決するべく、手助けとなってくれる本を探して読んでいる感じです。

それでも、本を読んでいて、その繋がりで別の本を読み、予期せぬ「アタリ」を引いたとき。そんなときは、ああ、やっぱり読書って無目的的に、直観や興味に従って読むべきだよなあとかって感じます。

 

で本作。

端緒は、所謂キコクである子どもたちに読ませるべく手に取った朝井リョウさんの作品でした。彼の作品は娘には受けました(息子は無反応)。娘にさらに読ませるべく幾つか追加で購入した朝井氏のエッセイで、彼と悪ノリしていたのが本作作者の柚木麻子氏。ならばどんな人なのかなあって気になりますよね。

結果、娘のためでなく、純粋に私が気になって買ってみた作品となります。

もちろんこれ、「アタリ」だったんです。

 


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ひとこと

いやあ、すごく面白かった!

人との距離の取り方がおかしい女子の壊れるさま、それに巻き込まれる周囲、そして収束するさまが鮮やかに描かれます。ツイストも含んでおり、予想外の結末でありました。

 

主に女性の仲の話ですが

一般に女どうしの仲は難しいと言われることは多いですよね。

実際には星の数ほどケースバイケースだと思うのですが、女性はより過去の発言やその場の状況を詳しく覚えていることの方が多く、人間関係については非常に分析的(この発言が次の〇〇を引き起こした、だれだれがこういったから私はこういい返した、みたいな)になる気がします。人が複数発話しており、大枠では同じ方向なのに、いきおい頑張って微分するもんだから全く違う方向を向いているみたいになり話がこじれる。ってまあ、9割方うちの嫁のことなんですが、そんな気がします。

 

で本作、人との距離がうまく取れないエリート女子の志村栄利子とぐうたら主婦生活のブログが受けている丸尾翔子とが邂逅することから話が展開していきます。

 

肌感覚では7割がた栄利子のぶっ壊れ具合に興味を持っていかれます。思い込みの激しさやこうするべきという「あるべき論」が強すぎて、けっこう読んでてあてられます。

また、中盤以降栄利子をどん底に落とす派遣社員の真織も、かなりイっちゃっているキャラであることが判明。脆さや無常であることを理解しつつも女子との関係の大切さを認識し、夫より女子との関係を最優先、関係の変化を受け入れつつ生き抜くというスタンスは「そつない」を越えて一種の諦観にも見えます。でも、やっぱり依存しあえる女子の取り巻きを必要としているところが脆く(ゆえに怖く)感じました。

ちなみに自分自身は丸尾翔子にえらく共感しました。友だちいないし、実家の家族きらいだ(った)し、多少人生トラブって、最後はつれあいの言葉に救われるという。もうこれ私のことかと笑。

 

しょせん人は分かり合えない?

外国人の嫁をもらって一層思いますが、知り合って25年以上たってもやっぱり分からないところあるし、これからも分からない部分はあろうかと諦めています。これ、国籍や言葉の問題ではなく、人それぞれが違うのだからもう当たり前なのかな、と。

でも、「人は分かり合えない」とニヒルになるのではなく、そうかもしれないけど分かり合えるように努力する。そのために言葉の投げかけを絶やさない。と、こういうことなのではないでしょうか。

もちろん、言うは易し、です。でも、自分もそうですし、作中の栄利子の両親、または、翔子の父親、みんな喋らない。表現しない。でもね、表現しないと伝わらないんです。私も不機嫌になるとダンマリしてしまいます。だけれども、そういうときこそコニュニケーションを取る必要があるのだろうと思います。

まあね、嫌なことがあったら言わないと分からんと嫁にも言われます。じゃあ不満を言ってみようかとぶちまけると三倍くらいの勢いで言い返されるってことがざらにあり、やっぱり不満があるときはダンマリにしとこう、って日もありますよ。ただ、こうした口喧嘩は私には一種のコニュニケーションであり(気持ちよくないですよ)、それが幾星霜たって紡がれた絆(結果論ですよ)になるのかなあと思います。

 

おわりに

ということで、初柚木作品、たっぷりと堪能しました。ただ、少しだけ終わり方がきれいすぎたかな?って思いました。最後の最後で栄利子が妙に物分かり良くなった。一体あれは何が原因だったのか?

 

まとめますと、人との距離感・つながりの息苦しさを非常にうまく描かれている作品であると感じました。また因襲的な考えにとらわれて苦しくなるという点で「傲慢と善良」を想起しました。

本作、人との距離の取り方に自信のない方、女子のドロドロが見たい方、それ以外に普通にエンタメ小説を読みたい方などにはお勧めできると思います。

 

評価   ☆☆☆☆

2023/04/24

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