今年は、セカンドライフをテーマに、老後の生活設計の参考になるような本を選んで読んでいます。
その一環で見つけた本作、名前はモダンで自由な感じでしたが、読後はしこたま暗くなるものでした。反面教師とまでは言いませんが、こうなったら自分はキツイなと。面白かったですが。
ひとこと
驚きました。
本作の記述がどこまで真実なのかは分かりませんが、米国の白人底辺層は本当にやばいのかもしれません。
概要
筆者はジャーナリストで、いわゆる高齢者「ノマド」に取材を繰り返し、その実態をつづり、最後は自らトレーラーハウスを買い込み、まさに高齢者「ノマド」の仲間となりトレーラーハウスのワーキャンパーと行動を共にし、彼らの様子を取材します。
ただ、この高齢者「ノマド」、これがもう、リアル・ディストピア。
登場人物が明るくポジティブであればあるほど、痛々しく悲惨さが伝わってきます。
「夢のトレーラーハウス」ではなく、生活のための最終手段
家賃が払えない、ローンが払えない。高齢で仕事がない。貯金がつきた。
ギリギリの状況から好転させるべく、家を引き払い処分し、なけなしの貯金でトレーラーハウスを買い、つましい年金を受給しつつ、何とか生活を維持する。といっても、当然それでは現金が足りず、高齢者を雇ってくれる仕事場を探して全米を駆けずり回る。
彼らのような存在をワーキャンパーといい、アマゾンはこぞって採用に勤しむらしい。また一部のキャンプ場や農園でも季節労働者としてこうした高齢者を受け入れてくれるそう。
でもその実態は厳しい。
アマゾンの倉庫で一日10時間の立ち仕事。単調な作業の上、70代にもなって荷物の上げ下ろしなどの単純作業。ケガや病気になる人も多いらしい。加えて、大半が健康保険に加入していないため、医者にすらかかれない。つまりは悪循環。
労働場所も永続的ではなく、常に移動を強いられる。移動先では、違法駐車を取り締まる警官や、いたずらをする若者におびえ、隠れるように駐車しながら次の行き先を探し安定しない。
これはつらいですよね。
結局、「ノマド」になる、おおもとの根っこは何か?
で、悲惨さは分かったんです。きつそうだな、ああいう状態に追い込まれたら辛いだろうなって。もちろん、そうなる背後に、病気、離婚、リーマンショック後の資産価値の激減、等々があったっていうのは本書でも度々書かれていました。
でも、できれば、登場人物のワーキャンパーたちのプライベート、あるいは米国で起きている潮流に、もう一段深く迫ってほしかった。
その一端を、確かに筆者はくみ取ってはいるのです。
例えば、こうしたワーキャンパーはほとんどが白人である点。そう、ラストリゾートとして考えられる「路上生活」は、それでもやっぱり白人の特権的地位を生かしての手段ではないかという仮説。確かに、です。これが黒人やアジア人だったら、警官からの職質はもっと厳しかろうし、レイヴみたいに集まっていたら、発砲すらされかねません。
じゃあ、貧困層の黒人やアジア系は「路上生活」を選ぶ代わりに、どのようなライフスタイルを選ぶのでしょうか? 都市に流入し、低賃金での労働を余儀なくするのでしょうか? アルコールや違法薬物に溺れて、ポジティブどころではない生活の中、亡くなってしまうのでしょうか?あるいは血縁や地縁、あるいは教会(宗教)を中心に、互助的活動を行うのでしょうか?
あるいは白人の高齢者「ノマド」の方々。彼らの特徴はどうなのでしょか。離婚・病気・失職、「リーマンショックによってすべてを失った」と言いますが、これらの原因には何があったのでしょうか? ライフスタイルの食い違い? 過剰なローン? 過剰な消費? 変動資産への過剰なエスクポージャ? 金融リテラシーの不足? 不健康な食生活? モラルの低下? それらすべてをひっくるめて「自己責任」? 一部の人は踏みとどまり、一部の人は踏み出す。その分水嶺はいったい何なのでしょうか?
徹底した個人主義とか愚行権とかでは言い表せない、それ以上の共通項が、こうした高齢者「ノマド」にはあるのではないでしょか? あるとしれば一体それは何なのでしょうか? そんな疑問が頭から離れませんでした。
おわりに
ということで、驚くべきドキュメンタリーでした。もう、私は、自分の老後を作中に見ましたよ。ブルル。
読後は、家族をはじめとした血縁のリレーション強化、老後も続けられる小商いの創生、病気・ボケにならないように健康維持、等々、いろいろ考えちゃいました。
本作、老後に不安のある方、米国に興味があるかた、社会保障等厚生政策に興味があるかた、等々にはおすすめできる作品です。
評価 ☆☆☆☆
2023/05/08