海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

大枠のキリスト教史を押さえつつ、興味深い逸話をちりばめた佳作 | 『キリスト教入門』山我哲雄

今年は、キリスト教関連の書籍をキチンと読み込もうと思っておりまして、一年の目標としておりました。気づくと既に6月。そしてこれがキリスト教関連としては今年一冊目となります。

 

しかし、いつも思うのですが、岩波ジュニア新書の「ジュニア」ってのはどの程度の年頃を対象としているのでしょうかね。ここの新書を読むたびに、非常に「刺さる」んですよね。以前読んだのはワクチンの話と砂糖の話でしたが、どちらも知的好奇心をいたく刺激されました。

で書いてて気づきました。そうか、知的レベルでいえば私は確かに「ジュニア」かもしれませんね笑 悲しい~。

 

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ひとこと

キリスト教を勉強してみたくなり、入門書を探しており、こちらを購入。

世界史のバックグラウンドがないとちょっと難しいかなと感じますが、コンパクトにまとまっていると思います。

 

ユダヤとの違いもしっかり

キリスト教を学ぶとなると、ユダヤ教なしには話が進みませんが、ユダヤ教の言わば「閉鎖的」な部分の改良版的に始まった点などは、実はあまり知られていないかもしれません。そうしたキリスト教の端緒やユダヤとの違いは、簡潔で分かりやすかった。

 

宗派の大枠をとらえる

まあ、キリスト教というと、カトリックプロテスタント、正教と分かれていることは多くの人がぼんやり理解していることと思います。本作はそれぞれの流派の歴史をたどるのは当然のことながら、逸話というか、小噺みたいなものをちょいちょい挟み、それが良かったと思います。

 

商売・学問の聖人!? 多神教か?

例えば、カトリックも正教もそうですが、聖人崇敬の話。

キリスト教一神教ということは有名ですが、その一方で聖〇〇とかっていうじゃないですか。立教とかSt. Paulだし、サンフランシスコも聖フランシスコじゃないですか。何なのよ聖って? って感じしませんか? んでもってたまに、聖〇〇に祈りをささげるとか、って洋モノの小説にさらっと出てきたりするじゃないですか。何だよお前、キリスト教って一神教じゃないのかって思いませんでしたか?

本作によるとキリスト教の偉大な貢献者や殉教者などを聖列するといって、簡単に言えば名球会みたいにすげえぞ名簿みたいなのに登録するらしいです。で、そういう方々へお祈りすることで、自分のお祈りを聖人を介して神様に「とりなして」もらうそうな。ややこしいな。あと、神への崇拝はWorshipでそれ以外の聖人への崇敬はvenerationというらしいです。むう。

で、実はこうした区分や整理は、そもそも土着の民俗学的な背景を取り込んで宗教が成り立ったということに起因しているそうです。なるほど。

「宗教史的に見れば、マリア崇敬の場合と同様、聖人崇敬は、多神教的文化伝統を持つ地中海地域(ギリシア、ローマ)や西ヨーロッパ(ゲルマン系諸民族)において、一神教であるキリスト教の枠内で、多神教における様々な職能神の役割を継承し、民衆の現世利益的な宗教的欲求にこたえる働きをしてきたと言えるでしょう。「商売の神様、学問の神様」では困るが「商売・学問の守護聖人」なら差しさわりがない、というわけです」(P.144)

キリスト教に初めて文化的親近感を感じた瞬間。

 

ルター君、炎上か!?

それと、プロテスタントというとルター、っていのが世界史の常識かと思いますが、青年ルター君の話も良かった。自己肯定感の低いルター君は、自分は天国に行くような人間じゃないと悲観していたそうだが、信仰義認説を実存的に理解して、そこから現状の教会組織に疑問を感じ始めたそうな。で、そうした問いをラテン語で貼り付けたのが「95箇条の提題」。要は一部のインテリにだけ分かるようにあえてラテン語で書いたんですね。たぶんシャイなんだな。したら誰かがドイツ語に翻訳し、リツイートしたもんで、バズってヨーロッパ中で話題になっちゃったということらしい。プロテストというより炎上?だったのかもしれません。

 

まだまだ面白い話が幾つかあるのですが、備忘のために書いておくとヘンリー八世の英国国教会成立の話も面白かった。いやあ、良く分からなかっんですよ、国教会ってカトリックプロテスタント?って。このあたりの事情も書かれていて参考になりました。

 

おわりに

ということでキリスト教入門の本でした。

一通り読んで、大学教養課程くらいの濃さはあるなあと感じました。そして興味のない方にとってはもう気絶するほど詰まらなく感じるのでは、と察しました。

 

ということで、キリスト教に興味がある方はもちろん、西洋史・宗教史に興味がある方、西洋文化に興味がある方、美術史に興味がある方、欧米文化に興味のある方等々には楽しんでもらえると思います。

 

評価     ☆☆☆☆

2023/06/02

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