皆さん、年末いかがお過ごしでしょうか。
今回たまたま休暇の消化もあり年末居所でゆっくりしております。
準備のない休暇ということもあり本当に家に居るだけなのですが、思索の時間というか今年一年をじっくり振り返ることが出来て、実にいいじゃないか、と感じています。
来年から敢えて何もしない年末with有給、を実行してもいいのではないか、と考えています。
ひとこと
「風の歌を聴け」「1973年のピンボール」に続く三部作の完結編。
これまでの青春小説とやや趣を異にし、最後はしんみりとした仕上がり。
ってか帯に三部作完結!って書いてあるんですが、アマゾンを見るとさらに「ダンス・ダンス・ダンス」が後続とみなされているみたいですね。あれれ。
相変わらず振りきれている「僕」という存在
本作「羊をめぐる冒険」ですが、「僕」や「鼠」が登場する「風の歌を聴け」「1973年のピンボール」の完結作という位置づけになります。
今回も「僕」が飛ばします。衒学的で、厭世的、そして女性に困らないという、なんともまあ憎たらしい・羨ましい設定です。
読んでいて感じたのですが、この小難しい感じの男性「僕」というのは21世紀前半の昨今、まだイケているのでしょうか。
女性との会話に「そうそう、そういう感じでさぁ」と返すのではなく、「違うんだよ。表現しづらいんだけど、僕の心のひだの底に、澱のようにたまった沈殿物のように「それ」はあるんだよ」みたいな。いちいち日常会話が文学的比喩で満ち満ちている。
もちろんこれはお話の世界ですからアリですが、こういう小難しい会話は私の時代は「かっこいい」と思ったものですが、今はどうなのでしょうか。時代を感じます。
シュールな状況設定も引き続き
そして前作群同様、今回も、状況と展開は予想を超えてきます。
前作では「僕」は翻訳会社を友人と運営していましたが、そこにアシスタントの女性がいましたね。米国からの留学帰りの。本作ではいつの間にか「僕」の奥様に。というか、その奥様と別れるところから本作始まります・・・。
さらに、早速の新彼女は、耳のモデル兼コールガール兼出版社の校正係という変わり種。さらに彼女の耳は特殊な「何か」を聞いているという、ある意味霊感的な能力?の持ち主。
そんなこんなで前作を想起しつつ上巻も終わろうとしているところで、やっとこさ「鼠」が登場。彼から手紙が届き、そして羊をめぐる冒険の火ぶたが切って落とされます。
羊の世界のおわりと「鼠」
この羊ですが、以降の展開、主に下巻ですが、良かったですね。
羊の精(霊?)の憑依と日本の戦中戦後史の虚実ないまぜのストーリー展開は読みごたえがありました。また、羊博士や羊男、さらには右翼の大物とその部下たちなど、特殊な羊の精(霊?)に翻弄された人たちが、ところどころでユーモラスに物語を彩ります。
とはいえ、やはり一番ぐっとくるのは、最後の最後で会えた「鼠」ですね。
相変わらず、かみ合っているのかいないのか分からない「僕」と「鼠」のナイーブ合戦のような会話。でも今回はやはり「鼠」が損なわれる・失われるところにポイントがありましょう。
「僕」が、この喪失感を引きずりつつ受け入れる、一種の諦観のごとき様子が何とも村上作品らしいキャラクタ造形となっているのではないかな、と感じました。
おわりに
ということで村上作品でした。
ミステリと青春小説のミクスチャーのような、それでいて最後はメランコリックな気分になる不思議な小説でした。
本作、村上氏の初期の作品であり単品でも楽しめますが、三部作をぶっ続けで通読してしまうのがお勧めです(時間をおかずに)。村上氏の「くせ」というか作風が良く分かると思います。
評価 ☆☆☆☆
2023/12/27
一応念のため、三部作の一作目、二作目を以下に。
貴重なお時間を頂きまして、有難うございました。