皆さん、こんにちは。
本書のタイトル、インパクトありますよね。死にかけって…。
ちなみに原題は Postcards from the End of America.
「End」の思い切りのよい意訳がすごい。
ちなみに、かなり面白かったです。おすすめ。
光輝き、闇も深い国、アメリカ
米国というのは実に魅力的な国、ではありませんか?
一度住んでみたい、あそこで仕事してみたい、自由そうだし、とか思いつつ、物価(学費や生活費)も高そうだし、政府が何やってるか分からなそうだし、色々怖そう、というのもあります。
一言でいえば、光も闇も深そうな国。
私が読む米国関連書といえば、どちらかというと「闇」を取り上げる本。
意外とひどいですよ、普通以下の人たちは苦労しているんです、移民が多くて結構崩壊中ですよ、みたいなニュアンス。
追いやられた弱者を描く
で、本書といえば、どっちかといえば「闇」側。
本作でもイシューは色々語られます。貧困問題、グローバリズム(工場移転)、エネルギー問題、移民政策、物価高騰等々。
でも、白眉といえば、本書がジャーナリズム一辺倒ではなく、むしろ文学寄りで書かれていることでしょうか。問題の核心を暴露するというよりは、焦点はむしろとばっちりを食らった人たち。あるいは自壊した人たち。
ベトナム系米国人が筆者ということもあり、マージナルな立ち位置のつらみをじっくり湛えたうえでの文章は味わい深いものがあります。もちろん、米国のリーダーたちを声高に非難しているわけでもない。そんな野暮なわけはない。
いや、もちろん、あいつらダメだクソだって文章にはしているんですが、酒場での愚痴程度の重さで飄々と書く。これがまた読んでいて気持ちよい。
いみじくも、帯で岸正彦さんが「バーと路上の文学」と書いていますが、これ、正鵠をえております。まさにこんな感じ。
どうしようもない人たちを、生暖かく描くといえばいいのでしょうか笑 そのユルさが素敵な作品です。
おわりに
ということで、リン氏の作品を初めて読みました。
そして、改めてパンチを食らったのは川上未映子氏のあとがき。
生という死への一方通行を死にかけたまま生きている人類、後天的努力以前の所与に運命づけられたかのような生を恨みつつ、困難な生を死にかけて生きるということ。
ポリティカルコレクトネスの息苦しさに、一歩引き、一刺ししたような攻撃的諦観とでもいったあとがきが、本書の価値を一層あげたと感じます。
評価 ☆☆☆☆
2024/06/20