はじめに
イヤミスの湊かなえ氏による2010年出版の作品。2013年にTBSでドラマ化されたようです。
家族の物語ということで
本作、医師のエリート一家、背伸びして高級住宅街に越してきた一家、そして元から住宅街に住まうハイソも品性の汚い一家、の三つで構成される家族ドラマです。
医師のエリート一家で、家庭内殺人が起きる。
背伸び家族は娘と母が不和で、夫婦のコミュニケーションも疎遠。
ハイソ家族は、息子家族から煙たがれ・・・。
殺人事件が起きたことで、近所であることからこの三家族が絡み合い、当初すました顔で付き合ってきた人物たちが次第に本性・本音を表していくところが良いですね。
相変わらず湊作品では「自我と自我のぶつかり合い」、決して自己の非や他者視点を想像しない(自己の主張を曲げない)という点が強烈で、これは本作でも健在でした。
それぞれに事情あり
もう一つ。
読中にしみじみ感じたのですが、「人は外からでは分からない」ということ。
というのも、そもそも事件の引き金となったのは裕福な医師一家。
長男は実家から離れて医学部へ通い、長女は有名女子高へ、そして次男も私立中学へ進学するという設定。それでも妻には妻なりの(後妻なのだ)プレッシャーなどがあり、事件を引き起こす。
こういうのも、外から見たら一見幸せそう、っていうのはありますよね。
そりゃまあ、わざわざ辛そうに見せる必要もないけれど。
私にとっては近くで見る駐在員たちがそれ。
家賃は会社持ち(私が払う家賃の3倍!を会社が負担)、送迎ドライバー付き、子弟の教育費も会社持ち。ローカルと駐在の給与格差は数倍あり、そりゃ金溜まるわなあ、もっと働けよ、ってちょっと前までは家族の前でも毒づいていました。
でも彼らにも色々あります。
土日も接待ゴルフだったりして、どんどん体は膨れてゆき、疲労は取れず、(一部)家族仲は崩壊したり、大変な人は大変そう。
そういうのをみると、他人を羨ましがるのではなく、自分の幸せのクライテリアをキチンと持たねば、と思います。
家族間のコミュニケーション不足?
さて物語では、背伸び家族でも私立受験失敗をきっかけに娘の癇癪爆発が頻発するようになる。
そして医師一家での殺人事件をきっかけに娘と母親のバトルがピークに達します。
それまで忍の一字であった母親が逆上し、娘を殺しかけます。
そこで思うのが、なんでそこまで怒りのマグマが溜まるまで放っておいたのか。
自省も込めてしゃべると、日本人はほとほと話して解決するということが下手な気がします。一般化しすぎで申し訳ないですが。
とりわけ家族という逃れられない関係においては、喋る以外に関係改善はないというのが持論です。
なお、私も若かりし頃は、本作の彩花のごとく「知らん」「分からん」「どっちでもよい」「話しても無駄だし」と、兎に角コニュニケーションを拒否。親も親でクソ切れることもなく、というよりも各々の生活で忙しく放置、という状況でした。ということで、何だか良く分からない不仲が長く続いたのでした。
今やつれあいが日本人ではないため、伝えないと伝わらない、伝えても伝わらないことが有り、時に喋りたくないことも喋る必要があったりで色々衝突もしましたが、おかげで今夫婦仲も子供たちとの仲も良好。
ただ、私が築いた反抗期の負の遺産、母との関係改善は道半ば、そして父親は痴呆へ突入。最近母親が「話しても無駄だし」的な態度をとります。悲しぃー。
おわりに
ということで湊氏の家族小説でした。
終盤に軽いカタルシスがある点は湊作品としては異例で、それもありすっきり読めました。
感動系?の家族小説は瀬尾まい子氏の作品が一押しですが、ドロドロ系がお好きな方にはこちらがおすすめできそうです。
評価 ☆☆☆
2024/08/12