はじめに
西氏の2010年の作品。8編の短篇からなる作品。
なお、表題作「炎上する君」は映画化もされた模様。
ひとこと
これまで「ことば」の女王として私の中で(だけ?)際立っていた西氏。
しかし、本作を読み、かなりふかぁーく感じた次第です。
何というのでしょうか、彼女の夢・深層心理、はたまた幻想?を本作で追体験しているかのような感覚でありました。
それ程までにシュールで、心を逆撫でするような、ざわっとした肌触りの作品であったと思います。
お気に入り
とりわけ気になったのは、「炎上する君」、「トロフィーワイフ」、「私のお尻」、「舟のまち」、「ある風船の落下」ってか5/8ね。
「炎上する君」
世の中のルッキズム的風潮に反旗を翻した?女性二人組の話。高校からの友人であったこの二人、そこそこ賢く、既に20代にして人生は安定していた。そこで二人は人生の「スパイス」として突如バンドを始める。そのさなか、銭湯につかりつつ聞いた噂「炎上する男」。これは文字通りの足が燃える男、である。
これは見るしかない。二人は炎上する男を探すが・・・。
「トロフィーワイフ」
未亡人の祖母と孫の話。文字通りのそれであった祖母は、金銭的豊かさを享受しつつ、美貌だけだった?自らの過去をちょっと悔しそうに振り返る。「それだけで十分じゃない」と述べる孫は、若さ・美しさに漲り、その恩恵に気づかないのか。穏やかな筆致ながら二人のすれ違いに、そこはかとなく感じる不協和音を忍ばせた筆致は秀逸かと。
「私のお尻」
「尻」のパーツモデルの話。周囲から顧みられない地味な子であったが、「尻」が売れた途端、彼女の人生は輝きだす。仕事もお金も、そして彼氏さえも舞い込んでくる。そんなある日彼女は自らの「尻」に嫉妬し、「尻」と訣別することを心に決めたが・・・。
「舟の街」
心的なダメージがふと迷い込む舟の街。「わたし」はひどい失恋を経て、いつの間にか舟の街へ迷い込んでしまった。そこで出会う人との嚙み合うような噛み合わないような生活。
「ある風船の落下」
自殺願望が身体的影響をかもす病気「風船病」が蔓延する地球。病状のステージは1から4まであり、4になるとその風船(というか人間)はふっと浮き、そして空の彼方へと消えていくという。そんな空の彼方に消えた(死んだ)と思った「私」は世界中からやってきた風船に出会う。これ以上傷つけあわず、人との絶対距離を保つのが良いのか、傷をつけ合っても人と触れ合い生きていくのが良いのか。寓意に満ちたお話。
おわりに
ということで西作品でした。
これまで西作品は結構読んできましたが、私の中では、今のところ本作が彼女のベストではないかと思います。琴線に触れる何かがありました。「ある風船の落下」とか、将来中学校の教科書とかに載りそうな雰囲気。
人間関係に疲れた方、ちょっと落ち込んだ方にはおすすめできるかもしれません。みんな似たようなことで悩んでいるのが分かるかもしれない作品。
評価 ☆☆☆☆
2024/09/08