海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年もセカンドライフ等について思索したく。

遺骨を本土に持って帰る意味とは。戦争を知る人がいなくなる前に |『硫黄島上陸 友軍ハ地下ニ在リ』酒井聡平

 

 

はじめに

北海道新聞所属の酒井聡平氏による、硫黄島遺骨発掘のドキュメンタリ作品。

二万人以上が玉砕・戦死したという硫黄島で一万人以上の遺骨が未だ見つからないという現状、その背景、遺族の気持ち等を描く佳作。

 

なぜ硫黄島なのか

きっと皆さんも、かつての戦地に埋まった遺骨の発掘というのがどのような意味を持つのか、という疑問はあるかと思います。

というか、なぜ硫黄島なのか、とか。

 

筆者の祖父は硫黄島ではなく、連絡中継地として小笠原の父島で勤務していたという。本土から硫黄島は遠すぎて直接連絡が取れなかったためという。その父島で、硫黄島の兵士たちの最期の声(電文)を聞いた一人ということです。

私とほぼ変わらない生年の筆者も、祖母から聞いた祖父の話、また幼い時に(戦争ではないものの)突然父を亡くしたという境遇の近接性から、遺族による硫黄島での遺骨発掘作業にシンパシーを感じられたように思います。

 

その他、戦争を知らない世代ゆえに、硫黄島の遺骨発掘の周辺を歴史的経緯やご自身の経緯とともに丁寧に説明されています。このあたりは非常に好感が持てると思います。

 

進まぬ遺骨発掘と日米密約

著作では遺骨発掘談の高齢化とともに、進捗はかばかしくない発掘作業についての記述があります。

その進捗しない理由の一つが、日本の当局による米軍への『忖度』。

 

平たく言えば、硫黄島は米軍の訓練地。安全保障の要衝として、当地を米軍訓練場所として提供することを許可しているものです。米軍の訓練中は発掘団は来島することができない。というより当局が許可しない、ということのようです。

なお、当局というのは当然の事ながら防衛省です。

 

この忖度の背景にはかつての政府高官と米国高官との密約があるというのは、既視感のある流れです。日本はこの密約を否定し、他方米国では機密期間が過ぎて少しずつ真実が明るみに出てきているというもの。

 

顧みられなかった人たちー当事者の気持ち

ただ、やはり本作で一番心に迫るのは、硫黄島に残された多くの人々の声、記録です。

もう死ぬ以外ない島に送られたとき、自分はもう本土に戻れないけど(生きては帰れない)今戻る同胞を笑顔で送るとき、死を前にして必死に無線で父島に最期の声を送るとき、そうしたシーンの数々の描写は胸をうちます。

 

同様に、残された人々、遺族や遺児の気持ちも、筆者はきめ細やかに綴っています。

 

繰り返しになりますが、酒井氏本人も父を突然亡くした遺児であります。また取材した尾辻秀久参議院議長も戦争遺児であり、彼へのインタビュー・生の声も多くの人の琴線に触れることだと思います。

一家の大黒柱を突然失った苦しさ、その後の母の苦労、自らの夢の変節を余儀なくされること等々。

 

特段の教訓をわざわざ演繹するまでもなく、現在の豊かな生活が送れることへの感謝が湧いて出てきます。また、類似の困難に直面した人に、自分はどれだけ手を差し伸べられるだろうか、と自問せずにはいられません。

 

おわりに

ということで、酒井氏渾身のドキュメンタリーでした。

戦争関連者が時と共に鬼籍に入られてゆくにつれ、遺骨問題は静かになくなってゆくのだと思います。ただ、そこに送られた人々、地元で彼らの死を受け入れざるを得なかった人々、およびその家族や親族たち、多くの人々を悲しみと曲折の人生へと導いた戦争という存在。この憎むべき存在の意味を私たちは改めて考えてもよいと思います。

 

平和が続くことを真に祈念したくなる作品でありました。

 

評価 ☆☆☆

2025/03/17

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