海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年もセカンドライフ等について思索したく。

ことばへの愛、深いコミットメントで、ルーマニア小宇宙を築く |『千葉から引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないまま小説家になった話』済東鉄腸

皆さん、こんにちは。

突然ですが、当方が数年来考えているセカンドライフについて。

 

年金・貯金ともに多くないため、どうにかして就労は70前半くらいまでは継続する方向で考えています。とはいえ、その就労もできれば自分の意に沿う(趣味の延長?得意なものをいかす)ものを、みたいな、まるで夢でも見たような(寝ぼけた)ことを考えています。

現在、東南アジアくんだりですが、海外に居ると英語は概ねできると感じるようになりました。アジアの現地語も多少勉強してすこーしくらいは通じると、やはり言葉を武器にできないかとか考えてきます。得意か不得意かは自分でも分かりませんが、興味だけはあると。

 

頭に浮かび上がる職業は日本語教師、日本人子弟の塾の先生、翻訳家、日本に帰って外人向けツアーガイド、外国人労働者に日本に来てもらう際のリクルーターみたいな仕事、外国人労働者の日本への在留をサポートするために行政書士開業(資格まだ取ってません)とか。

まあ、ネットで調べるとどれも時給が低い(ワーキングプア的に報われない)、参入が難しい、先行者がわんさか居る、みたいなことが分かります。ややしおれます。

 

そうした中であった本が本作でありました。これがまた面白かった。

はじめに

第一印象は正直良くなかった。特にこの、長いタイトル。

何なの?釣りなの?ってかラノベかよ?みたいな。あとペンネームね。鉄の腸って…。

しかし、読み進めていくうちに詳らかになる彼の思い。こいつ、実はすごいかも。これは本にするべき、と感じた次第です。

 

筆者について

本なり検索なりすれば分かりますが、済東氏は1992年生まれ、千葉県出身。大学時代に恋愛失敗を主因に、引きこもりを開始し、就職活動も失敗。同時に映画視聴と評論に注力し、「キネマ旬報」への投稿を繰り返す。

そのさなかに出会ったルーマニア映画に衝撃を受け、千葉に居ながらにしてルーマニア語にどっぷりつかり、遂にはルーマニア文壇でデビューを果たす。

なお、難病のクローン病が発症しているとのこと。

 

トリックはなし

本作は、ありていに言えば、筆者の半生記・エッセーであります。

 

状況を断片的に描写すると(というかタイトル読むと)、一体どういうトリックがあるのか、と考えてしまいます。

引きこもり、クローン病、海外渡航なし、だけどルーマニア語習得、ルーマニア語で作家デビュー。

 

でもそこにトリックはなかった。

あるとすれば、実存を賭した、語学へのコミットメント、語学愛か。

 

選択肢の少ない状況でよくやったな

マイナーなルーマニア語を習得するにあたっての工夫がすごかった。

NETFLIXのサブタイトルを利用するというのはその一例。ルーマニア映画のみならず、他の映画(例えば英語のもの)も英語からルーマニア語へどのように翻訳されているかを分析し、語感をつかむ。

 

Facebookルーマニア人と思しき人たちに一斉に友達申請する。そしてルーマニア語でチャット。これで現代的なノリや言葉が粗々分かるのでしょうね。

 

あるいは、VICEルーマニアの本記事とVICE UK, VICE USの英訳記事を両方印刷し、比較していたとか。ちなみにVICEっていうサイトは、日本語版もあり、どういうものだか確認してみましたが、私の語彙だと「裏モノJAPANグローバル版」みたいな。

 

 www.vice.com

 

 

彼の努力はこれに留まりません(いやあすごいですよ)が、ここまでやればかなりの言語力がつくことは想像に難くありません。

 

そしてマイナーな言語故か、ここまでコミットすると、面白がる人、興味を持つ人、支援してくれる人が出てくる。

彼のルーマニア語への状況は好転してゆきます。

 

ことばへの愛が突き抜ける

実はですね、「引きこもりが外国語作家デビューできるのならば、オレでも出来んじゃね?」とタイトル読んで当初思っていました。

 

ただ、彼は作家になるべくしてなった、言葉への並々ならぬ愛に基礎づけられていると感じました。彼の愛は、私程度の人が「読書が好きです、語学に興味があります」なんていうペラペラな自己紹介の遥か上のレベルでのそれです。

 

詩が好き、試作が好きというのもそうですが、日本語の文芸書のタイトルをルーマニア語に翻訳してみる時の句読点へのこだわりとか、日本語の一人称の翻訳と語調についてとか、応じてLGBTQの立場からした「男らしさ」「女らしさ」への憧憬と一人称の選択とか。

そういうことに紙幅を割いて熱く語れるその熱量よ。

 

まだまだ発展途上ではあろうかと思いますが、彼の言葉へのこだわりと学ぶ意欲、その豊かな可塑性を、読んでいて感じずにはいられませんでした。

 

おわりに

ということで済東氏の半生記エッセーでした。

金・情報などのリソースが少ない中での言語習得の参考になること間違いなし。特にマイナー言語ならば猶更。たぶんマイナー楽器なども、氏の方法をなぞることで繋がりを増やしつつ習得ができそうな気がしました。

 

語学、言葉に興味がある人にはお勧めしたい一冊。

 

評価 ☆☆☆☆

2025/03/30

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