本作概要
本作『対馬の海に沈む』はフリーのジャーナリストの窪田新之助氏による、JA対馬所属の社員の自死と、彼の起こした不正およびその原因について迫る力作であります。
本作で第22回開高健ノンフィクション賞受賞。
組織ぐるみの不正、巨大なノルマ、崇められる「神」
一言でいうと、本作、まるでスリラーのごとく面白い。ぐんぐん読める。
共済販売を手掛けるスター役職員の自死から、彼が行っていた壮大な不正が次々と明らかになるという流れ。
あろうことかその不正はむしろ組織ぐるみで行われていたこと。更には、その不正で彼の上司や地域統括的な人たち、あるいは共済の名義人(お客さん)までもが意識的・無意識的に不正にかかわり、その不正のおかげで「おいしい」思いをしていたこと。
加えて、過去にもこの不正を告発した職員がいたものの、ことごとく潰され左遷をされてきたということ。
ただ、こうした事態を引き起こした理由の一つは圧倒的なノルマ。
人口や過去の販売状況に関わらず中央から一方的に降ろされるノルマ。これをやり遂げる・どうにかするために、評価方法を熟知した社員がこれを不正当事者に教え、当事者は拠点、いや、エリアのノルマをも広くこなし、やがて救世主・神となっていきます。
最終的に彼は自死を選びますが、歴史的な土地柄、組織ぐるみの不正、告発者の左遷、不正当事者の権力の潮目の変化など、あたかも小説かのような展開に驚きが隠せませんでした。
読後に自身の過去を思い出す
私、読中から自己の辛かった時代を思い出しました。
かつて証券会社でどぶ板営業をしていた経験があります。
これ、一言でいうと、人をおかしくします。
厳しいノルマ、年功関係ない完全実力主義。論理とかロジックとかが分かる職員が偉いのではなく、人をたらし顧客の金を回転(売買)し、手数料が稼げた奴が偉い。顧客に損をさせても、手数料を稼ぐ奴が偉い。その方便を考えて本気で顧客に迫ることを続ける奴が出世します。
言ってみれば、弱肉強食のジャングルのような職場でした。
そんなストレスあふれる職場ですから、不正(顧客の資金ちょろまかし)もたまにあり、職場不倫(役員がやめたこともあったなあ)や連夜の酒浸りは常態でありました。
幸い不正はせずに辞めましたが、あのままいれば心を病むか、体を壊すか、身持ちを崩すか、していたと思います。
そんなことを思い出させる作品です。
おわりに
とういことで、最近話題のノンフィクションを読んでみました。
ノンフィクションを読んでいて度々思いますが、気の毒なのは、不正当事者となった方の家族の方々。
当事者にはお子さん方もいらっしゃったそうですが、普通に育ってくれればと願わずにはいられませんでした。
読み物としては抜群に面白い、小説のようなノンフィクションでした。おすすめ。
評価 ☆☆☆☆
2025/04/22

