皆さん、こんにちは。
いきなり申し訳ないですが、ちょっと死の話を。
人は皆死にます。
私たちは、頭ではわかっているものの、普段はこの事実を忘れたかのように生活していると思います。そして、人生における優先順位を取り違えたり、大切なものを無視してしまったりする。
「頭ではわかっている」ことすら再帰的に・鳥瞰的に理解しているのに、それでも死はリアリティを消し去って私たちの日常から身を隠しているかのよう。そして、近しい人の死だったり、自身が健康を害したとき。突如として死は私たちの眼前に立ちはだかる。
本当の意味で認知するのがなかなか難しいと感じます。
で、今回取り上げたのはがんサバイバーによる手記でありました。
はじめに
2004年に『あおい』でデビューした西加奈子氏。その後2014年に『サラバ!』で直木賞受賞。
本作は2019-2022まで滞在したカナダ・バンクーバーでの生活とそこで受けた乳がん治療にまつわる話をまとめたもの。
重病告知と感情の揺れ
やはり一番印象にあるのは、乳がん告知とその後の投薬治療や手術の様子。再建をせず全切除したことやその理由などが語られていました。
同時に、彼女を取り巻くカナダの医療体制(無料であるとか、予約が取りづらいとか、ウォークインだと数時間ザラに待たされるとか、結構適当?だとか)についての事情なども興味深く読みました。カナダは看護師や医者も私服然としていることが多いとか。
で、ここで面白いのは、西さん、現地の方の発言はすべて関西弁で記すのです。
『相変わらずめっちゃええ静脈やん! 針刺しやすいわ~!』(P.47)
上記、看護師さんの発言。まあ至る所関西弁。ですので、重い話であるのに湿っぽくならない。なんなら明るい! ただ、西さん本人の感情や場景描写は標準語なんですが笑
カナダと、日本リフレクション
それ以外にも、カナダ(ヴァンクーバー)の雄大な自然、広告の穏やかさ、雰囲気などについても色々書かれています。欲を掻き立てるような広告が少なく、商店や喫茶店の運営も過当競争というより、なんというか適当笑
こうしたゆったりとした生活を味わった後ですから、日本への一時帰国のくだりでは、その彼我の差をありありと書いておられました。特に自宅のある東京の具合。
迷惑をかけてはならない(小さな子ども連れなのに)、人が多い、欲望喚起、情報過多、ギスギス。
話は文学にも及び、国土の狭さ・密度の高さからか、日本文学は広くというより深さを志向する点が特徴なのでは、ということでありました。
非インスタントな彼女の世界
そして、これはあとがきだったかな。西さんが語っていました。
近年、SNSやネットの影響で、道端の美談も一瞬で世界中に伝わるようになった、と。
でも、彼女はそういうインスタントな伝達にはネガティブな様子。体験した本人だけにとどまるべき快・不快、のようなものがある、と仰います。故に、本作でも、書きたくない不快な事実も敢えて公開し、書かずにおいた素敵な出来事もまたある、ということでした。
上記、適当なサマりで申し訳ないですが、このあたりの考え方は深く共感します。
私は過多に情報に被爆したくないし、家族を情報に過度に被爆させたくもない。というか、あらゆる情報にアクセスできる、他人からアクセスされるってしんどくないか? そういうことで私はFacebookもInstagramも数年前にやめてしまいましたが。もう数年したらLinked-inもやめたい。。。
テクノロジーの便利さは享受しつつも、生き方にも更なる工夫が必要であると感じた次第です。
おわりに
ということで、西さんの乳がん体験記でありました。
悲痛であってもおかしくない話なのに、超訳関西弁もあり、なんともユーモラスな作風でした。それでいて彼女の感情・想いもストレートに伝わる作品でした。
女性の方のみならず、海外在住(予定)の方なども一度読まれても良いのではと感じました。
評価 ☆☆☆
2025/05/02

