海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年もセカンドライフ等について思索したく。

翻訳の世界+大御所の翻訳の姿勢、を垣間見る |『翻訳夜話』村上春樹 柴田元幸

概要

本作は、作家でありながら翻訳にも精力的に取り組む村上春樹氏と、東大で長年教鞭をとり現在は名誉教授教授の柴田元幸氏の対談集。一つは東大の生徒を前にしたもの。もう一つは翻訳会社のフォーラムにて。

更に、同じ文章を村上氏と柴田氏が翻訳したもの2篇、その原文、またこれらを踏まえて他の(当時の)若手翻訳家たちとの座談会を行った様子も、併せて収録されています。

 

なお本作は2000年の出版。もう25年も前の話なのですね。

 

憧れの世界は、やはり厳しい!?

翻訳の世界。憧れがあります。カッコいいなあって。

でもgoogleで「翻訳 デビュー どうやって」とか「翻訳 英語 収入」とかで見てみると、余りいい話は出てきません。

翻訳学校に行って、卒業後はそこ経由でちいさいお仕事を貰いつつ、出版社らの依頼にきちんと従う、なのに仕事はあまり回ってこない、など。

新参者には厳しい世界であることを感じました(まあ、いい話・おいしい話などの情報の非対称性は、ネットがゆき渡る現在はすぐに消散してしまうのでしょうが)。

 

そこにあってこのタイトル。夜話、ですよ。

昼は平気でうそをつく、というわけではありませんが、夜に話すというのは、やはり本音や打ち明け話ではないでしょうか。ましては宴会ではなく、少人数で語り合う。

きっと、忖度なし、隠し事なしの話が聞けるのだろうと期待が膨らみます。

 

翻訳の姿勢の違い、柴田氏の場の仕切り

で、読んでみると、村上氏がえらく飛ばしているなあ、という印象笑

その翻訳のattitudeですが、これ本当に感覚的に申し上げると、フィーリングの村上氏と、基本メソッド+臨機応変の柴田氏、という印象を受けました。

 

翻訳をするにあたり、作家への思い入れや、感じるものがあるものを訳したいという村上氏。実際それを行ってお金を稼げているので素晴らしいことです。

他方、職業翻訳家はそうはいかないでしょうし、ある意味依頼が来ても断らない(断れない?)ことは多い気がします。

故にか、場を仕切る柴田氏は、そつなく村上氏をいなし、否定はせずにうまく対話や座談会を回していた気がします。

 

そういえば、村上作品を英語に訳す米国人翻訳者についても書いてありました。一人はハーバードの先生でかっちり訳す。もう一人は正体不明?の人で味のある訳し方をするとか。で、村上氏はどちらもそれでよい。作品の雰囲気を保ってくれれば細かいことには困らない、という話をしていらっしゃいました。

 

2人の翻訳を味わう

さて二大巨頭の訳の競演ですが、”Collectors”(Raymond Carver)と”Auggie Wren’s Christmas Story(Paul Auster)”が選ばれています。

 

これがなかなか面白い。

 

スタイルとか味、という観点で行くと、私は断然村上氏の訳が好みです。

なんというか、まとまりというか、すごく型があるように感じて、味わい深い。

他方柴田氏の訳は、正しい翻訳だったり、適切な意訳だったり、二篇とも理解度は村上氏を上回ると感じました。ただ、良くも悪くもクセがない印象でありました。

 

因みにAuggie Wren’s~ の翻訳で、ワインを二本ばかり、という訳がありました(偶然にも二人とも全く同じ訳)。

訳を読んだとき、二本ばかりの原語ってなんだろう?って思っていました。原文を見ると a couple of bottles of wineでありました。学校英語だと、a couple of で可算名詞を2つ、というのは習いましたが、訳すときは「ばかり」と付加しているんですね。こうするとぐっとこなれた感じが出ますよね。へー。

 

おわりに

ということで村上氏、柴田氏の対談集+α、でした。

翻訳を行う方々の本音が垣間見えて、面白い本でした。また二人の翻訳の違いがはっきり出てくるこうした訳文公開企画もなかなか面白いと感じました。

やや古いのですが、翻訳の現場がのぞける貴重な作品であると感じました。

 

評価 ☆☆☆

2025/05/18

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