海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年もセカンドライフ等について思索したく。

狂気の一歩手前で、この現実を生きる |『世界の果て』中村文則

はじめに

中村氏の作品は久しぶり。

本作は短篇4つに中篇1の併せて5篇の小説からなる作品。相変わらずの中村味となっています。

なお本作、2009年の作品であります。

 

自分が辿ったかもしれない人生

どういうのが中村味、というか中村氏のテイストかというと、わたし的には、ノワール・狂気の手前・性に翻弄される・時にシュールすぎる、こんな感じでしょうか。

 

かつて若い頃は、強い性欲を感じたことや、周囲への怒りや自分への怒り、自分の命を止めてみたい希死念慮であったり、そういう気持ちを感じたことがありました。中村作品を読むと、その当時の不安定な自分を思い返しますし、小説でありながら有り得る話かもな、と感じてしまいます。

 

概要ちょこっと

氏の作品はぶっ飛んでいるので、なかなか説明するのは難しいのですが、私は以下の通り感じました。

 

 

「土の下の子供」…氏の芥川賞受賞作『土の中の子供』と呼応するように書いた作品とのこと。施設育ちの「僕」が人生のポイントポイントで幽霊を見たというもの。そのストーリーは、幽霊の現前にあわせて、鬱屈した人生・他人に合わせながら生きる主人公の諦観・その中に仄かにその存在が確認できる生と性への欲求、等々が描かれているように感じます。

 

「ゴミ屋敷」…こちらはよりシュールな星新一的作品。ただし星新一氏の作品よりエログロ風味入り。とある男性は妻を突然事故で失う。そのショックで寝たきり・意識混濁の状態へ。夫婦ともに両親は他界していたため、その男性の弟が兄の介護をすることに。兄は程なく肉体は回復し(ただし会話・意思の疎通は不可)、夢遊病のように鉄筋や鉄くず等を集め、家をゴミ屋敷とし、さらにゴミを高く高く積み上げる。住民からの反対運動をうけつつ、最後にそのゴミ屋敷が崩れ、下敷きとなった兄は、その後意識を取り戻して普通の人生を歩み、72歳で死んだとさ。

 

「戦争日和」…本作中、最も短い作品。猫の交配を行っていた主人公男性が自殺を企図し、自殺場所として、とある賃貸住宅を借りる。ところが仲介業者の男性はそれを察知していた様子。主人公男性は部屋の中で自殺企むが、威圧的な仲介業者男性に踏み込まれ…。

 

「夜のざわめき」…これまた不思議な作品だった。作家が主人公。自分がつけられているのが分かったが、振り向かないように帰り道を進む道すがら、自分の覚えていない知り合いと会う。その知り合いに飲みに誘われ、強引に居酒屋に連れられるもつけられていたため話にのる。その居酒屋、繁盛しているようで、奥へ通されるが、すでに知り合いを見失い、自らどこへ行けばよいか確認しながら進むが、なかなか思いの部屋にたどり着けない。そこへ無口な女性が現れ、作家とともに「行くべき」部屋を探り当てるべく、居酒屋ラビリンスを彷徨う。

 

「世界の果て」…筆者初の連作とのこと。突然犬が部屋で死んでいるという男の話から始まる。連作が結実してくるのは後半部分であるが、シュール、ノワールで、前半はなかなか読むのが厳しかった。内容は端折ります!

 

おわりに

ということで久しぶりの中村作品でした。

そうそう。氏があとがきに、世の中明るい小説ばかりなので、こういう暗いテイストのものがあっても良いのではないか、ということを書いていらっしゃいました。

これ、同感です。

人間、正しいばかりではなく、狂気を含んだ部分もあると思います。そういう部分を淡々と描写する作品に、私は仄かな共感すら感じることが有ります。

 

ただ、万人受けする作風では決してないでしょうねえ。

 

評価 ☆☆☆

2025/10/04

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