海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

シニシズム、あるいは偽善者の欺瞞を描く |『死者の奢り・飼育』大江健三郎

 

はじめに・思い出

大江健三郎氏の初期の作品。表題作の「飼育」にて芥川賞を受賞。

 

本作も再読するのはかれこれ30年ぶりくらい。大江健三郎氏といえば私が大学に入った1994年にノーベル文学賞を受賞した方。

名前は知っていたものの読んだこともなく、同賞受賞がきっかけで私も読んだものです。当時仲の良かった先輩は「当初はとんがっていたのに、障害のある子どもが生まれた途端ヒヨった文章になった」と評していたのが今も脳裏に焼き付いています。

 

印象

芥川賞受賞の表題作「飼育」を含む初期の短編をまとめたもの。

ほかにもノーベル賞も受賞。受賞理由はからっきし意味不明ですが、NHKの方の解説を読むと、どうやら現代日本社会を描いたから、ということ!? よくわからん。

www.nobelprize.org

www3.nhk.or.jp

 

ただ、本作を読んでありありと感じたのは、偽善へのシニカルな目線・退廃的ムード・諦めと閉鎖性、このようなワードが思い浮かぶ作品群であったと思います。

 

六つの短編

以下は作品の寸評です。

 

「死者の奢り」・・・表題作。解剖用死体を大型水槽からもう一つへ移し替えるというバイトをした「僕」。場面設定が特殊であるものの、得も言われぬ退廃的なムードが印象的な小品。

 

「他人の足」・・・未成年の脊椎カリエス患者を収容した一種の閉鎖病棟の話。退廃的な慰みを看護師に強要?しているような病棟であったものの、とある「新入り」大学生患者が皆を感化し良化していく。しかし、最後にこの大学生が何とかここを出ることが出来るとなると、もとよりいる患者を汚らわしいものを見るかのように突き放す。ここに善意の欺瞞の薄っぺらさが見て取れる。

 

「飼育」・・・とある隔絶された村に不時着した米軍飛行機。生きていた黒人兵を指示があるまでその村にとどめおく(まさに「飼育」)様子を綴る。牧歌的な交流が大部分を占めるも、移送される段になり、黒人が逆上し、最後はあっけない結末に。

 

「人間の羊」・・・占領下のバスでの出来事。米兵に屈辱的な仕打ちを受けた「僕」と、眼前では無抵抗の観客であるも、事後の「僕」に告発させようと躍起になる「教員」との偏執狂的やり取り。居合わせた当事者としては何もしなかった「教員」の第三者的物言いが鼻につく。これもまた「外野」の偽善的欺瞞が匂う作品。

 

「不意の唖」・・・上記の「飼育」を彷彿とさせるとある山村。今度は米兵とその通訳がこの村に訪れる。強い側についた通訳の高飛車な態度が次第に村人の気持ちを逆撫でし、遂に通訳は。。。ホラーチックな作品。

 

「戦いの今日」・・・朝鮮戦争時の日本で、米兵に脱走を唆すビラを配る兄弟。ちょっとしたバイト感覚のビラ配りも、脱走志望者が出てきてたじろぐ兄弟。引き受けたくない兄と、何とかしたい弟。結局かくまうことになるも、とある晩に脱走兵に潜むアジア人蔑視を嗅ぎ付けた兄は当の兵士をぼこぼこにして。。。

 

おわりに

ということで久方ぶりの大江作品でした。

とんがっていてなかなか面白かったです。他の作品もまた読んでみたいと思います。

 

評価 ☆☆☆☆

2024/04/18

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