海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年は世界史と英語を勉強します!

英語多読の入り口に。内容は相当優しめ―『The MAGIC FINGER』著:ROALD DAHL


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 先日マチルダという作品を読んで、おっさんのくせに相当感動しまして、同じ作者の本を娘の処分書籍の中から発見、読んでみました。

 

 はい、こちらはマチルダとは打って変わって、とてもシンプルなお話で、ものの一時間で読み終わる小品です。

 

 魔法の指を持つ女の子の話。ただメインの話題は、その子に魔法をかけられたハンティング好きの一家の顛末です。狩ったカモの家族と狩り好き家族が魔法の結果入れ替わり、色々困った挙句、心を入れ替えて今後は動物に優しくする、というような筋。

 

 英語は文法も単語も簡単なので中学生くらいから読めると思います。内容は小学生低学年程度か。

 

 そんな本ですが、これはいいねと思ったのは、巻末にダール氏の簡易バイオグラフィーが載っていることです。両親ともノルウェー人とか4人兄弟とか。それから挿絵を描いているブレイク氏との出会いも数ページを割いて書いてありました。

 こういう情報は、作品を味わう上では全く不要な話ですが、作品に興味が湧くと併せて作者ってどんな人だろうと思うので、出版社としてはまっとうな方向を打ち出しているかなと思いました。

 

おわりに

 ということで評価としては高くないのですが、内容が良くないというよりも、自分が再読したいか・他人に是非にでも薦めるかという点で言うとそこまででもない、ということでつけさせてもらいました。英語の本としてはレベルは初歩ですので、英語に自信をつけたいという方や、読むのが実際に小学生のお子さんなら普通におすすめできます。

 

評価 ☆☆☆

2021/02/12

 

The Magic Finger (Dahl Fiction)

The Magic Finger (Dahl Fiction)

  • 作者:Dahl, Roald
  • 発売日: 2016/04/26
  • メディア: ペーパーバック
 

 追記:

Roald Dahlの作品は内容に結構ばらつきがあります。こちら、内容は小学校低学年向け

ある意味サイコな小学生とその家族の話(英語の童話)―『GEORGE’S MARVELLOUS MEDICINE』著:ROALD DAHL - 海外オヤジの読書ノート

こちらは優しい巨人と共に英国を救う女の子話。小学校中学年(3,4年生)向けくらい。

児童書を英語で楽しもう!勇敢な女の子と巨人が英国を救う!―『The BFG』著:ROALD DAHL - 海外オヤジの読書ノート

MATILDAは個人的にはDAHLの最高傑作。小学校中高学年向けくらいか。

大人も十分に楽しめる児童小説!映画版はお勧めしづらい・・・―『MATILDA』著:ROALD DAHL - 海外オヤジの読書ノート

多民族国家中国の歴史。こりゃまとまらないはずだわ―『世界史とつなげて学ぶ中国全史』著:岡本隆司


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 中国というと我々の多くのイメージは中国共産党とか、共産主義とか、中華料理とか、門切り型のイメージを持っていることが多いと思います。

 本作はそのような通り一辺倒な中国のイメージを壊すとともに、作品名にある通り、日本やその他の諸国の歴史と関連付けることで中国史をより理解しやすくする作品と言えます。

 

実は中国って多民族国家!?

 本書を読んで一番感じたのは、中国はとにかく多民族だということです。元という国がモンゴル系ということは皆さん日本史で習ったと思いますが、後の清も実はツングース系民族の王朝であり、漢民族のものではありません。4-5世紀を五胡十六国時代と言いますが、この五胡も5つの胡族の国ということであり胡族とは華人以外の蛮族の意味です。現在も50以上の少数民族が暮らしていると言われています。当然のことながら異民族同士で文化や習俗は異なりますね。

 つまり我々がイメージする漢人中華思想に基づく王朝を打ち立てた時代は、意外にも中国の歴史のなかではそこまで長くはないのです。

 

 外国が日本に持つ単純なイメージ(寿司、アニメ、勤勉)はすべての日本人に当てはまるわけではないように、我々日本人が外国に持つイメージもまた、得てして正確ではない可能性が高のではと考えてしましました。もちろん国民性といった一般的な性格はあるかもしれませんが、それとてグローバル化された社会では徐々にまだらになってきているのではないでしょうか。中国とか日本とかにかかわらず。

 

中国の多様性の現代的な意味

 ちなみに、中国の多様性についてですが、この多様性が現在の中国の悲劇を表わしているように思えてなりません。

 本書でも触れられていますが、日清戦争以降の負け戦が続く中国で、国民国家を目指して辛亥革命が起き、第二次世界大戦を経て共産党一党体制が現在も続いています。しかし、こうした国民国家の理想がいかに難しいのかは、中国の現状を見ればよくわかります。ダライラマはインドへ亡命し、チベットは厳しい弾圧を受け、新疆ウイグル地区では今も人権侵害を他国から指弾されています。

 つまり、そもそも中国人という国民概念はいわば幻想であり、漢人満州人(清王朝の辮髪の人達。ラーメンマンの感じ)、モンゴル人(遊牧民)、ウイグル族ムスリムの多い中央アジア人)、チベット人という別個の歴史と文化を持つ別々の民族なのです。さすれば共産党一党独裁で何とか70-80年ばかり来ましたが、そもそも一つの国としてまとめるには無理がありそうなのです。さすれば中国人というアイデンティティはどこまで浸透しているのか、と疑問に思った次第です。

 ソヴィエト連邦崩壊後、ヨーロッパではユーゴスラビアが内戦に陥りましたが、そこには国民国家というよりも民族や言語或いは宗教にこそアイデンティティを感じていた人々が多かったのではと想像します。

 今後の中国がどうなるかわかりませんが、平和でいてくれることを願うばかりです。

 

世界史との絡み。新しい視点も。

 その他、幾つか見られた世界横断的な歴史分析も良かったです。たとえば中国発の統一王朝である秦の始皇帝、実はローマ帝国の統一とほぼ同時期のBC3世紀とか、3世紀に起こる気候の寒冷化により、中国では遊牧民族(胡族)の南下による侵略を、西洋ではゲルマン大移動を引き起こしたとか、です。

 また、貨幣に関する記述も見られ、興味深かった。例えば元の中統鈔という紙幣は銀との兌換が可能だったとか(結構すごいことだと思いますよ)、清朝で中国の輸出が激増したのはヨーロッパ各国が金兌換を開始したため銀の価格が落ちたため(つまり通貨安による輸出増)とか、政治史に隠れていて日が当たらない中国経済の一端が見えた気がしました。

 

おわりに

 今更ですが、本作の内容は、おおむね高校世界史の教科書に書いてある事項だと思います。なので、しっかり世界史を勉強された方には、なあんだ知ってるよ、という感覚を持たれるかもしれません。しかしながら、中国史を個別に学びたいというニーズがあるときは、本作は非常にコンパクトかつ優れた本だと感じました。また、決して中国は一通りではないということを再認識させてくれました(この点は強調したい)。

 ですので、本作につきましては、どちらかと言うと初心者向けかもしれません。ですので、世界史未修者や中国史を通して勉強をしたい方にはお勧めできます。あと、中国と関わりのあるビジネスマンにとってはこの作品の内容は最低限度の中国史知識かもしれません。以前教養レベルが高めの中国の方とお話した時、奥様との民族の違いをジョークのネタにされていたことを読後思い出しました。

 

評価 ☆☆☆☆

2021/02/16

普通に面白いけど、なぜが批判が多め―『R. P. G.』著:宮部みゆき


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 まず申し上げておきますと、私としては可もなく不可もなく、普通に楽しく読めました。

ところが、この作品を本嫌いの息子(唯一東野圭吾だけは読む)に押し付けてみたところ、読了後、何かあんまおもしろくなかった、と。同じく日本語のいまいちな中一の娘(こちらも一部の東野圭吾は楽しく読めるらしい)に読ませててみたところ、これまた途中で挫折。

 面白く感じたのは私だけかとAmazonで評価を見てみると、もう罵詈雑言に近い評価もちらほら。。。

 

 そこでここでは、いまいち低評価が多めな理由について考えてみたいと思います。

 

ちなみにあらすじ

 ある日「お父さん」が殺される。

 ネット上の疑似家族「お母さん」「カズミ」「ミノル」が容疑をかけられるが。。。現実世界でそれぞれ悩みを抱える現代人が、ネットに安息を求めるが、現実の問題は解決されないまま悲劇が起こる。

 

前提条件が呑み込みづらい

 では考えてみたいと思います。

 本作は宮部氏の代表作の一つでもある「模倣犯」「クロスファイア」のキャラクタを登場させています。どうやらうちの子たちにはこのあたりに原因がありそうだと思いました。で

 

 まず、上記で挙げた作品の登場人物についての説明や描写が少ない状態で物語を展開していったように私は感じました。ここが性急で、読者は追いつけないのではないでしょうか。え?誰この人、みたいな。

 今回の主人公の武上刑事についてはデスク担当という、一般に馴染みのない裏方であったためかきちんと描写がされています。しかし、その所属の長との年齢関係、隣の係のデスクとの関係、またほかの刑事との関係(階層や年齢)については確かにいまいち分かりづらいと感じました。

 

登場人物が多すぎる?

 加えて、上記の説明不足に次いで感じたのは、登場人物が結構多いということです。刑事だけでも、武上、石津、渕上、鳥居、葛西、佐橋、中本、神谷、秋津、徳永、下島、立川、とぱらぱら数えただけでも12人。更に事件の関係者である疑似家族の「父さん」「母さん」「ミノル」「カズミ」そして実際の家族関係者と容疑者。

 個人的にはやはり刑事が多すぎて混乱させる部分があるのかなあと振り返って思いました。

 

おわりに

 あらためて申し上げますが、個人的には楽しめたのです。可もなく不可もなく。きっと「模倣犯」「クロスファイア」を読んでいればより楽しく読めたのだと思います。逆にこれらを読んでいるかたはスピンオフ的に楽しめるのだと思います。

 

評価 ☆☆☆

2021/02/09

大人も十分に楽しめる児童小説!映画版はお勧めしづらい・・・―『MATILDA』著:ROALD DAHL


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作品について

 イギリスの児童作家として有名なるロアルド・ダール氏の作品。

 守銭奴中古車ディーラーの家に生まれた天才児マチルダ。1歳半で完璧なスピーチをこなし、3歳で新聞を読む程であったが、親には恵まれない。父親からは嘘つき呼ばわりされ、母親からはネグレクト状態。長じて学校に通うようになり、担任のミス・ハニーにその才能を見出されるも、恐怖の校長トランチブル女史が立ちはだかる。マチルダは果たしてこの壁をどう超えるのか。。。。

 

感想

 いやー、面白かった。毎日一定量を読もうと思っていましたが、どんどん面白くなっていき、最後は一気読みで読了しました。220ページ程の長さですが10日位で読了致しました。

 

チルダが可愛い!

 まずはこの主人公マチルダの描写が可愛い!毒親に囲まれながらも、いじけず健気な態度に心打たれます笑 そして倍返しでは済まないような酷い仕返しを行うところが痛快です。また、こどもが背伸びした態度や言葉遣いをする様子も描写されてて、とっても可愛いです。マチルダの場合はマジで頭いいっていう設定ですが、頭の良し悪しではなくて心が純なところがいい。

 

ミス・ハニーが物語の展開点に

 さらにこの作品にひねりを加えるのがミス・ハニーです。マチルダの唯一の理解者である一方、過去に心の傷を加えており、後半はこの人物の過去を因としてストーリーが大きく展開します。このミス・ハニーの存在があることで本作は大人の読書に耐えうる深みが出ていていると思います。

 

英語

 実は英語は結構難しいと感じました。鬼校長がこれでもかと周囲を罵倒するのですが、アホ(twit)、山賊(brigand)、クソガキ(bad brat, stinker)、ちび助(midget)、ニキビ野郎(carbuncle)とか、およそ学校では習わないような単語が目白押しでした(結構真面目に調べて堪能しました)。でも、挿絵を描いているクウェンティン・ブレイク氏の絵が随所に書かれており、高校卒業程度の英語力があれば、辞書を使わなくても概要は理解できると思います。
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挿絵が素敵じゃないですか?笑

 

映画化

 なお本作は映画化されている作品ではありますが、映画はイマイチお勧めしかねます笑 せっかくのロアルド・ダールの雰囲気が余すことなく矮小化され、ドタバタハリウッド子供映画に矮小化されています。ネットフリックスで見てみましたが、まあ別物として取り扱うべきでしょう。

 

Matilda [DVD]

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  • メディア: DVD
 

 

 

おわりに

 今回も本棚整理の一環で娘の「おさがり」を読みました。

 子ども向けにもかかわらず、途中で大きなツイストがあったり、プロローグでは親の子を思う気持ちなんかも書いてありして、親の気持ち「あるある」も味わえるところも良かった。単語はちょっと小難しいけど、ボキャブラリービルドも目的としてあったので私には適切な難易度だなあと思いました。

 英語を勉強したい大人、子供が好きな方には楽しんでもらえると思いました。

 

評価 ☆☆☆☆

2021/02/11

 

Matilda

Matilda

  • 作者:Dahl, Roald
  • 発売日: 2007/08/16
  • メディア: ペーパーバック
 

 

 

16世紀以降の大航海時代、日欧亜を東インド会社を通じて俯瞰する―『東インド会社とアジアの海』著:羽田正


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 世界で初の株式会社と言われる東インド会社

 

 若い時、株屋で営業の仕事をしていたものの、歴史については全く不勉強だったため、「君、東インド会社、知っているよね?」とお客様に問われても、「はい、全く知りません!」と自信満々に断言して笑いを取るくらいしかできなかったものです。

 

 年を経て改めて歴史を学んでみると、なんと東インド会社が一つではない!驚きました(レベル低くてごめんなさい) イギリス、オランダ、フランスが類似のコンセプトの会社を(中身は違うけど)営んでいました。

 

 本作品は、そのような東インド会社について詳述した読み応えのある作品です。

 

大航海時代の東西を東インド会社という横糸でつなぐ

 本作でためになったのは、東インド会社が隆盛を極め衰退していった時代を、各会社ごとにヒストリカルに見るのみならず、時に会社を並列に比較したり、同時代を横でヨーロッパ、東アジア・日本と、俯瞰する試みも行っていることです。縦横無尽。

 

 長崎の出島は、江戸時代はオランダとの貿易拠点であったことは多くの方がご存じだと思います。でも、その時のオランダはじめヨーロッパや他のアジア地域がどのような状況であったかは、なかなかピンとこないのではと思います。

 スペイン継承戦争宗教改革を背景にイギリスの私掠船が増加、オランダはアジアとの独自の交易ルートが必要になりました。東シナ海では鎖国をしている日本の沖合で倭寇が存在感を示し、明の海禁令をよそに貿易業に勤しむ。列強は時に武力で、時に乞われて、インド、マレーシア、インドネシアに拠点を構え、交易を盛んにし、アジアでは東西が混じりゆく社会が形成されつつあった、などです。

 このような、いわゆる「横串」で歴史を見ると、歴史のうねりのようなものが感じられ面白いなと思います。

 

当時のマージナルな存在の取り扱いの違いも興味深い

 もう一つ本作のカバレッジで興味を引いたのは、西洋の進出と共に必然的に生まれてくる混血児やその二世など、マージナルな方々の記録にスポットをあてていることです。

 本文ではイタリア人を父としたお春について記述しています。父親が亡くなったとたん、母・姉とともにバタヴィアジャカルタ)に流刑。しかし、お春はその後同じような混血児と結婚し使用人を9人使うほどの生活を営んだそう。もう一つの例は、長崎オランダ商館長と日本人女性のもとに生まれたコルネリア。このケースも父親の死後にバタヴィアに流刑(母親は再婚しており本人のみ)。本人はその後オランダ人と結婚し、財を成し、夫の死後に再婚したものの、再婚した夫と財産権でもめて最後にはオランダで裁判までしたそうです。

 400年も前にハーフが経験したダイナミックな逸話に驚くとともに、その苦労や苦難が偲ばれます。自分も外国人の連れ合いを得、ママ友達のイジリ以上いじめ以下の発言を耳にしていたので、ハーフの方々の生き方に自分の子供達の行く末を重ねつつ、シンパシーを感じながら読んでしまいました。

 

おわりに

 上記は内容の本の一部しか案内していませんが、それ以外にも大航海時代の先駆けとなったポルトガル商人(相当なワルです)やイエズス会上智大学)、また彼らとムスリム商人とのやり取りなど、東インド会社の航路に当たる国々との音信も描かれています。内容はてんこ盛りなのですが、ボリュームがあり過ぎなのか、後半の7, 8章でややダレた印象がありました。

 

 冒頭でも述べましたが、世界初の株式会社ですが、株とか金融という観点では特段みるものはないと感じました(へーなるほどという感じ)。寧ろ商社の本性やその暴力性を見て取る好材料であると感じました。勿論、歴史の読み物として純然たる歴史ファンには諸手を挙げてお勧めできます。

 

評価 ☆☆☆

2021/02/03

教育論から組織論、新自由主義批判まで。世の中に流されないものの見方を養う―『最終講義 生き延びるための七講』著:内田樹


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筆者と作品について

 内田氏は神戸女学院大学の元教授であり、その最終講義を軸として幾つかの講演をまとめて本作ができている。思想系界隈ではレヴィナスの翻訳で有名だが、政治論などの著作も多い。

 

感想

 いや驚いた。

 本作はKindleセールで50%オフであったために、時間の慰み程度に購入しただけであった。しかしながら、読んでみるとこれまた自分が日頃疑問に思っていたことや考えているような内容について書かれており、非常に参考になった。

 

 どう生きるか、自分も子供もどう教育するか、サラリーマンとして自分のコンディションをどうやって維持するか、自分の仕事と自分の組織をどう動かしていくか、等々です。

 

あなたのやりたいことは何ですか

 どう生きるかという点で響いたのは、小賢しい研究者批判をしていた箇所です。

 筆者は研究者の功利的な研究態度(評価されやすい論文の作成、就職のための得点稼ぎとしての論文)を大いに批判しています。曰く全く心を動かされないと。そんな学会は面白くもなんともないので筆者はほとんどの学会をやめてしまったそうです。

 

 これはあるよなあ、と思いました。自分も宙ぶらりんな大学院生活(興味があることを言語化できないまま卒業から就職へ)を送りましたが、なにもアカデミズムに限らない、あらゆる人にとって切実な問題だと思いました。つまり、どうしたいか・何をしたいか

 

 私もかつてそうでした。ただ組織に居るだけ。会社に居るだけ(仕事はするけど)。年が一回り下のメンターにもかつて言われました。「で、オヤジさんはこの業務、どうしたいんですか?」・・・全く答えられませんでした。まあミスなくこなしたいとか、しょうもない当たり障りのない意見しかありませんでした。でもそれではきっと伸びないのです。想いがないから。

 今は違います。今いる拠点の収益額も収益性も伸ばしたいと思っているし、自分の業務をもっともっと効率化したいと思っている。制約沢山あるけど。そう思うと、日々の時間の使い方や計画も変わってきます。

 もちろんそんなのしょっちゅう考えるのはシンドイのですが、上の方々や経営陣がこういうマインドを持ってなければ決して物事は進まないと思います。

 

 まあ会社はまだそれでも組織が整っていて運営されていきますが、研究者はほぼ自営業者ですから、そうした想い・興味・好奇心は絶対条件だと思います。それをきちんと自己認知した上で生きるのならば、研究者でも社会人でもそこそこ納得のいく・そして評価される人間になれると思いました。少なくともその想いを見てくれている人や、手を差し伸べてくれる人が出てきます。だからやりたいことや好きな事・したい事を振り返ったりする作業は私は結構大事だ思います。就活の時の面接の準備の時だけ片手間で考えるのではなく、継続的に振り返っていいと思います。

 

教育の結果ってとは。教育の成果を測ることについて

 氏の、教育を自由主義的・成果主義的にとらえるべきではないという意見がありました。これは主に教育を授ける側の評価についての話です。

 教育の成果は5年や10年で分かるでしょうか? 否、時にはそれ以上時間がかかるのです。だから即時の評価はし辛いし評価に時間がとられることの方が非生産的です。

 

 私も高校生のときはそれはもう先生や学校のことをクソミソに批判していました。でも卒業して20年以上あって、あの場であったからこそ学べたことがあると理解できますし、感謝もしています。それを例えば顧客満足度と言わんばかりに在校生からの評価で学校方針や教員の評価をつけたらどうなるのでしょうか。つまり必ずしもマーケットが正しいわけではない分野や評価が出るのに時間がでる分野があるのでは、と私も思うのです。或いはステークスホルダーをより広くとらえなければならない場合があるということですね。

 

 もちろん高校であれば有名大学への進学率とか、大学ならば就職率とか短期的にとらえられる要素もあります。ただ、いい大学とかいい就職ができたのを学校のおかげだと思う人っていますかね。いないと思います。多くの人が自分の努力で成し遂げたと考えると思います。

 教育の成果とはやはり学んだ人自身が、この学校でよかった、ここで学んだおかげで自分の人生は豊かになった、等と評価することにあると思います。

 

 もちろん組織である以上、一定の評価体系が必要ですが、社会一般に普通に行われている評価だからと全ての業界に当てはめるのはおかしいと思いました。公共政策(年金設計、都市計画、その他もろもろの射程の長い政策)も一緒だと思います。

 そしてこうしたことに関心を持たないと、塾のような味気の無い学校しかなくなってしまったり、無駄を許さないギスギスした学校しか存在しなくなってしまいそうです。

  

おわりに

 作品中で「人はテクストを自分が読みたいように読む」という意味の話がありました。その点で言うと、きっと私も自分の問題意識に応じて読んでしまっただけかもしれません。筆者はもっと広く(あるいは私が思う事とは違う意味で)大学や教育や社会について語っていたのかもしれません。

 

 ほかにも沢山のためになる、そして面白い論点を含む本でした。組織の多様性の話とか、昼はレヴィナス夜は道場で稽古という生活を10年間ほど過ごした話もコンディショニング的には淡々と繰り返して成果を出すという点でためになりました。

 

 誰が読めばためになるかと考えましたが、40代のおっさんは夢中になって読みました笑 学生や教師の方や公務員の方には手に取って読んでみてほしいと思いました。またお子さんのいる親御さんにも子育て・教育という観点からためになる本かと思います。社会人の方にも組織論として読むと、日常の風景も少し異なった見え方になるのではと思います。講演集なので筋を見えない時もありますが、きっと参考になる考え方がみつかると思います。

 

評価 ☆☆☆☆☆

2021/02/04

ユダヤについての偏見を洗い流す実直な作品―『ユダヤ人とユダヤ教』著:市川裕


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 嫌韓とか嫌中とか、あらゆるものを十把一絡げに嫌い・反対と感情的に判断してしまう人がいます。子ども達にはよくよく、ああなってはいけない、物事は大抵多面的なもので、「全ての~」「あらゆる~」という言い方は大体間違いだから、と言い含めていました。

 

 しかしながら、本作を読んで、自分がこれまでいかに自分が避けようと思っていた偏見に陥っていたのかを思い知りました。それは私のユダヤ観です。

 

当たり前だけど、ユダヤにもいろいろ居る

 一般的なユダヤのイメージとはどんなものでしょうか。金持ち、流浪の民、陰謀、一神教、閉鎖的。私はこのようなイメージでした。

 しかし、本書が描くユダヤ世界ははるかに色彩豊かなものでした。つまり、ユダヤと一言で纏めることができないくらい、宗派も出自もひいては考えも異なるようなのです。ナポレオン後に市民権を得たフランスのユダヤ人は、フランス国民としてのアイデンティティを持ち始めたとか(P39)、シオニズム運動は各国で同化して生きるユダヤ人にとっては「決して承服できる主張ではない。西欧の社会で生きる道を自ら閉ざす恐れを感じたからである」(P.90)とか。

 これらはほんの一例ですが、ヨルダン近郊で始まり、アフリカ北部からスペイン・オランダ、ポーランドアメリカと世界に広がったユダヤの民は、国民国家が主流の現在、実に多様な生き方、考えをしていることを改めて気づかされました。

 

学習スタイルが非常に真摯

 もう一つ驚いたのはイエシヴァ(塾?)とタルムード(解釈書?)というシステムです。

 タルムードで出色なのは、過去の時代の異なる高名なラビたちがあたかも時空を超えて対話をしているかのように編纂され、宗教書の教えに現実的具体性を持たせているところです。作中では子供の教育の件や「一日を三分割」して勤めを果たすという教えについて現実な対話・解釈の例が出ていました。

 またこのタルムードが、ラビとの実際の対話によってより深く信者の心身に沁みわたっていったことは想像に難くありません。

 おそらくこうした解釈が非常に現実的なのは、ユダヤの民が常に不安定な地位・身分であったため、可能な限り現実世界との折り合いを見出す必要があったからだと想像しています。私は引用されたいくつかの実例しか知りませんが、それだけでもこの宗教(民族?)の聖書に対する態度は真摯であると感じました。

 

おわりに

 そもそも、私はユダヤとか陰謀論とかが結構好きで、幾つか読んでいました。ただ、表現が余りに激烈で胡散臭いと感じることもしばしばでした。そうして発生した次の疑問は「そもそもユダヤってなんなのよ」という事でした。本書は私のそうした疑問におおむね答えてくれたと思います。今の理解をもとにまた陰謀論の本を再読してみようと思います。また、名前だけは知っていたレヴィナスのことも、なるほどそういう人なのか、と出自を知ることができました。古本屋で安く売っていたら是非レヴィナスにも挑戦してみたいです。

 

評価 ☆☆☆☆

2021/01/30