海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

外交に国運を賭するヴェネツィアと、翻弄される人民 |『緋色のヴェネツィア』塩野七生

皆さん、こんにちは。

私事ですが、毎年Year Resolutionを作成しています。簡単に言うとプライベートでのKPI。この中で数年前から旅行KPIというのを作っており(実際は奥様の満足度向上KPI、という名称なのですが)、なるべく家内を旅行に連れ出すという事をしています(怒りの目線を私から反らす、と)。

 

で、今年は大枚をはたいてイタリアに行きました。

ヴェネツィアにはいきませんでしたが、ローマとフィレンツェをゆっくり回りました。

 

ということで今回の読書は、事後学習!?とも言うべき後追い読書の位置づけであります。個人的にこつこつと世界史を学んでいる身としては、トルコ関連の内容がこれまたしみいる内容となっておりました。面白かった!

 

 

はじめに

古代ローマ・中世ルネサンスの著作が多い塩野氏の作品。

中世イタリアはヴェネツィアを舞台に、貴族の息子と貴族の庶子の運命的な結末、都市国家ヴェネツィアとトルコや周辺列強諸国とのパワーバランスを華麗に描く。

 

外交・交際政治を豊かに描く

先ずもって感じたのは、この本は国際政治の本だ、ということです。

主人公マルコは貴族の子として、若くしてヴェネツィア共和国の運営に関わり、外交官としてイスタンブールへも派遣される。彼の役割といえば、トルコでの情報収集、ヴェネツィア本国のリエゾンとしてトルコの宰相への口添えなど。

こうした仕事は何のためかといえば、小国たるヴェネツィアが北のハプスブルク(ウィーン)、西のスペインに蹂躙されないためです。そのために非キリスト教国ながら属国下の他宗教には寛容であるイスラム教国たるトルコと秘密裡に関係を強化しようというわけです。

 

外交とは国益を守ることなどという事がありますが、より端的に言えば国が生き残るべく泥臭く根回し・情報操作することなのでしょう。

本作はそうした政治・外交の機微が非常によく描かれていたと思います。とりわけ、トルコであてにしていた宰相イブラヒムの権力に陰りが出てきて、国際政治的にヴェネツィアに逆風が吹き始め、この先のかじ取りや状況を悲観する主人公の独白は、外交というものの正鵠を射ていると思いました(P.282)。

 

とはいえ、内容の2/3はヴェネツィアでの情景です。悪しからず。

 

トルコ史との関連もチェック

って言いつつ書きますが、時はスレイマン一世(1494-1566)の治世。幼馴染にして奴隷であるも宰相にまで上り詰めるイブラヒム、さらにはロシアから奴隷として連行され、これまた王妃にのし上がるシュッレム(作品ではロッサーナ)が権力を増しつつあった時代の話です。

本作はヴェネツィア側から描かれていますが、トルコ側の当時の様子としてはHulu収蔵のテレビドラマ『オスマン帝国外伝 愛と欲望のハレム』を見ていただくと非常に分かりやすいと思います。私の記憶では、上記のドラマでは、ヴェネツィアの外交官というとブクブクと太った欲深そうなおべっか使いみたいな描かれ方だったと思います。

 

恋愛要素もしっかり

さて、そのほかにも主人公マルコと娼婦オリンピアとのちょっと真剣な関係、ヴェネツィア宰相の庶子アルヴィーゼと有力者プリウリ夫人との道ならぬ恋など、人のさがの機微もじっくりと物語に練りこまれていると思います。

こうした物語の作りこみが作品の完成度を上げていると感じました。

 

おわりに

ということで、塩野作品は二作目でした。前回はエッセイを読んだので、本格的な作品はこれが初めて。

歴史ものは結構好きかもしれません。非常に面白く感じました。3部作となっている模様ですので、続編も続いて読んでみたいと思います。

 

私のように歴史好きな方以外にも、旅行でヴェネツィアやトルコ(イスタンブール)に行かれる予定のある方、あるいは世界史で中世(オスマントルコ時代、イタリア史)を勉強する必要のある方にはお勧めできる作品かと思います。

 

評価 ☆☆☆☆

2024/03/16

次第に全貌が明らかになるエログロ・サスペンス |『民宿雪国』樋口毅宏

皆さん、こんにちは。

上の子の高校卒業式に参加してきました。

いやあ、青春っていいですね。式が終わった後は講堂から出て、生徒一同で制服のネクタイ(通称『たくあん』:金色・黄色だから)を一斉に放り投げるというシーンも。その後は生徒同士、仲間同士、あるいは先生を交えて・父母を交えての写真撮影。いやあ、いいものじゃないですか。

 

そして思い返す自分の卒業式。というか出なかったという思い出。

私はその時、荒れていました。ただ成績はそこそこよく、国公立は諦めたものの、私立は概ね願ったところからは合格がいただけました。進学先を決めるところで問題が勃発。

学歴で苦労した父親は、私が合格した所謂有名私立大に行って欲しいと。私はそれよりランクがちょっと下の某キリスト教系の大学に行きたかった。当時ガンガンにとんがっていた私は、『子供が行きたいところに行くのではなく、親が行かせたいところに行くなら私は行きません。お金は勝手に行かせたい方に振り込んで結構。ただし私は知りませんし、行きたいところ以外行きません』と言い放ち、以降すべての学校イベントを拒否(ほんと生意気。今私が親だったら張り倒します)。高校の卒業式も、もういいや、と部屋に閉じこもりっぱなし。居たたまれなくなった母親は突然失踪し、一週間くらい金沢に旅行に言っていたという謎の幕間もあったものです。

部活の仲間からは今も『おまえ、親(との関係)は大丈夫か』と今も心配されます。大丈夫です。嫁によりかなり矯正されました。

 

ほんっと、子どもが自分に似なくてよかった。もうそれだけで十分親孝行な子供たちです。

はじめに

樋口氏の作品を読むのはこれで二作目。

前に読んだ『日本のセックス』はエログロ全開系作品でした。今回もエログロは踏襲しつつ、ややサスペンス味と歴史のエッセンスを加えた作品だと思います。

 

視点の移り変わりに特徴

新潟の雪深いボロ民宿、その名も雪国。

ここへ足を踏み入れる吉良という青年の視点から物語は始まります(第一章『吉良が来た後』)。

個人的印象としてはこの章が一番ひっくり返りました。展開に驚いた。吉良という青年が何者か、宿屋のオヤジが何者か、そこで起こったことは何か。オヤジの裏の顔とのギャップがやばい。

冒頭ということもありますが、「静」から「動」への転変が実に劇的であり、ツイストが効いていたと思います。

 

次章『ハート・オブ・ダークネス』では、世に疲れたとある記者が、敢えて人里離れたこの民宿に泊まるという話。彼自身のエログロ系色恋や生い立ちにあわせて、この民宿での出来事などが綴られます。ここでは民宿のオヤジは一種善人として扱われ、むしろこの記者の方がおのれの悪辣さを吐露している印象。こちらも章末にツイストあり。

 

次の章以降も引き続き、第三者がこの民宿のオヤジを語り、徐々にこのオヤジが何者でどういう人間であるか、何をしてきたのかが明らかになるという仕組みであります。最後にオヤジの問わず語り的自己紹介・振り返りがあり、読者も全体的な理解が得られることになります。

 

フィクションかノンフィクションか?

この作品は、当然のことですが、フィクションです。

まあ、読んでいて突飛な殺人事件が連発するので分かりますが。でも、その一方でバブル前後の80年代90年代の描写が生々しく(丹生雄武郎の絵画がポパイやホットドックプレスという雑誌で特集されるというくだり)、私は思わずググって確認してしまいました。

はい、フィクションです。よかった。

 

真実の混じった嘘が一番分かりづらいなどと言います。本作は虚構を核として、その周りを詳細で雑多かつ網羅的な事実で装飾することで、あたかもストーリー全体を真実と思わせる部分がありました。

 

そのほか

そのほか、樋口氏と映画評論家の町山氏との対談、樋口氏と梁石日氏との対談等が巻末にありました。

後者の梁氏との対談で、作家は少し遅咲きの方が良い、というのも経験をストックしてないと書くことが無くなる、という旨の話がありました。私は個人的にはそうかな?と思いました。

経験があれば確かに書くネタはあるでしょう。でもストックしている経験がない人でも経験を得る過程はネタになるのでは、と感じました。むしろ、お作法やテクニック等の方が習熟するのに時間がかかるのでは、と感じました。

まあ、読者としては早咲きでも遅咲きでも、素晴らしいものであれば後は良いのですがね笑

 

おわりに

ということで、樋口氏の作品を読了しました。

相変わらずのエログロ・ノワール系作品ですが、嫌いでないです。ただ、周囲には『こんなの読んでいます』とはちょっと言いづらいですね笑 伝えるような友人も居ませんが。

 

評価 ☆☆☆

2024/03/13

ニューヨークトリビアと凶悪犯との対決 |『ボーン・コレクター』ジェフリー・ディーヴァー、訳:池田真紀子

皆さん、こんにちは。

この前約10年ぶりにYahoo!オークションを利用し、文庫本をバルクで購入しました(塩野七生さん関連ですが)。

実は事前にメルカリも見たのですが、概観としてメルカリは高く、Yahoo!オークションは軒並み安いという結果でした。

 

同じ商品なのに値段が違う。なぜなのでしょうか?

売り手が既存のプラットフォームから新たなプラットフォーム・チャネルを拡大できず、他方買い手はより新しいプラットフォームに流れるから? あるいは私が購入したのは例外だったのか?

マーケット、プライシングとは、これまた奥深い世界であります。

 

こうした複数のプラットフォームから、共通するマークアップ言語の要素を使い情報を取ってこれたらプライスをキーにどこが一番安いかをサーチできるのかなあ?

新品は価格コムで値段チェックはできますが、中古・オークションもスキームは作れそうな感じがします。システム構築が出来ればより精度の高いセドリができるかもしれません。しないけど笑

 

はじめに

海外の翻訳物、しかもスリラー系は久しぶりに読んだ気がします。

いやあそれにしても面白かった。

 

あらすじ

で本作。「ボーン・コレクター」はとある事件で四肢麻痺となったやり手鑑識官が主人公。

首から上の自由のみが残され、安楽死を考える日々であったところ、国連系イベントで人手がたりないNYで突如起こる殺人事件。なんとなんと、ニューヨーク市警から捜査依頼が彼のもとに。ニューヨークの地理・歴史・科学などの捜査事項に精通した彼の推理により、猟奇的な殺人犯を追い詰めてゆくが、最後は・・・。

という筋立て。

 

ニューヨークの歴史トリビアに酔う

やはり面白いなあというのは、事件の背後を読む際に、その土壌を調べたり、その土壌を判断するにはニューヨーク(マンハッタン島)の歴史を知っていたりすることが分からないといけないということ。

こうした個別の事実が次第にconnecting dotsとなり、犯人像や犯人のメッセージ、あるいは次の事件現場が次第に明らかになってゆきます。

こうした事象の連関が読みながら次第に理解できる点が何ともa-ha体験でありました。数回「なるほど」と独りごちたかもしれません。

 

また、モデル級美女の警羅課の警官と四肢麻痺患者が一瞬恋愛関係の手前に迫ったシーンもあり、エンタメ的味付けも上手だなあと感じました。

 

おわりに

ということで久しぶりの洋モノでした。

映画化もされていましたので、そちらを見てみても良いかもしれませんね。なかなか大部(上下とも350P、合計700P程度)で2日程度は読了にかかりました。連休予定がなくってエンタメ系読書をしたいような方にはお勧めできるかもしれません。

 

評価 ☆☆☆

2024/03/09

2人の刑事の掛け合いから繙かれる3遺体の真実 |『パズル』恩田陸 

皆さん、こんにちは。

そろそろ異動の時期ですね。私は外国でこじんまりと自らサイロを築いてぼちぼちやっています。しかし、所謂駐在さんはそうはいきません。異動の示達があります。

 

私の一つ下の上司君は、次はなんとブラジルだそうです。と、遠い・・・。日本からだと30時間かかるそう。これでは一時帰国も難しいですね。

彼は、ことし上の子が大学受験、下の子が中学受験らしく、当然の事ながら?単身赴任となる模様。ちなみに上の子は奇遇にもうちの愚息と同じ高校で同じクラブの一つ下。残念ながら甲子園予選は見れないかもしれません。

子どもの成長、家族の急用に柔軟に対応できない部分は気の毒だなあと感じます。その応報としての金銭であるとも解せますが。

 

どのような人生を選ぶか。

ワーク・ライフ・バランスとは字面で表現されるより難しい話であります。

というよりワーク・ライフ・マネー・バランス、といえば正しいかな。いや、ワーク・ライフ・マネー・キャリア・バランスかな。いいや、ワーク・ライフ・マネー・キャリアファミリー・バランスか!?

 

めぐりめぐってワーク・ライフ・バランスが一番すわりがいいですね。いずれにせよ、難問であると感じます。

 

はじめに

3週間ぶりの恩田作品。2000年に発表されたちょっと古めの作品。幻想系スリラーとでも言った恩田氏らしい作品。

 

あらすじ

とある無人島で発見された3つの遺体。餓死、感電死、溺死とそれぞれ違う死因。3人の遺体に関連はあるのか。二人の刑事がこの疑問に取り組むが最後の結末は・・・。

 

登場人物すくな

基本ストーリは無人島で捜査する二人の刑事の掛け合いに終始します。その中でさまよえるオランダ人の伝承の解釈であったり、片方の刑事が高校時に属していたオカルト研究会の話であったりが挿入され、次第に状況が明らかになってきます。

 

因みにこの無人島を探すさまは、何となく長崎の軍艦島を想起させます。数十年前に打ち捨てられ、朽ちた住宅地。その人なき無機物の瓦礫の中を歩く様子に、軍艦島を見て感じた何とも寂しい様子を思い出しました。

 

おわりに

ということで月いちローテになりかかっている恩田氏作品でした。

これはどちらかというとファン向けかなあという印象。一般向けに勧めるならもっと面白いものがあるかなあと思った次第です。

 

評価 ☆☆☆

2024/03/05

話すこと・吐き出すこと・受け止めること。終末に救い。 |『十二人の死にたい子どもたち』冲方丁

皆さん、こんにちは。

この前あっという間に二月が終わったとか言っていました。舌の根が乾く間もなく、日本へ帰国致しました。

これから両親の確定申告を代行します。溜息が出ますが、引退世代の年金額が凄まじい・・・。私は逆立ちしてもこんな額はむりぽ。私が両親から受けた恩恵を同じ形で(つまり金銭的に)子どもたちに与えてあげることはもはや不可能。

となれば切り口を変えて子どもたちを育てなければなりません。なんて言いつつ、子育ては終盤戦。高校生・大学生とここからお金が必要になるんですけどねえ。。。奥さん、働いてくれないかな??

 

はじめに

冲方氏の作品は実は初めて。

映画化されている模様で、ローティーンからヤングアダルト向け小説の印象でした。途中までやや単調な印象も、最後のツイストはなかなか良かった。そのツイスト含め、ティーンに向けたメッセージ色の濃ゆい作品か。

 

12人を個別化しづらい・・・

済みません。結構批判じみた物言いになりそうです・・・。

実は個人的にあまり読み口が良いとは感じませんでした。というのも、やはり12人をそれぞれ特定するのがなかなか簡単ではありませんでした。

 

解説によると12という数字が過去の映画作品へのオマージュになっているようではありますが、文章でありありと12人個々の性格を理解するのは私には少し難しかったです。結構イけた(理解した)と思いますが、最後2人くらい、印象が今一つ(混合して)でありました。

 

その点では、映画化してヴィジュアルで印象付けを行うという戦略は、よりよく作品を理解してもらう上では良かったのではと思います。

 

おじさんが読んだらダメだった。若者よ、どう?

そしてもう一つ。リアリティが個人的に感じられず、ちょっと没入しづらい感じでした(自殺話にリアリティがあったらそれこそ怖い、というのもありますが)。

12人の自殺したい子たちがローティーン(一番若い子が14歳)というのは、可能性としてはあるかもしれませんね。ただし、彼らが廃病院に一堂に会し、これから自殺するべく準備し、そのさなかで起きる議論、というのはこれまた現実感が少し感じられなかったです。

 

私のようなくたびれたおじさんが、仮にも消えたいとき。それは「もうやだなあ、疲れたなあ」と思い、自分で苦境を改善する余地がないとき、そのような状況が永遠に続く(かのように思える)とき、とか、そういうときです。

若者ならば、その時辛いのは分かるのですが、「あと数年たち、親元を離れれば、自由に生きられる」と思ってしまうのです(不治の病の場合は除きますよ)。だって、ほら、君たち、議論する気マンマンじゃないですか。そのエネルギーがあれば、世界は変わるかも、とかおじさんは少し感じます。。

 

もちろん、中学生・高校生の時は、ちょっとしたことで傷つき、恥ずかしさのあまり死んで消えたくなることもあるとは思います。そうしたことも十分斟酌しなくてはいけません。その点ではおっさんがとやかく言う話ではなく、ターゲットと思われる中高生あたりの若者が読むべき本なのだと思います。

 

結末に救い

ただ、最後の終わり方は、(多少陳腐?な風合いもありつつも)良かったと思います。

細々と内容は述べませんが、そこに私はコニュニケーションの偉大さを見ました。個人の考えは意外に偏狭で、喋ってみると実は(他人からして)全く問題でないことも多いですね。言った本人も他人に話してみたら「あれ?ほんとだわ。全然大したことないね」と当の本人がすっきりしてしまうこともあるわけです。

そのような解決法を提示するかのような結末・コニュニケーションの力を、大人も子どもも再認識してもらえると、将来はちょっと明るくなるかもしれません。

 

おわりに

ということで初めての冲方作品でした。

結末のツイストが良かったので、本嫌いな新大学生の息子にまずは押し付けて反応を見てみたいと思います。その後高校生の娘にも押し付けてみたく。ああ、でもちょっと厚めなんですよね。本嫌いには微妙な厚さ。やっぱ映画を先に見せた方がいいかな??

 

評価 ☆☆☆

2024/03/03

ノワール系エンタメ小説。最後のツイストにガクブル |『去年の冬、きみと別れ』中村文則

皆さん、こんにちは。

あっという間に2月が終わってしまいましたね。早いもので2/12が消化されてしまいました。

仕事でもプライベートでも「これやりたい」の年間計画を立てたものの、早速遅延気味です。

 

PDCA的にはCAをいかに上手にやるかが個人的な課題です。Cでの振り返りが弱いのです。

そもそものPがおかしかったのか、予期しないタスクに予定が押してしまったのか、等を振り返るのが結構苦手。原因をよくよく考えることが課題です。

いつもそのあたりを勢いにかまけて「来月は頑張ろう」と根性論で見ないふりをするんです。そう、自分の駄目な部分は見たくないんですよ・・・とほほ。

 

 

中村さんの作品はこれで三作目。

ノワールな印象の方なのですが、今回もかなりダークな作品でした。

 

籠絡されてゆくライター

連続殺人犯のルポを書くことになったライターと拘置所で死を待つ殺人犯。彼らの関係を断続的なスナップショットで綴るかのような描写。

 

その中で、奇妙(奇怪)な殺人者の姉がライターにとってターニングポイントになります。殺人犯の狂気と共に、その姉の狂気にもあてられ、ライターはこの姉の性に籠絡されてゆきます。

 

予想だにしないツイスト

さて、私は次第に流れが良く分からなくなってきました。誰の視点でこの物語は書かれているのか?

実はこの視点の変化こそがこの作品のキーとなります。そして徐々に明らかになる、本作品の全体の構造。このあたりはじわじわ来ます。久方ぶりに感じた読書によるゾクゾクでありました。

 

何を書いているんだって? いやあ、ぜひとも読んでみて味わってください!

 

おわりに

ということで中村作品を読了いたしました。

一見、狂人の独白かのような作風でありましたが、そんなところに留まらない大いなる?狂人が意図したスキームがありました。その構造が見えたとき、「なるほど」となる作品です。

 

ダークな作品が好きな方、ミステリ好きな方には楽しんで頂ける作品だと思います。おすすめ。

 

評価 ☆☆☆☆

2024/03/01

ユーモアと不穏さの通底する音楽短編 |『夜想曲集』カズオ・イシグロ、訳:土屋政雄

皆さん、こんにちは。

 

高3ボーイズが日本へ帰っていきました。うちのムスコはもう少しこちらにいる予定です。

そして程なく私もまた日本へ一時帰国。ムスコ君の高校卒業式、大学入学式、そして脳のパイパス手術とイベントが続きます。

 

仕事や生活にリズムがうまく刻めず、自己啓発系の読書は進まず。ということで小説で自らを慰撫。本日はカズオ先生に慰めてもらいました笑

 

音楽にまつわる短編集

カズオ・イシグロの作品を読むのはこれで三作目。

これまで読んだ二作の長編(「私を離さないで」と「遠い山なみの光」)と異なり、今回は短編集でした。これまた全く作風が異なり、エンタメ寄りの味わいのある作品集でした。器用な方なのですね。

 

不穏さとユーモアの両立

そんな短編集の中で私が一番気に入ったのは「降っても晴れても」ですかね。

英語教師としてフラフラしつつ?今はスペインで教えている主人公(50ちょいのおっさん)が、大学時代の仲間の元へ遊びに行く話。この二人(夫婦)とも世間でしかるべく出世を果たした模様。ただし来てみると人柄も何となく変わり、どうにも不穏な空気。諸々聞くと、主人公氏は二人のこじれた仲を取り持つべく呼ばれた模様。彼は孤軍奮闘するさなかで、物事がうまく運ばないという不穏さを引きずりつつ、徐々にユーモラスなテイストが混じりつつ進行してゆく模様は技ありでありました。

 

それ以外も乙な感じ

なお、それ以外の短編もなかなか良かったです。

因みに解説によると、夫婦仲というテーマが一つ。もう一つは音楽とのこと。特に前者では明言されない不穏な夫婦仲を描く様子がどれにも挿入されており良かったですね。お尻がむずむずしてくる感じ。

一応以下、簡単に。

 

「老歌手」・・・一発飛ばした歌手が、再ヒットを目指し愛する妻と別れるために用意した儀式とは。行き過ぎた資本主義ショービズ界と純朴な共産圏出身の若者とのギャップがスパイスに。

 

「モールバンヒルズ」・・・アーティストを目指す若者が田舎でカフェを営む姉夫婦の居所で過ごす日々。そこで出会うプロの演奏家夫婦とのふれあいを描く。

 

夜想曲」・・・これも良かった。才能は十分、ルックスだけ欠けた男。妻に出ていかれ、その代わりに整形費用を出すという元妻。とうとう離婚も整形手術も承諾した男は、術後に一流ホテルで日々を過ごす。隣室にはご意見番的芸能人が手術後の安静のため過ごしており、彼女の勢いに次第に翻弄されてゆく。ドタバタ系。

 

チェリスト」・・・決してチェロを弾かない「大家」が指導する、才能ある若手チェリストの話。若手チェリストの、師匠を見る目と揺れる心の具合。これもまたなかなか良かった。

 

おわりに

ということで、イシグロ作品、三作目を読了しました。

三作品読んで感じたのは、氏の「不穏」の表現の秀逸さです。Uneasinessとでも言いましょうか。嫁が普通のふりして怒っている時に似ています(似ていません)。

明示的ではなく、説明的でもなく、人物はしっかり描かれているのに、何だか尻が落ち着かんのです。

 

こういう「味の効かせ方」もあるのか、と感心した読書体験でした。他の作品も続けて読んでみたくなりました。

 

評価 ☆☆☆

2024/02/28

海外オヤジの読書ノート - にほんブログ村
PVアクセスランキング にほんブログ村