海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年もセカンドライフ等について思索したく。

やや中だれ感あるかな |『ときぐすり』畠中恵

皆さん、こんにちは。

 

物価の上昇を感じること、あろうかと思います。

スーパーや外食などで物価上昇を感じるのは一番身近でありましょう。ただ読書好きは、やはり本の値段に物価上昇を感じることが多いのではないでしょうか。

新書は新品で900円台、下手すると1000円台。文庫も翻訳ものの分厚いやつは1000円越え、700円800円台もザラになって参りました。まとめ買いをすると、千円札で釣りがくるというのは過去で、万札を出して数千円おつりがくる、という状況変化ではないでしょうか。

 

そして庶民の味方のブッ〇オフ。ここにも物価上昇の波が押し寄せてきました。

これまでは最低価格は110円(税込)であり、このラインナップで過去作を十分堪能できたのでした。ところが、今は最低価格水準は220円(税込)に値上げされた感があります。余程在庫が余る・古い・状態が良くない等の理由で110円という印象です。今まで110円で買えていた過去良作はいま220円のレベルで販売されていると感じます。

 

まあごちゃごちゃ言っていますが、新品で買うことと比べたら大差ないというのは事実。ただ上昇率で言うと100%ですからね。ちまちました読書が中心の私からすると、何だか高くなったなあーと感じる今日この頃であります。

 

戯言はこれくらいにして、本題に参ります。

 

シリーズ第四作

江戸の町名主代理の、お気楽モノ麻之助が、お上にもっていくには軽い・大家たちではさばききれない諍い・争いを華麗にさばく時代物小説。

 

前作では都合で結婚しただけだと思っていた連れ合いを亡くした麻之助。ところが喪失感が大きく、本作でも魂が半分抜けたrecklessな印象の浅之助でありました。

 

物語にやや停滞感か

独立短篇、「朝を覚えず」「たからづくし」「きんこんかん」「すこたん」「ときぐすり」の五篇からなります。

 

今回はこれまでと比較して、ちょっとイマイチな感じがしました。

いや、どれも面白かったのは事実。

 

ただ、このシリーズものの面白さのベースは一見お気楽に見える麻之介の名探偵ぶりでありましょう。加えて、へらへらしているように見える彼の情や想いの強さ。この駄目さ・真面目さのギャップにあろうかと思います。

 

もう一つの面白さは、メインキャラ(麻之助、相棒の清十郎や吉五郎)の環境変化ではないかと思います。麻之助ならば結婚、清十郎なら父の逝去により町名主を襲名する。そういう変化により、ストーリー展開に幅が出てくると。

 

しかるに、本巻は後者の面白さ、メインキャラの「動き」が少なく、独立短篇もややダレた感じがしました。あ、事件が起こるんだな、で多分解決するんだな、お、やっぱり解決できたね、と予定調和感があったかなと。

 

おわりに

ということで、畠中氏のまんまことシリーズ第四作を読みました。

ちなみに、知りませんがいつの間にかシリーズは第十弾まで出ているとのこと。いやあちょっと長いなあ。しかも終わっていないと。

 

個人的には終わったシリーズを一気読みするのが好み。シリーズが終わるまですこーし待とうかな、と考えています。

 

評価 ☆☆☆

2026/04/10

概ね納得感のある仕事術本。若手・中堅向きか |『仕事の結果は「はじめる前に」決まっている』大島祥誉

皆さんこんにちは。

 

書籍のタイトルや惹句、結構気になりますよね(なりませんか)。

「転生したら〇〇だった××」「ハーバード(スタンフォード)式〇〇」等々。

特に見た目が10割とか、戦略がすべてとか、ああいうのが本当に苦手で…。だって受験予備校で習いませんでしたか? All とかAlwaysが使われている選択肢は大体間違いなんですよ! だから、悲喜こもごもに満ち溢れるこの世界で「絶対」「10割」と言い切る姿勢に対しては、眉唾ものと疑ってかかったほうが良い、というのが個人的スタンスです。

もちろん内容や筆者の思いとは別に、出版社や編集者の思惑の末の惹句という側面はあろうかと思いますが。

 

で、久々に自己啓発系の本を読んだのですが、帯の惹句が「~が10割」のやつだったのでちょっと反応したものです。

 

では本題に参ります。

 

はじめに

元マッキンゼー社員、つまりコンサル出身者の仕事ノウハウ系の本ですね。

激務をこなすコンサル社員は何かしら工夫やブレイクスルーを得ないと体も心も持たないのでしょうね。で、氏がひらめいたものの一つはいわゆる段取りであった、というのが主旨でありましょう。

 

咀嚼して業務に生かそう

個人的に感じたのは、そのまま仕事に適用するのはちょっと難しい、ということ。

コンサルの仕事って、他社に乗り込んで、顧客と同等かそれ以上に対象業界を理解した上で、顧客が思いつかないソリューションや方向性を提示する。

こんなことをするにはまずもって時間がたりない。

だからこそ、ミニマム思考と筆者が呼ぶ方法で仕事を進めてゆく、と。

 

ただ、そういう仕事の進め方って普通はあまりないかなと。

そもそも一般企業の社員だと、所属部署があり、大なり小なり、ある程度の専門・受け持ちがあり、それに関連した同じことの繰り返しで仕事が成り立っていると思います。その中で課題を見つけ業務を洗練化させてゆくと。つまりは、知らないことを調べるとか、そこから驚くような方向性を見つけるみたいな体験はあまりないのかなあと思うのです。

 

ただ、それでも本書が読む価値があると思うのは、仮説思考(あたりをつけて動く)、全体を俯瞰してスケジュール作りをする、フレームワークを使用する、時間の見積もりはバッファをとる(2倍で見積もる)、オフの時間や専門外のインプットを充実させる等々、部分部分私達がやっていると思われるようなことを網羅しているからです。

 

その点で、本書は中堅どころが普段の業務を見直すのに読むと存外振り返りになるのではと感じました。新人や若手だと何のことを言っているか分からない、という人が出てくるかもしれないなと感じました。

 

ちなみに、ショートカットなどの時短を小手先と称して氏はあまり評価されていませんでしたが、コンサルのような業務の方にとってはそうなのであり、一般企業で何がしかの繰り返しを行う人は、それぞれに合ったところで「小手先」の時短方法を追求したほうがよいとは思いました。

 

おわりに

ということで元コンサルの本でした。

個別技術の磨き方より、全体的な仕事への取り組み方改善の本としてとらえると良いと思います。私にも学びはありました。

 

評価 ☆☆☆

2026/04/09

徒花と消えた民主化の夢。巻き込まれた元学生らの行く末は |『時が滲む朝』楊逸

皆さんこんにちは。

 

外国語で文章を書く、なんて想像できますか?

 

私、海外に住んでいるということで、同僚とのteam連絡やメールは当然の事ながら英語がメインです。スピーチクラブにかれこれ7年程所属しているので(発音はともかく)、多少はサマになる文章を作れるようになったかなという自信はあります。アジア英語ですが。

しかしながら、人に読ませるような文章を書けるか(ましてや書いていて楽しいか)と言われれば、答えは絶対にノー。

だけど、そういうことが出来る方がいらっしゃるんですね。日本の方が海外でやっている例としては多和田葉子さんとかが代表になりましょう。反対のパターン、母語が日本語ではない方が日本語で文学作品を創作されている方だと、この方も一つ代表となりましょう。芥川賞も受賞されています。すごいですよね。

内容も実際、面白かった。

 

ということで本題に参ります。

あらすじ(裏表紙より)

中国の小さな村に生まれた梁浩遠と謝志強。大志を抱いて大学に進学した2人を天安門事件が待ち受けるーー。”我愛中国”を合言葉に中国の民主化を志す学生たちの苦悩と挫折の日々。北京五輪前夜までの等身大の中国人を描ききった、芥川賞受賞作の白眉。日本語を母語としない作家として初めて芥川賞を受賞した著者の代表作!

 

理想に燃え、挫折。浩遠だけが取り残されていた

なんとも言えない甘酸っぱい読後感の作品でした。

 

当初、ライバルであり幼馴染である貧農の子どもたち二人が、苦学の末狭き門をくぐりなんとか憧れの大学生となるシーンで始まった本書、おおこれは立身出世物語かも、とワクワクして読んでおりました。

 

ところが、喜びも束の間、学生運動にかかわってしまい、せっかく入学できた大学から二人とも放校処分となり、エリート候補生が日雇いに身を落とすことに。

理想(国の民主化!)は高いが、現実の食い扶持を得るためにはとにかく働かねばならない。そのギャップが若い二人につきつけられます。

 

とりわけ、在留日本人とみられる女性と結婚し日本へ渡った浩遠。彼は民主化の理想を捨てきれず、日本でも同胞の民主化の集まりに顔を出すも、周囲の不真面目な態度が面白くない。会社の上司や妻も表立って反対はしないものの、次第にはれものに触るかのような態度を彼にとる。

 

最終的に浩遠は、民主化を先導した甘元教授と、憧れだった英露とに再会し、自分だけがクソ真面目に民主化活動していたことに気付く。ここは悲しかった。いったい何年彼は独りで夢を見ていたのか。

 

理想を持つことは素敵だし大切でしょう。他方で現実に生き生活を送ることは喫緊の課題となります。普通の人は意識的・無意識的にバランスを取り、ある意味で平凡な人生に落ち着くわけです。理想を固持したことで浮いてしまった浩遠に一抹の悲しみを感じるのは、わたしなぞは浩遠に自分の分身を見ることができるからでしょうか。

 

民主化という理想でなくても、理想(夢)は、お金持ちになる、都心に住宅を持つ、素敵な配偶者を得る、子どもを有名私立(国立)に入れる、出世して部長や役員になる等々にも置換できましょう。

私の場合は、優しくも厳しい妻との衝突を経て、自分は平凡に生きるべきだとやっと頭で理解してきました(心ではやっぱり破天荒なことをやったり成功したいという野望がまだ消えません泣)。

 

個人主義・多様性とは言うものの、干渉しない(で暴走?するのを許す)のを優しさと言うのか、干渉しまくって目を覚まさせるのが優しかというのか、意見は分かれましょう。そんな人間関係の在り方をも考えさせる作品でありました。

 

おわりに

ということで、楊逸氏の作品は初めて読みました。

やさしく、そして熱情と冷静さの表現の切り替えが上手な作家さんだと感じました。舞台が日本ではなく、異国情緒(というか異国ですが)が漂うテーマも好みです。

別作品も読んでみたいと思います。

 

評価 ☆☆☆☆

2026/04/07

淡くプラトニックな大人の恋慕 |『センセイの鞄』川上弘美

皆さんこんにちは。

 

読書が好きです。

で、そういう同好の士のブログを見ていて、ふと書名が頭に刻まれることがあります。

それがおきたのはつい先日。いつも楽しみに読ませてもらっているじゅくせん氏(id:Hirono0562)のブログで目に留まり、そのまま頭に残っていたのが本書。そのポストで、いったい何の本の話をしていたのかも覚えていないのに、引き合いに出された本書だけ不思議と頭に残っていました。

 

ということで本題に参ります。

 

あらすじ(裏表紙より)

駅前の居酒屋で高校の恩師と十数年ぶりに再会したツキコさんは、以来、憎まれ口をたたき合いながらセンセイと肴をつつき、酒をたしなみ、キノコ狩や花見、あるいは島へと出かけた。年の差を超え、せつない心をたがいにかかえつつ流れてゆく、センセイと私の、ゆったりとした日々。谷崎潤一郎賞を受賞した名作。解説・木田元

 

ひとこと

40代の元学生とその先生(70代?)がふと街中の居酒屋で出会い、その後つかず離れず飲み仲間となる。

そして、この元学生がほんのりと先生へ恋慕の情を育んて行く。

 

なお本作で谷崎潤一郎賞を受賞

 

読後にじわじわ「分かるかも」と。

正直当初はピンときませんでした。

50代になり各種の欲が減退しつつある私。70代になり30歳も下の人と恋をできるのか? と自問すると、これはなかなか難しいと想像します。というか読中は想像できなかった。

 

でも、今読後に70代の自分を想像して考えると、将来のある若い人がいたとして、老い先短い自分とわざわざ一緒に時間を過ごすことに、自分自身も反対するかもしれません。

 

作中でも、センセイは飄々として、つかず離れずで女性を拒否もしなければ最後まで受け入れもしない。そこに女性も(読んでいる私も)ややもどかしく感じているのですが、読後に考え直せば、もし自分なら(自分でも)そう対応するかなあーと。

 

最後の数ページで物語は急展開しますが、それもまた想定が出来たこと。物語全体の飄々とした雰囲気が持続し、私は解説の木田氏程ショックは受けませんでした。

 

おわりに

ということで川上氏の作品はこれで二作目でした。

ほんとうに、柔らかい印象の作品を書く方ですね。

 

なお解説の木田元氏は現象学で有名な哲学者。学生の時は氏の著作や氏による訳書を結構読んだ気がします。で、ご想像の通り、解説がかったーい感じでした笑。

 

評価 ☆☆☆

2026/04/05

このムスコ君、いいやつだなあー |『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』ブレイディみかこ

皆さん、こんにちは。

 

先日下の子の高校の卒業式でのこと。

校長先生が「文学でも経済でも哲学でも、なんでもよいので是非春休みの間に古典と呼ばれるものを読んで、大学生活に備えてください」と仰られていました。

それを聞いた私は、よし娘にプラトンの対話篇でも読ませてみよう、思いました。が、まあこれは絶対にウザがられるのだろうと一瞬で脳内却下。

少しして、古典読めって校長言ってたじゃんと娘にいうと、娘は「あそういえば、「イエロー」?とかって本?あれ読んで見たい」とのこと。ああ、あれねと早速仕入れてきたのが本書。

子どもに読ませる前に自分で読んでみたものです。

 

ハーフの男の子のはなし

まあ平たく言えば、英国在住のアイルランドと日本のハーフの男の子(中一)の一年間、とでもいったところ。

 

小学生の時は柄のよい学校に通っていたのでわからなかったが、中学進学時に近所の「元」底辺校へ進学し、よのなか・現実の歪みや問題点を知るようになる、というもの。

 

なお近年ではハーフという言葉もPC(=political correctness)に引っかかるそうです。一旦使わせていただきます。

 

マージナルな存在

うちも国際結婚をして日本でも家内の国でも暮らしたわけで、マイナー、もといマージナルな存在の不安定さや不安を感じたものです。

大人がそうであれば、子どもはもっとビビッドにそのことを感じるのでしょう。

中国人と揶揄されたり、移民と揶揄されたり、成功した移民が貧しい地元民を貶めたり。そういう行動を筆者のムスコ君が見て、感じ、やっぱりおかしいのではと母親に問う。その気持ちを母親がじっくりしっかり受け止める。

 

もうね、このムスコ君が非常にできた(ないしは純真な)こころの持ち主、読んでいていとおしくなります。

 

家族の豊かさ

でちょっと考えたのが、この筆者の家族は豊かだなということ。

これは決して金銭的なことではありません。

母親や父親が、子どもの疑問を正面から受け止める精神的余裕があるということであります。

 

他方周囲を見れば、父親も母親も忙しく、なんなら子どもも塾通いで忙しそうな家庭が多くも見えます。うちもそういう家庭の子どもでしたが、家族でしゃべるという機会は実に少なかった気がします。

で私はどうなったかというと、私立中学・高校で勉強をしっかりして、世の中分かったみたいな勘違い野郎になり、時事を知らない両親を時に馬鹿にし始めたりと。まあ私の問題ではありますが。

 

本作でも問われるLGBTQ、女性の権利、移民の話等々。これらは正解がない話だからこそ、したり顔評論家みたいに答えを言い合うのではなく、「意見」を述べ、比較検討をすることが大事なのでしょう。それを家庭でまず実践できるのは実に豊かだなあと感じた次第です。

 

おわりに

ということでブレイディみかこさんの本でした。

ミックスカルチャーを作り上げている点はもちろんのこと、英国で保育士として勤務していた点でも氏のユニークさが光るかと思います。また、国際結婚をした身としては、頷いてしまう点も幾つかありました。

 

続編もあるらしいので安かったら読んでみたいと思います。

 

評価 ☆☆☆

2026/04/04

20世紀半ば、米国孤児院とリンゴ農園での濃密な人間模様 |『サイダーハウス・ルール』ジョン・アーヴィング 訳:真野明裕

皆さんこんにちは。

 

相変わらず、寒かったり暑かったりですね。

先般、下の子の大学の入学式に行ってきました。これがまたすんごい人。

幾つかキャンパスがあるのに、7学部7000人を超す新入生+その父兄(=合計で2万人は下らないと思います)を一つのキャンパスに集め、時間をずらすことなく一気に入学式を行う。まあ駅から大学までが混んだこと。雨も降っていたこともありましょう。

 

対して2年前に出席した上の子の入学式は二日に渡り数回に分けて開催したため、(混んではいたものの)そこまできつくはありませんでした。

 

ひとえに学校の方針の違いではありますが、下の子の大学は学生・父兄へのやさしさは少なめでしたかねえ。

 

ということで本題に参ります。

 

アメリカ文学とアーヴィング

正直、アメリカ文学には余り馴染みがありません。どちらかというと英国のものの方が原文でも読んでいましょう。

そうした中でのアーヴィング。どこで読んだのか、村上春樹氏が好きだかとかいう印象があり、いっちょ読んでみるかと手に取ったのが当初のきっかけであります。

 

まあ、ながい

高尚な世辞の一つ二つ喋れればよいのですが、先ずもっての印象はまあ長いこと。上下巻併せて1000ページの大作でして、読了するのに、そうですねえ、ざっと一か月弱かかったと思います。

 

前半は孤児院の院長で医師のラーチ氏の孤児院運営や子供たち、わけても後半では主人公的なキャラクターであるホーマー・ウェルズの養子先への出入り・出戻り、彼が女子寮の残りモノ・ジャイ子みたいなメロニィとの付き合っていた様子が印象に残ります。

 

後半(下巻)ではホーマー・ウェルズが孤児院から離れ、リンゴ農場へ住み込み、カップルのキャンディとウィリーと仲良くなり、ウィリーが出征している間にキャンディと致して子どもをこさえてしまう、さらにはこれを孤児院に里帰りして貰った「養子」としてリンゴ農園の関係者や戦争から帰ってきたウィリーに説明し過ごす様が描かれます。

 

人の生き方、というルール

サイダーハウス・ルールというタイトルの由来ですが、このリンゴ農園の季節労働者用の宿舎兼リンゴの絞り場があり、そこに書いてあったルールのことを指しているようです。

 

解説を読んで分かりましたが、季節労働者グループのボスであるミスター・ローズには(警察沙汰にならない)暴力というルールで集団を統率し、孤児院長のラーチ医師は人々を助けるというルールに従って生きていました。

 

人には人の考え方・生き方があるわけで、そうした異なる考え方・生き方の人たちのぶつかりあいが本作の起伏となっているように思います。

 

主人公のホーマー・ウェルズは、他人の考えの違いにいちいち反発するのではなく、それをその人の「ルール」としてとらえ、受け止めるということです。

その考えの違いを”right”(訳では「そのとおり」とする場面がおおかった)と表現することからも、まさに「ただしい・ふさわしい・そのとおり」と肯定する・受け止める姿勢が見て取れます。

 

いちいちぶつからない老成したホーマー・ウェルスが主人公であるからして、物語にもそうしたゆったりした、ある意味単調な古き良き雰囲気も感じ取れました。

 

なお、本作では堕胎もテーマの一つとして描かれており、女性の自由と法制度との狭間でラーチ医師が取った行為(堕胎ですが)については倫理的に考えを深める題材にもなるかと思います。

 

おわりに

ということで、初めてのアーヴィング作品でした。

訳がやや昔風(べらんめえ調というか何というか)に感じました。また、淡々とした記述は日本語でもやや眠気を覚えましたが、原書では更に苦戦しそうな雰囲気でした(実はこの前一冊原書を買ってしまった!)。

 

メイン州が舞台でしたが、米国の地図があったらもう少し楽しめたかも、と思いました。

 

評価 ☆☆☆

2026/04/01

 

村上氏のアーヴィング好きは以下に記述があったかと思います。

lifewithbooks.hateblo.jp


孤児にまつわる話というと以下を思い出します。

lifewithbooks.hateblo.jp

lifewithbooks.hateblo.jp

 

出口のないインド貧困。死ぬか苦しむか |『レンタルチャイルド』石井光太

皆さん、こんにちは。

 

今年の日本は桜の満開が遅めですね。私の実家近辺ではこの前の週末、未だに7分程度の開花具合でした。夜は夜で未だ寒く、上着が手放せません。

 

雨が降ったり、寒かったり、そのくせ花粉もけっこう飛んでいたり。

私は花粉症はないのですが、家内や子供たちは辛そうです。

 

早く暖かくなるといいですね。

暖かければ暖かいで、これまた暑い暑いと文句になるのでしょうが…。

 

ということで本題に参ります。

概要(裏表紙より)

2002年、冬。インドの巨大都市ムンバイ。路上にたむろする女乞食は一様に乳飲み子を抱えていた。だが、赤ん坊はマフィアからの「レンタルチャイルド」であり、いっそうの憐憫を誘うため手足を切断されていたのだ。時を経て成長した幼子らは“路上の悪魔”へと変貌を遂げるーー。三度の渡印で見えた貧困の真実と、運命に翻弄されながらも必死に生きる人間の姿を描く衝撃作。

 

蟻地獄のような、出口なしの貧困

あらすじで衝撃作、と銘打つ通り、確かに驚きでした。そして、何とも悲しいお話。

これは貧困が悲しいとか、売春が悲しいとか、手足の切断が悲しいとか、そういうことではありません。

 

いや、これらは十分に悲しいです。ただ、こうした苦しみに追いやられた張本人・それで嫌な思いをした張本人が、長じて生きてゆくために、仲間(手下)の手足を切り目をつぶし物乞いをさせたり、ヒジュラ(両性具有者。ただし本作ではゲイに近いニュアンス)を襲撃し、レイプするという事実。

 

これは、苦しみの輪廻というか、因果、から抜けることの難しさを語っているように思います。痛い目にあわされたマフィアに、いつの間にか自分がなっていた。そして生きるためには仕方ないと、それを繰り返す。

その蟻地獄のような出口のなさに悲しみを感じました。

 

物乞いでも苛烈な競争社会

物乞いそのものは東南アジアでは割と一般的かとは思います。

私の住まう東南アジアの辺境でも、週末朝ごはんをレストランで食べていると、突然車いすのおっさんがカラオケをしながら寄付を募って練り歩くというのはよくあることです。都心では奇形の男性だったり、足のないおじさん、乳飲み子を抱えた女性などが物乞いをしているのは見ます。裏でマフィアみたいな人がいるという噂もよく聞きます。

 

でも、本作の物乞いは、競争が激しい。

レンタルチャイルドを片手に同情を誘う。そのために私生児をかき集めたり、場合によっては誘拐してくる。そのレンタルチャイルドもそのうち同情を引かなくなるので、今度は手足を切断して不具にした上で同情を呼ぶ。

こうした子どもたちは物心つくと今度は路上に放り出され、物乞いをさせられ、マフィアにお金を巻き上げられる。稼ぎが悪いとボコボコにされる。

更にお金が集まらないと、更なる同情を集めようと目をつぶしたりして障害度を上げ同情を誘う。

 

その果てに、「死体屋」ともいえる、死人を練りまわし同情を誘うという物乞い方法を編み出したラジャの姿があります。しかし、その彼をして、生きるために仕方ない、と言われれば彼への反論はすべてきれいごとになってしまいそう。

 

そのような浮浪者の中でも熾烈な生存競争がある現実、これが心痛くも印象的でありました。

 

おわりに

ということで石井氏の作品はこれで二作目。非常に優秀なノンフィクションライターさんであると感服しています。

富裕な国から来た外国人にここまで心を開かせるというのは、やはり筆者が相応に信頼されたからなのだろうと思います。

貧困への解決策が特にあるわけではないのですが、この現実を明るみに出した功績は決して小さくはないと思います。今後も経済成長を続けるであろうインドですが、その成長や成功の裏で、闇もまた濃く影を落とすことになるのだろうと感じます。

 

評価 ☆☆☆

2026/03/29

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