海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

紋切り型若者論を鮮やかに喝破、現代の若者の気分をロジカルに抽出 |『絶望の国の幸福な若者たち』古市憲寿

こちらも、私の母親のスーパー積ん読文庫(処分済み)から救出された一冊です。

この前『戦争が遺したもの』という日本論・戦後論の本もこの処分本から救出しましたが、母はこういうの好きだったのかな?っとふと疑問に思いました。その割に、背に付いているしおりの位置すらズレておらず、買ったまんまだった雰囲気は濃厚でしたが・・・。

 


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ひとこと感想

テレビではニヒルな態度で存在感を放つ古市氏。

インテリ系タレントの印象が強いですね。でも本作を読むと、どうしてどうして、実にドライブ感あふれる『若者論』を展開してゆきます。

 

若者論の歴史

そのあらすじを述べれば、先ずそもそも若者とは何かと問い、これまでの若者論のあり方を過去にさかのぼります。端折って述べれば、そもそも日本には全体的で均質な世代としての「若者」などなかった(当然ながら農村に育つ「若者」と都市の「若者」には金銭的にも教育的にも大きな隔たりがあった)。それを、戦前・戦中の時の為政者が金太郎飴的な「若者」像を作成し、国民動員のために利用したという線が濃厚。

また戦後にも「若者」論は多く書かれたものの、今度は上位世代による『時代に追いつけません』的敗北宣言とでも言おうか、どちらかというと正しくない分析(思い込み)に基づく逆ギレ若者論であることを、過去の主張とデータとを照らし合わせて示しています。この点で、日本の若者論はこの数十年全く進歩していないと喝破。

 

若者論の死と最近の若者

さらに今、若者はおろか老人ですら、均質化されたイメージは持ちづらい。同時に社会では個別の生き方を認める中で、良くも悪くも紋切り型の「若者」「老人」という括りすら正しくない、とします。言ってしまえば一億総中流はもはや幻想で、同世代の格差も大きく、趣味や趣向、そしてライフスタイルについても「普通」という表現はしづらい。ここに若者論の死を見ることが出来ます。

そのなかで、20代・30代の、非正規雇用をあえて選び、親の自宅から離れず、同質の友人とSNSらを介してツルみ、やや遠めの将来をイメージせずに暮らす若者たち。彼らは特定の「島宇宙」の中に安住している限り「ほどほどに幸せ」ということになります。ただしニュースでも社会情勢の不安(日本の債務残高、年金不安)等が報道され、自分の将来には何となく不安は感じる。そしていざとなれば他人を助けるのを厭わない素直さ。結局これが『絶望の国の幸福な若者たち』の彼なりの結論、ということになるでしょうか。

 

おわりに

ということで古市氏の作品でした。

基本的には社会学の本でして、データに基づいて、ある論拠が正しかどうかを都度都度見極める姿勢が通底しています。また、彼一流のシニカルな物言いが随所に見られ、これがまた面白い(何の議論だっけ?と筋を失いがちにもなりますが)。裏の帯に上野千鶴子さんや小熊英二さんがコメントしていることからも、学者としても嘱望されていることが良く分かります。なお、小熊氏によれば『今後修行を怠らなければ有望株』とあります笑


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若者論を超えて戦後日本論ともいえる本作、宮台真司氏の著作などがちょっと難しかったと感じる方、日本の若者論に興味がある方、日本ってなんだか息苦しいと感じる方には面白く読んでもらえると思います。なお巻末には佐藤健との対談も掲載されています。なんでも佐藤氏と古市氏は同じ高校出身だそうです。

 

 

評価     ☆☆☆☆

2023/03/20

文体からにじむユーモアと鋭さ|『やがて哀しき外国語』村上春樹

長崎に旅行で来ています。残念ながら雨模様の天気なのですが、それでもやはり日本はいいですね。海外とは比べ物にならないサービスの良いLCC、田舎に行っても便利で正確な公共交通機関、芯から温まる温泉、そして何より多彩なローカルの食べ物!

来週も仕事を頑張ろうという気になります。

で、そんな旅行の行きがけに読み始めたのが本作。こちらも20年ぶりくらいの再読。


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村上春樹氏の、米国滞在中のエッセイを本にしたもの。かれこれ25年ほど前のものです。

 

今は押しも押されぬ日本の代表的作家として、すわノーベル賞獲得かと近年噂されることも多い氏ですが、本作執筆時に既に40代半ばながら、まだまだ瑞々しさというか、なりゆきで作家になったんだというなんだか新人作家の弁解のような空気が漂う作品。

 

やわらかい文体とひらがな

ひさびさに再読して感じたのは、ひらがなの多用。

個人的には、どうもワードプロセッサーを使うようになると、メールでもレポートでも漢字への変換は基本的にソフトウエアが担当してくれるわけで、漢字を敢えて使うことが増えてきてしまう気がします。

 

でも、今回本作を読み、村上氏はそうしたつまづきもなく、やわらかい文章を奏でているように感じました。「あまりにも(余りにも)」「なんだか(何だか)」「そのうえ(その上)」「まったく(全く)」など。ぱらぱらと振り返るだけでたくさん出てきました。奇しくもすべて副詞でした。で、こうしたひらがなを使うことで、氏の飄々とした雰囲気や、かしこまらない感じがよく伝わるなあと感じました。

 

ちなみに私が勤める金融機関の方々は漢字が大好き。しっかりとすすめてまいります、という文なら「確りと進めて参ります」、進捗が良くないながらも何か材料がある場合は「足元進捗は不芳乍ら(あしもとしんちょくはふほうながら)」(この「ながら」が、いかにも)、何かと基準や考え方を合わせる(be in line with)と言いたいときは99%「平仄を合わせる」等々。ほんと、固いなあ。

 

翻訳と原作の「はざま」にあるもの

また、あとがきにあるように、外国に住むことで芽生える日本語への意識やその気持ちの変化という話も興味深いものでした。併せて、「さらばプリンストン」にあるように、米国学生による日本文学の評論の採点のために、英語に翻訳された吉行淳之介の作品を読んでみて、原作と英語版との「ゆらぎ」にちょっとした違和感を感じたり、でもそれもそれで仕方ないと独りごちたり、言葉への感覚にスイッチが入る瞬間の描写は膝を打つものでした。

 

この手の話は異文化受容の時にはしばしば出てくる話ですよね。日本人が作るフレンチは本当にフレンチなのか、外国文学の翻訳を読むことでその作品を理解することは可能か、等々。個人的には100%完全な理解はできなくても、それでいいんじゃないかな、というのが意見。だって同じ日本人だってお互い理解しあえるかどうかは分からないじゃないですか。もちろん同じ言語を使えて同じ文化を共有できれば、より理解できる可能性は高いのでしょうがね。

 

外国でエバっている方々

もう一つだけ。「ヒエラルキーの風景」で語るいわゆる「駐在組」ちょっとおかしい人が多いというお話。私は官僚のお友達はいないのですが、村上氏がしばしば遭遇したという、共通一次のテストの点数を初対面の人に誇示する官僚たち、これには驚きました。それ以外にも大企業に勤める「何をそんなにエバっているんだろうと思う人が散見される」、ひいては『日本は、僕が想像していた以上にエリートが幅をきかせている国だったんだ』という驚きのも、心当たりアリです。

 

9年前に初めてアジアで働き始めた時の直属の上司はラ・サール→トーダイの方で、「アジアの英語は英語じゃないから」と現地ローカルの発音を批判する割には、「おまえもな」という程、本人は日本人発音でした。ローカルの部下への批判は厳しいわりに、本人はゴルフにのみ熱心で、夜の8時から社用車で打ちっぱなしに向かうこともしばしばな方でした。

 

まあこの手の話は湿っぽいし、無尽蔵にあるのでやめておきます笑 でも、海外に出ると急に気の大きくなる輩ってのは確かにいますね。まあ私のことやもしれませんが汗

 

おわりに

ということで、村上氏の米国滞在中のエッセイでした。ユーモアのセンスや目のつけどころが面白い、味のあるエッセイでした。

日本語、外国語、米国文化等に興味のある方にはお勧めできる作品だと思います。

 

評価   ☆☆☆

2023/03/23

長崎のカステラから垣間見るぶっとび父ちゃんの歴史|『かすてぃら』さだまさし

私事で恐縮ですが、来週長崎に家族で旅行に行こうと考えています。

一家の人柱を自認している私は、各種予約、旅程表作成も自分の仕事と理解しております。そして最後の仕事は、旅行先が舞台になっている小説をチョイスand読むということ。

うーむ。長崎が舞台。色々調べたのですが、一発目は歌手のさだまさしさんの作品を選びました。読み口が優しく読みやすいので、子供たちにも何とか無理やり読ませたいと思います。

 


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佐田家のファミリーヒストリーを繙く

死。

人が生まれたら必ず経験するもの。

特に直系の親族や年の近い家族の死は、周囲にとっては大きな悲しみであることは言うまでもありません。

 

当然の事ながら、その辛さは芸能人でも一般人でも変わりはありません。

 

本作「かすてぃら」は、歌手のさだまさしさんのお父様の死に際から始まる、言わばファミリーヒストリーの回顧です。

 

その父親の豪快さ故か、文章はどこか軽妙でユーモラス。そして昭和の牧歌的な雰囲気が全編に漂います。

満洲で育ち中国語を解し当地で徴収、引き上げに際して戦友の地元であり母の出身地であった長崎に還ってきたさだの父、雅人。人が良くて他人の保証人になっては借金を肩代わりする。借金の返済を迫るヤクザに逆に凄みを利かせともに心中しようとする。そんなチンピラも、頭を下げる場合には助けてあげてしまう。水害で商材の材木を失い大損害を出しても、友人の安否の方が大事。お金を持っていない自分が悪いのに高速道路の集金でツケ断られもめにもめる。駐禁で捕まった警察官にキレて、爾来駐禁を見つけるとその警察官に取り締まるよう電話する(メンドクサ!)、等々。

こういう規格外の方なので、何のかのと人が集まる。明るい偏屈さ、とでもいうのでしょうか。

きっと実際には家族が被った迷惑もそれなりにあるのでしょうが、奥様の内助の功でしょうか、家族が仲良く関係を維持できているというのは素敵なことだと思います。

 

キーアイテムは、カステラ

興味深いのは、題名にもなっている「かすてぃら」。昭和の終戦後、カステラは地元の名産やローカルな食べ物というより、むしろ贈答品。ヤクザの親分のお礼の時も出てきますし、改まったときに桐箱に入ったカステラを贈ることで何がしかの誠意を示そうとする。そんな詫びを断る、礼も受け入れない、でも持ってくるカステラだけは受け取るという雅人。そのカステラを愛してやまない姿がなんとも微笑ましい作品でありました。

なお本作でも高級品として福砂屋のカステラが登場。私も長崎に行ったら是非食べてみたい笑。そういうと、思案橋のそばの宝雲亭でぎょうさを食べるという話も出てきました。こちらも気になる。

 

おわりに

ということで、ほのぼのとしたファミリーものの小説でした。

私も老いた両親を持つ身として、その関係に悩むものです(まあ親父はボケ気味だし、お袋は面倒くさいし)。でも順番を考えれば、諍い争う時間は本当にもったいない。できるうちに孝行はしたいと改めて思った次第です。

 

親が面倒だと思っているこどもたち、長崎に縁のある方、ファミリー系の話が好きな方にはお勧めできると思います。文章も至って平易ですので、中学生、場合によっては小学生でも読める本だと思います。

 

評価   ☆☆☆

2023/03/18

自分の「好き・得意」を中心に自己分析。ただ、社会の変化は速いぞ |『ライフピボット』黒田悠介

日本では今週に入りぐっと暖かくなってきましたね。近所の川べりの桜の数本は慌てて少し咲き始めました。

海外に居所をもってはや9年目ですが、ことしはそれ以来のお花見が出来そうです。

 


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会社に縛られる時代の終焉。じゃあなにする?

起業や副業・複業。

こうした働き方を認める会社やフリーランスという形態にたどり着くってのは、なんか「負け組」のイメージがありました。コンベンショナルで所謂デカくて「良い」大企業への選に漏れた方々がたどり着く、みたいな。パターナリズムに満ちた企業が終身雇用が維持できなくなったからそうした業務形態をとる、という。

 

ところが今はどうでしょう。コロナを経て、こうした因習的な考え方は大分薄れた感があります。少なくても私の中の偏見は消えました。そして世の中の働き方はより多様な形をとるようになってきたと感じます。

私もその多様性の恩恵に浴しています。出社しなくてもネットワークを通じて仕事をする形、所謂リモートワークであったり、その亜種としてのステイケイションであったり、副業を認める会社の出現やそれに伴うギグワーク、請負、さらにはフリーランス等々。本社を地方移転する企業がでたり、地方移住のテレビ番組がNHKのレギュラーになったり(「いいいじゅー」)、実に色々な働きかたがここ数年で見られたと感じます。

www.nhk.jp

 

 

でも、じゃあ自分は何ができるのか?何がしたいの?っていうと実際には固まってしまうことも多いわけです。そのような方には本書のようなキャリア本が助けになることでしょう。

 

ざっくり言えば、自己分析と関連キャリアの探索

さて本書、題名の通りですが、一つ軸をもって(現業、得意なこと、あるいは好きなこととか)、それに関連する興味・技術・サービスなどを書きだしつつ自分のキャリアの方向性を探る、というものです。そしてその軸をもってより柔軟に次のアクションへ踏み出そう、というものです。

この「軸」というのは別の言い方でいえばコア・コンピテンシーという言い方もできると思います。リーダーシップやマネジメント経験がある方はその能力を生かして、自分の好きな組織・好きなプロダクトやサービスを提供する会社で能力を生かす。動画作成がサクサクできちゃう人は、友達や親族のお手伝いで楽しみつつ、いつの間にかお小遣い稼ぎをへてプロになる、みたいな。

そうした好き・得意などの軸を発見し、可能性を探る、といったものです。

 

世の中の変化は、予想以上に速い!?

なるほどねえ、って感じました。確かにね。

ただ、この程度の話は、ひょっとしたらあっという間に陳腐化してしまうのでは、とも感じるのです。そう思わせる事象に先日遭遇しました。

実はうちのムスコ、そろそろ高3なのですが、所謂総合型選抜(昔のAO入試や推薦入試みたいなの)で大学受験をしようかと考えています(学力的にオバカ泣)。そのために三つほど専門の塾に行き、一緒に話を聞いてきました。そこでは、どこでも概ね、私が就活や転職前にやっていたような自己分析・環境分析を徹底的にさせるのが通例のようです。選抜の性格からすれば当然ですが、子供にこういうことを謂わせるのか、とちょっと驚きました。

 

あなたはどんな人間ですか? 得意なことは何? 弱みは何? 将来やりたいことは? そのやりたいことのために今まで何をしてきましたか? その活動は大学でどのように生かせますか? あなたの研究テーマと大学はどのように関連するのですか? 等々。

もう「大学」が「会社」に変われば、入学面接から就職面接に変わるだけです。

 

でね、17年18年しか生きてこなかった子供たちが、自分とはどのような人間なんだろうと自己分析、環境分析をする時代になりつつあるんです。彼らのやっていることってちょっと難しく言えばSWOTとかポーターの5フォースの理論を、個人に適用するような話なのではとふと思いました。

とすると本作のようなゆったりと構えつつ自己省察を促すようなスタイルをとる人は、あっという間にイシキの高い若手社会人(それこそ総合型選抜でじっくり自己分析しちゃって目的意識を高々と設定した子たち)に凌駕されてしまうんじゃないかと。パイセンそんな目的意識もないのにプロジェクトに入るんじゃ進捗足引っ張るんでマジで邪魔しないでください、みたいな。

 

がんばろう氷河期

・・・でもまあ、旧世代は旧世代なりに頑張るしかないですね。

「早稲田に入れば女なんかみんな寄ってくるぞ。今は勉強に集中しろ」、なんていう発言が飛び交う学校で過ごしました(1990年代)。早稲田にも女性にも、そして学生にも失礼極まりないですよね。もう、自分とは何か、どころじゃないですよ。大学入学が目的になってんだもん。

それでも命は続いちゃうし、お金は稼がないといかんし、でもできれば好きなことや得意なことで食い扶持を得たい。だから、子供たちに負けないくらい根詰めて自分について考えないといかんのだなあ、と思いました。

 

おわりに

ということで、副業・複業を見据えてアラフィフのおっさんが今更ながらにキャリア論の本を読んじゃったという話です。

好きなことをして生きたいな、と考えている方には、自己分析入門として読んで損はないと思います。手を動かして気持ちや分析内容を書きつけているうちに何かしら得るものあると思います。アイディアも湧いてきます。

ちなみに私のケース。私は読書(日本語・英語)が趣味ですが、「未翻訳の英語の本を読んであらすじを作成:一冊1,000円(一日20頁くらいの速度で納期を設定)」みたいなしょうもないサービスを考えました笑。まあニーズ、無いでしょうが笑 そういう「こんなことできたらいいな」を考えるだけでも十分に楽しい。素敵な読書時間を与えてくれた作品でありました。

 

評価     ☆☆☆

2023/03/14

世の価値観の変遷に思うアクティビストの役割|『動物の権利』編:ピーター・シンガー、訳:戸田清

この前、高2の息子がオンラインでクラスメートとディスカッションをしていました。お題は『動物園は廃止するべきか?』 そしてマイク越しにムスコが喋った言葉に耳を疑いました。

『いや、ピーター・シンガーの議論もさあ、slkdurfap〇▽&^%#@$E』

むむぅ? 日がな『ダルイ』とつぶやくかYoutubeをみて息を殺して笑っているかの君から、よもやそのような高尚が名前が出ようとは。

私が20年以上前に読んだ本作を棚から引っ張り出し、『ほれ。ピーター・シンガー。読む?』と問うと、即座に『いや、断る』

ただ、逆に父は少し感心しました。最近の高校の倫理ではこういうトピックを扱うんだ、と。

ということで、感慨に耽りつつ20年ぶりの再読でございます。ちなみに「動物園反対論」という小論が本作に所収されており、きっとこれが倫理の授業で取り上げられたのだと思います。

 


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アクティビストの啓発的な存在意義

いわゆるアクティビスト、というとエクストリーミストというイメージがあります。

「危険な奴ら」みたいな。

 

本作、久々の再読でしたが、以前とは違った印象を得ました。

それは、極端なアクティビスト達の存在意義も十分にあるのかな、ということです。彼ら活動家の話は、本作に収録されている「アニマルライト活動家たちの声」に明るいところです。もちろん、破壊活動であったり暴力であったり、常識的な観点からすれば十分法に触れる行為だと思います。眉を顰めたくもなります。有名どころだというとシーシェパードとか(本作にも出てきます)。

でも、その極端な行為というのは、現状の価値観に異議を唱えるための問題提起なのだろうと、ちょっと肯定的にとらえ始めている自分がいます。動物愛護や動物実験の代替方法も大分進んでいるようですし、アクティビストの活動もイノベーションの一助になっているのではないかと感じました。

 

主張自体は好きではないも・・・

いやもちろん、個人的には、世の中の価値観というのは、0か1か、とか白か黒かとか、はっきりと分かれるものではないと思います。だから本作にあるように、畜産への大々的批判とかをするとちょっと居心地がよくないんです。だって私、しゃぶしゃぶだって焼肉だって好きだし。

しかも、本作では、感覚のある生物や高等な知能を備える哺乳類と人間との間に、その生命の尊さの差異の境界線を設けるのが厳しいと主張します。まあ同意できます。でも、だったら、生命の尊さという観点では、魚や草木だってみだりにその生命を奪うことはやっぱりよろしくないのではないか、と考えてしまいます。植物については本書に触れられていませんが。というより、そもそも人間という種は生きている限り他の生物の殲滅しかしない害悪にしか見えなくなってきます。だったらさっさと人類は死ぬべきか?とか極論に至りそうで。

種の間の命の平等ってあるのかなあ?良く分かりません。

 

理論的な基礎づけの作業は専門家に任せるとして、一般人の考えはアクティビストの啓発等もあり徐々に考えが変わってきたのかなあと思います。ファッションぽい人も一部いますが、ヴェジタリアンやヴィーガンも増えてきました。動物に対するそうした「まだら」の価値観の模様はひょっとしたらアクティビストらの活動のおかげでもあるのかなあ、と。私は、そうした多様な考えから冷静な議論が進むといいなあと考えます。

 

今でもこうしたアクティビストを素直には見れません。なんだかやかましいなと。類例では、環境保護とかで声高に叫ぶ人たちを見ると、どうにも覚めてしまう自分がいます。でもそうした活動から省エネだったりリサイクルだったりが普及するきっかけとなるのであれば、世の中の良化に資する可能性はあると肯定的に捉えることが出来る、と最近は思うのです。

 

おわりに

ということでピーター・シンガーの本でした(じっさい彼は編者プラス頭と終わりにちょろちょろ、だけですが)。

かなり古い本になりますが、種の間の命の価値の差異、他の種の権利の有無等々、現代的倫理トピックに満ちた作品だと思います。

動物が好きな方、命の重たさの軽重?などのトピックに関心のある方には興味をもって読める本だと思います。

 

評価     ☆☆☆

2023/03/13

 

 

 

 

貴重なお時間を頂きまして、ありがとうございました。

面白い!私家版「世にも奇妙な物語」|『世にも奇妙な君物語』朝井リョウ

最近、こっそりはまっている朝井リョウ氏の作品。

エッセイはかなり面白いと感じており、ノンフィクションはどうかと、先日「どうしても生きてる」を読んでみました。まあ、それは普通かなーという感じでした。

懲りずに読んだのがこちらの作品。読後に娘に貸したのですが、返ってくるのに1カ月ほどかかりました笑

 


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私家版 世にも奇妙な物語

世にも奇妙な物語

もうだいぶ長く続いている番組ですよね。Wikipediaで見ると、何と1990年から続いているようです。タモリを案内役に配し、世の中のちょっとした不思議やホラーのテイストをフィーチャーした作品が斬新でありました。

著者の朝井氏はこの番組が大好きなようで、その番組へのオマージュ的作品です。でも言い方を変えると、好きすぎて自作した!ということのようです。いやはや「好き」のパワーってすごいですね。

 

「13・5文字しか集中して読めな」だけのために買ってもいいくらい

さて作品は5つの短編からなります。

シェアハウスさない・・・とあるシェアハウスに潜入したライターの女性。そのシェアハウスはライターの女性以外どうも奇妙な連帯があるように見える。彼らが抱えるものとは…。

リア充裁判・・・コミュニケーション能力を金科玉条とする近未来のディストピア的舞台。からなずSNSで自己アピール、友達と積極的につながる等々。多様な価値観が抑圧された息苦しさを描写する筆致は秀逸。

立て! 金次郎・・・幼稚園の熱血教師、金次郎の熱(苦し)いモンペとの格闘がベースライン。最後に金次郎の思いが通じ、うるさがたのママも金次郎の運動会での采配に感動したかに見えたが…。

13・5文字しか集中して読めな・・・ネット記事ライター香織とその家族の話。陳腐で浅薄な記事について自己正当化を必死でする一方、子供の直喜はそんな頑張る母親を心から尊敬する。ツイストは授業参観での直喜の行動なのですが…。私はこちらの作品が激押し。

脇役バトルロワイヤル・・・いつも脇役しか与えられない役者たちが、とある舞台のオーディションで一室に集められる。しかし待てど暮らせどオーディションは始まらない。これはいったい何なのか??

 

どれもゾクっとくるツイストが随所に潜んでいます。私は「13・5文字しか集中して読めな」が好きです。自分の価値観とのずれを感じながらも仕事をするって、まあ必要だし大事な場合もありますが、心の声に耳を傾けないと、時に大惨事になりうるというような教訓じみた帰結を導き出したくなるお話でした。ゾクゾク。

 

おわりに

ということで朝井作品でした。

短編集ということもありますし、朝井版「世にも~」でもありますので、肩の凝らない読書ができると思います。

ちょっと隙間時間に読書がしたい、気分転換をしたい、というような方には喜んで読んでもらえる作品なのではないでしょうか。

 

評価   ☆☆☆

2023/01/23

穏健で好印象、効きそう。いい人過ぎてインパクトは弱め |『医師がすすめる少食ライフ』石黒成治

これまで色々な健康系の本を読んできました。

痩せていたいとかスタイルを保つという目的がゼロではなかったのですが、基本はコンディショニングが目的です。サラリーマンたるもの、元気に出社して始業とともにフルスロットルが踏めてなんぼだという信念がありました。

ただ、実際には糖質ダイエット系の本、妙に断食を勧めてくる本など、完全にしっくりくるものにはなかなか出会えていなかったのが実情。

 

そしてアラフィフとなり、自分の体に衰えが見え始め、一層コンディションに気を払って生活したいと思っているさなかに出会ったのが本書であります。

 


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ひとこと

バランスの取れた良書だと思います。

他のダイエット本や理論を攻撃するというのも一切なく、「生活に節度を保つ」(P.24)ことを主張しています。

 

詳述すれば、食べ過ぎを避け、16時間程度の間欠的断食をすすめ、胃腸を十分に休める。また食べるものもなるべく自然に近いもの、食物繊維を取る、というところが主だったところ。炭水化物もタンパク質も適切に摂取。加えて運動や睡眠にも気を払い、腸の健康やデトックス(排便)にまで主張は及び、実に包括的なアプローチであります。

帯を見るとかなり穏健な健康本であることが分かりますよね。

 

ダイエット本の一部には、炭水化物や肉について、「それだけ」をすすめ、他を排除・否定するという論調が散見されます。でも、糖分もタンパク質もどちらも何世紀にもわたって人類とともに存在してきたわけで、完全否定するというのはどうも極端に感じるんです。ヒトの傍に存在してきたということは、なにがしかの有用性がそこにあったからではないのかなあと考えてしまいます。

その点では本作は実に「大人」な穏健なアプローチでコンディションを考えるものです。

 

なぜ少食がよいのか、理論的背景の追及おねがい

難点を言えば、やはりなぜ少食が良いのかがもっとわかるといいなあと思いました。本書にも米国での調査データの引用がありますが、少食と長寿に有意な関連があるというのが経験的にわかっているというだけのようです。なぜ少食だとコンディションが良くなるのか原因がはっきりしません。少食が体の「エマージェンシーボタン」を押すから?でも昔の人は食うや食わずやで、飢えている人は当然に長寿にならんしなあ・・・。

少食健康論の理論的背景がはっきりしてきたら、「ダイエットなんかしてないでもっと食べなさい」とうるさい母親にも対抗できるのですが笑 違うんだってば!別に痩せなくていいの、俺! 体にいいらしいんだって(っていう所で根拠が弱いなあってなる)

 

また、本作では固形食の16時間断食を推奨しているのですが、うちの家内とか娘とかは胃液の分泌が良いのか、空腹が続くと胃痛を引き起こしそれが結構引っ張るんですね。そういう場合はどうすればいいのでしょう(直接診察してもらうのがもちろん良いのでしょうが)。家族構成員の体質が異なると、「俺は先生のことを信じて16時間ファスティングする」とか勝手なことは言えないのがつらいところです。加えて、先生はスープダイエットを推奨していますが、成長期の子供に対してはやはりちょっと心配。試してみる気にはどうもなれません・・・。

 

おわりに

ということで、全般的には穏健で印象のよいコンディショニング本でした。

穏健過ぎて印象が弱めな本なのですが、結構正しいこと言っている気がします。類書と併せて勉強し、腹八分目をぜひ実践してみたいと思います。

 

評価     ☆☆☆☆

2023/03/05

 

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