海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

マクロ経済学と歴史文化の交差点 |『波乱の時代(下)』アラン・グリーンスパン 訳:山岡洋一、高遠裕子

最近気づいたこと。

いつも本文の内容とは全く異なる「まくら」を書いてから感想を書くのですが、この「まくら」の部分が他のポストと関連していると思われることがあるようです。ウーム。

前回高校野球の本を読んだのですが、関連したポストとしてサミュエル・ハンチントンの本の感想が上がっていたんですね。案の定、ハンチントン氏の感想の「まくら」に、息子の高校野球のことがギャーギャー書いてありました。すみません。

 

今日も懲りずに、日常のことを「まくら」として綴ります。

今日は脳のCTの話をしましょうか。久々にCTをとってきたんです。CT撮るときって、造影剤を注射するのですが、造影剤を入れると一瞬で体がカッと火照るんですよね。あれって気持ち悪いですよねえ。体中が血管で繋がっているのが体感できますが、クスリの威力というか、人間というシステムが薬物でこうも簡単に影響されるのか、って感じました。

さて、この「まくら」が原因で、グリーンスパン氏の回顧録はどのような作品とマッチされるのでしょうかねえ。

 

下巻の内容

上巻では主に回顧録の形を取り、グリーンスパン氏の謂わばライフヒストリーを扱っていました。

本下巻では彼の経済観・経済論、国際情勢、今後の世界について等々の、幅広く彼の思想が披露されています。

 

レッセフェール=効率を生む!?

もっとも印象が強いのが、彼が強固な自由主義者レッセフェールを愛する男だという事でしょうか。その深度たるや、FRB議長にあって、時代が下って陳腐化した不要な規制は定期的に廃止するべきで、実際そうしていたと回顧する部分すらありました(箇所忘れました)。例えばヘッジファンドについてもバランスシートを当局に提出する点については彼は大の反対だということ。曰く、頻繁にポジションを変更するヘッジファンドのバランスシートを、たった一時点の記録を当局に出したところで数分後には変化している可能性が高い。つまり意味がないという話です。

 

彼はマーケット、神の見えざる手の篤い信奉者です。きっとヘッジファンドに対する規制が無いとして問題にならないと考えているのでしょう。逆に問題になる場合はどういう場合でしょうか。ファンドが過度なリスクを取る場合? でもリスクとリターンが相関することから、ハイリターンを求めるならばリスクを負う側が気を付ければよいだけかもしれません。

ファンドにも購入者にも足りない部分はあるかと思いますが、それこそがマーケットで互いに傷つけあいながら(!?)「ベストプラクティス」が積み上げられることを期待しているように見えました。これまさに自己責任。

但し詐欺はいけません(氏が言っているんですが)。詐欺を防止するルールは当局は厳に取り締まり、それ以外はマーケットに任せるというようでした。

 

レッセフェールマクロ経済学との結びつき

面白いのは、このレッセフェールグローバリズムマクロ経済学にも結び付けていたことでしょうか。

例えば、米国の経常赤字。かつて学校で習ったとき、この原因として高品質で低価格の輸入品を受け入れたためだということでした。グリーンスパン氏の解釈は「イノベーション」ということに見えました。あるいは投資。

日本は経常黒字が多い国ということで、これまた投資した米国債の配当金や利金が多いことが説明として多かったと多いと思います。ただグリーンスパン氏的に説明するならば、もはや日本国内に有望な投資先がなく、投資先がグローバルになったと言えると思います。逆に米国サイドから見れば旺盛な資金需要を国内だけで満たすことが出来ず、海外からの資金を受け入れているということになります。

こうした自由な資金の移動が米国でのイノベーションを生み、そして外国の投資を成功させた、そして地球全体として繁栄を形作った、ということですね。

上手く表現できませんが、とにかく知的好奇心がすこし刺激されました。マクロ経済学は20年前に証券アナリストを取るときに勉強したっきりですが、何か間違えていたらごめんなさい。

 

今後のキープレイヤーについても結構詳しく

また、今後米国に影響を与えることになりそうな国々にも章を割いていました。

中国、ロシア、インド、そして中南米です。全般的には、個人の権利が確立し、資本主義という市場という「神の見えざる手」が働くところにこそ繁栄があるという見方でした。中国は財産権が曖昧で不確か、ロシアは財産権の概念は為政者により変動する、インドは因襲的で規制が多すぎる、そして中南米ポピュリズムが資本主義に規制を与える、というのが発刊当初の氏の考えのようです。

 

結構しっかり見ているんですね、という印象。

グローバリズムとか新自由主義とか、弱い人の立場からはけしからんと考えていました。ただ、本作を読むと市場に任せる効率性、規制によるコストを撤廃しマーケットに還元するという考えも理解でき、なるほどと思った次第です。

 

おわりに

ということで戦後では最長の18年以上をFRB議長として金利政策をリードしたグリーンスパン氏の回顧録でした。

下巻は氏の思想が中心でしたが、含蓄のある面白い内容でした。哲学科出身にはちょっと難しかったのですが、経済をしっかり勉強した方にはより面白く読んでもらえると思います。

 

金融関連に興味がある方、経済学(特にマクロないしは計量経済学)に興味がある方、米国や関連の地政学に興味のある方等々にはお勧めできる作品かと思います。

 

評価 ☆☆☆☆

2023/09/21

居酒屋で隣り合わせたオヤジが、実は業界のすんごい人だった、みたいな本 |『小倉ノート』小倉清一郎

しつこいようで申し訳ないのですが、今年は高校野球(甲子園)にドはまりしました。

神奈川県予選の準決勝を横浜球場で見て、その後決勝をテレビ神奈川で見ていました。横浜高校慶應義塾、9回表のダブルプレー未遂(横浜高校)とその後の逆転ホームラン(慶應義塾)。その時何となく「慶應の優勝とかあるのかもねえ」とか思いつつ、以降バーチャル高校野球で神奈川代表を追っかけて、結局慶應の優勝。

 

私自身はどこかのファンでもなくどこが勝っても良いのですが、頑張っている選手の姿、これにハマりました。自分にもかつて、あれだけ頑張っていたものがありました(バスケ)。へなちょこでしたが、当時の鬼監督に生徒で団結し反発?しつつ試合に勝というという目標がありました。

そんな過去に思いを馳せ、甲子園球児の涙に自分を重ね、勝手に感情移入していました。

 

さて、本作は当方の愚息が中学生の時にKindleで買ったものでした。私の高校野球熱が突如盛り上がった今、ふと思い出して読んでみた次第です。

因みに、甲子園の解説では、元日大三高監督の小倉さんもよくテレビに出ていらっしゃましたね(小倉違い)。ハスキーな声が特徴的でした。

 

ひとこと感想

横浜高校で部長を務められていた小倉氏の、高校野球に関するあれこれを綴った本。題して小倉ノート。

感想をザックリ言うと、飲み屋で偶然隣に居合わせた専門家から、高校野球についていろいろと教えてもらった、という読み口でした。

 

データ、パターン分けがすごい。細かい!

一番感じたのはやはり細かい、という事でしょうか。

どのスポーツもそうですが、数えきれないほどのパターンがあり、それに対するリアクションも幾つかあるわけです。バント一つとっても塁上に選手がいるパターン、打者の左右のパターン、そして転がす先(一塁/三塁/投手)のパターンなど、この場合はこうするああする、なぜなら、と細かく教えてくださいます。

私は素人なので、分かる話は「なるほど」と思うのですが、バットスイングとか打者の軸足の話だとか、捕手の二塁送球時の足の構え方等の(私にとっての)細かすぎる話は「くどめだなあ」と感じてしまいました。勿論、よくわかっている方でしたら、「おお、なるほど」と思うのかもしれません。

 

また、横浜高校出身の有名選手(元ロッテの愛甲選手、元西武の松坂選手、タレントの上地さん)の話や逸話などもあり、何となく居酒屋で裏話を伺ったような気分になりました。そんなざっくばらんな雰囲気は作品全体にわたって流れていると思います。

 

少し気になりました

一つ気になったのは氏のコニュニケーション方法です。

幾つかの教え子を挙げて、「あいつ等にこうして教えてあげたのに、甲子園のあのシーンで従わなかったから、案の定失敗した」等々の記述が数か所ありました。

教えたのに聞かない選手がいるということは、選手に届いていないか、或いは選手が納得していないからだと感じました。そうしたすれ違いは親子、部下上司でもある話かと思います。現場の人(選手)が失敗した、俺がちゃんと指示したのに・・・、では済まないかもしれないなあとぼんやり感じました。

 

素人なので分かりませんが、部長と監督という二枚看板が揃ってキレ者だった時は、チーム運営が難しいのかもしれません。その下でプレーする子どもたちも、時としてどうすればよいのか分からないかもしれませんね。例えば部長と監督のいう事が違うときとか。そういうこともあったのかも、と勝手に想像してしまいました。

 

おわりに

ということで元横浜高校野球部部長の小倉氏による高校野球あれこれ、でした。

ややくせのある物言いですが、他方データやフォーメーションなど非常に細かくデータやパターンなどを重視する方であることが分かります。

 

野球好き、高校野球好きにはお勧めできる作品かと思います。

 

評価 ☆☆☆

2023/09/15

自分を塗り替えることでしか生きられなかった者への共感 |『ある男』平野啓一郎

私の在所には、日本映画祭というものがあります。

国際交流基金という独立行政法人が主催しており、主に日本の文化・芸術を広めるような活動をしています。で、そこで上映される日本映画が私のところですと大体300円くらいで見れます! ローカルの外国人ではないのですが、毎度ご相伴にあずかって見させてもらっています。

そして本作、今年当地で上映されたものです。映画がなかなかに心に響くものだったので、今回原作も読んでみることにしたものです。

 

ひとこと

いやあ、面白かったです。

私は映画をはじめに見て、その後に本を読みましたが、どちらにも固有の面白さがあったと思います。そして両方とも鑑賞してもらいたいです。面白かったです。

 

元在日というスティグマ

主人公の城戸(弁護士)は帰化した在日三世。

見どころは「自分とはナニモノ」かと問わざるを得ない彼の境遇ではないでしょうか。帰化した日本人とはいえ、「元」在日というスティグマは消えることはありません。ハングルも喋れない、名前以外は朝鮮っぽいものは何も持ちえない。しかし、それでも在日というスティグマをほじくろうとする人々がいるわけです。関東大震災100周年である今(物語では90周年)、多くの朝鮮系の方が日本人により、そしてデマにより虐殺されました。その残虐性に悔いた人も少なく、加えてこれを無い物だったと主張しヘイトスピーチを繰り返す団体もいます。

 

主人公の城戸は、家族も守り自分もスティグマを越えて生きたいと願う一方、常に弱者に温かい目を向けつつ、それでも常に不安感を抱いています。そして、彼のもつ健全な共感・繋がれる力が語のベースを作っているように思えます。そしてそれこそが、スティグマに抗しきれず戸籍交換をした人々へと物語を進展させてゆくのでしょう。

 

戸籍交換とスティグマ、そしてドラマ

物語のもう一つの頂点は、やはり戸籍交換のトリックと、その周辺にいた関係者でしょう。「谷口大祐」として亡くなった原誠は、殺人者の子というスティグマから逃れられず、自殺未遂の末、戸籍交換をし、それを家族に言うことなく事故でなくなりました。

事象そのものは犯罪ではありますが、妻や子供にとってはとっても優しいお父さんでした。また事件の全貌を理解した弁護士の城戸にとっては、この原誠は戸籍交換をへて身を偽った4年弱の時期こそが幸せな時間であったと断言しています。

嘘をつかれていた家族は、事実を受け入れるのが非常に難しいことだと思います。ただし、時間を過ごした家族は、背景はどうであれ愛し合った家族、そこにある愛は肌感覚として記憶されています。ここに、アイデンティティとかスティグマとか名前とかを越えた紐帯が「救い」として用意されていると感じました。

 

対して、人は往々にしてカテゴライズして単純化して人を判断するということも暗にほのめかされています。そして「在日」とか「犯罪者の子」とか単純かつ安易なラベリングがいとも簡単に人を窮地に追いやるという事実。SNSなどが無い100年前からそうした残虐が日本にあった。つまり日本はそうした観点では全く進歩していない可能性が示されます。

 

映画との比較

さて、本作は映画化されており、ベネチア国際映画祭にも出品されています。

私は映画を先に見ましたが、まとまりが非常に良かったと感じました。原誠と彼を亡くした家族の物語が中心で、どのように戸籍交換が行われてかというミステリー味が強い作風に仕上がっていたと思います。原作の純文学的な味わいが、上手にエンタメ系のフォルムに変容していたと思います。

 

キャストも、主人公の城戸を演じる妻夫木聡さんの人の良い笑顔も、とてもマッチしていたと思います。理知的な美しさを誇る理枝役の安藤サクラさん、大祐のメンドクサイ兄の恭一を演じた眞島秀和さん、原作ではあまり出てこないパートナー弁護士の中北を演じた小藪千豊さんなど、なんというか、原作を読みつつなるほどな、と思える配役でありました。

 

また、原作(本作)ですと、城戸弁護士と、谷口大祐さんの元カノ美涼との仄かな恋心と、一線を越えてはならないという理性が、ぎりぎりのところでせめぎあっている描写も多く、結構はらはらさせました。

映像では、この美涼という役どころ、「少し疲れて、でも美しく魅力的な女性」という風で、清野菜名さんが演じていました。城戸との仲が「なんとなく」いい感じになる、その「なんとなく」感が上手に演出されていたと思います。

ただ、本を読むと美涼は40代ということです。原作で彼女は、こんなおばさんでもみんな色目を使うと愚痴るのですが、清野菜名さん顔の40代がいたらそりゃナンパされるわな、と本を読みつつ映画を回想し独りごちておりました。

 

おわりに

ということで平野啓一郎氏による作品でした。非常に面白かったです。

純文学らしいやや衒学的な表現、弁護士の城戸の正義感と裏に潜むスティグマへの恐怖、戸籍交換を行うに至った厳しい境遇にいる人々とその背景への共感等々、非常に面白く読めました。

 

純文学好きは言うに及ばず、日本現代史、在日関連に興味がある方、はたまたエンタメ好きにもお勧めできる作品です。

 

個人的には映画で頭の中で筋を構築し、原作を読み、その後物語をより立体的に味わうのがお勧めです。にしても、一番応援したいのは夫を亡くした里枝の長男の悠人(中学生)ですねえ。健全に育ってほしいなあ。

 

評価 ☆☆☆☆

2023/09/16

ガヤつく関西弁と美しく印象的な日本語、そして不思議ちゃん |『ふる』西加奈子

ひとこと

私のお気に入りの一人の西さんの作品。

相変わらずぶっ飛んだ感じの作品でした。

 

気になったこと、幾つか

タイトルからして「ふる」ってのは頭の中では「振る」?雪が? あるいはあだ名が「ふる」みたいな(古川とか古田)みたいな人が出てくるのかなと思いきやそうでもない。結局タイトルの所以は分からずじまいでした。

 

主人公はAVのモザイク掛けが仕事で、周囲の背後霊?というか後光?みたいな白いふわふわが見れるという池井戸花しす(いけいどかしす)。これまた漫才師の片割れみたいなウケ狙い的名前なのですが、物語では割とスルー気味。

 

関西弁で、周囲と緩く楽しくやってゆきたい花しす、人生の多くのところで新田人生なる人に出会っている。ある時は少年、ある時はタクシー運転手、ある時は同僚。ホラーかよって思うのですが、花しすに人生の道筋を指し示すかのようなちょっとした一言を残します。

ひょっとしたらこれは不思議ちゃんである花しすの自己暗示、幻影みたいなもの、とみなせるかもしれません。

 

おわりに

ということで、西さんによる、つかみどころのない作品でした(淡泊な書きぶりですが、本当にそうなんですよぉ)。

相変わらず、元気な関西弁のなかに独特な美しい日本語表現が潜むのは西流でした。今回学んだ表現は「香箱を作る」。 猫ちゃんが前足を折り曲げて停泊した船みたいに座るじゃないですか。あれのことを「香箱を作る」「香箱座りをする」というそうです。主人公花しすと同居する猫二匹のことですが、表紙の猫のイラストにも出ていますね。

 

美しい日本語、つかみどころのない純文学を味わいたい方にはお勧め。

 

評価 ☆☆☆

2023/09/08

セントラルバンカー回顧録、現代史的にも面白い |『波乱の時代(上)』アラン・グリーンスパン 訳:山岡洋一、高遠裕子

金融業界で業務に携わっているので、その業界のかたの回顧録は役に立とうと考え、ずっと積読しておりました。

実は一度トライはしたのですが、マジで長い!そのため一か月かけても上巻の途中までしか行かず、忙しくなったりなんだリで挫折。今回は気を取り直して一から再読しました。

 

でも自信がないので、まずは上巻だけでも記録を残しておこうというものです。

 

 

概要

第13代FRB議長の回顧録。足掛け19年ものあいだ、FRB議長として国の金利や財政などの経済回りの政策をリード。政治の世界とも付き合ってきた氏によるメモワール。

 

どんな本?

グリーンスパン氏。私の印象にあるのはリーマンショックの陰の立役者(ショック前の低金利誘導のこと?)とかで揶揄されたり、ひいては陰謀論的にユダヤに与するものとかなんとか。要はよく知りませんでした。

でも本作読んで、氏自身の生い立ちもさることながら、歴代政権や権力者への見解など、現代史を振り返る点でも非常に面白い作品でありました。

 

生い立ちやライフ・ヒストリー

経済回りの方ということは分かりますが、野球少年だったとか、野球といってもデータ(打率とか)を覚えたりするのが好きとか、まあちょっと変わっていますよね。両親が離婚して母親に育てられたとか。

高校卒業後、召集令状を受け戦場に出るまでジュリアードで学ぶという予定も、まさかの検査でハネられ、失意の中?ビッグバンドでクラリネットを吹くようになったとか。

戦争が終わり、今後の事を鑑みニューヨーク大学で学び、以降エコノミストの道を辿るのですが、数字からストーリを読み解き文章にすることが得意であったという印象を受けます。

彼の20代あたりのお話だけで十分に面白く読めるかと思います。

 

政治家との間で

上巻の中盤は、彼自身の政治への接近が描かれます。

フォード政権で経済諮問委員として政治の世界に踏み入り、以降政治家の資質・度量を仕事を通じて眺めてきたグリーンスパン。フォード、レーガン、ブッシュ(父)、クリントン、ブッシュ(子)など多くの大統領を見てきた中で、フォードの明晰な理解力、クリントンの人間的魅力、ブッシュ(子)のポピュリズムへの批判など、一定の距離から時の権力者を見てきており、その評価が面白い。中央銀行の独立性、大統領の目指すもの、議会との対立・融和など、氏のポジショントーク的なものはあろうかと思いますが、それを鑑みても面白かったです。

最新現代史として

また現代史の一部としてもなかなかに面白かったと思います。

アジア通貨危機での韓国の突然に失速に外貨保有高に統計上の誤り(隠ぺいに近い)があったとか、ソ連崩壊時に計画経済から資本主義経済へ移行する際のリスク管理や「見極め」など、米国として何を見ていたか、どこまで(なぜ)手を出すかという点が分かり面白かったです。

同じことはメキシコ危機の記事にもありましたが、世界がグローバル化するなかで、経済的なつながりは一国を越え、景気や金利動向をマネージするのにもはや米国一国を見れいればよい、という時代は終わったことを、読んでいてつくづく感じました。

 

もちろんこれはどの国も同じであります。「風が吹けば桶屋が儲かる」情勢であり、我々も「風」を感じるべきだなと思った次第です。

 

おわりに

ということでグリーンスパン氏の回顧録の、半分でした。

政治、経済に関連する話が多いのですが、氏の生い立ちもドラマがありなかなかに面白かったです。

 

米国現代史、米国の政治、経済動向等に興味がある方にはお勧めできる本かと思います。

 

評価 ☆☆☆☆

2023/09/09

息子と四人の個性的な父親、洒脱な会話とツイスト |『オー!ファーザー』伊坂幸太郎

またもや面白い!

もう毎回面白いのですが、面白さの説明に苦慮します。ボキャブラリーが貧しくて。

伊坂作品の良さ・面白さってどういえばいいんだろ? そう考えて思い浮かんだのは、「洒脱」、「ユーモラス」。我ながら悲しいほどの低表現力です。

で、裏表紙側の帯の言葉が、しっくり来ました。曰く、「軽妙な会話。悪魔的な箴言。息子を守る四人囃子

てか、これほど的確だと、内容についてこれ以上書くことないよね。。。

 

 

多夫一妻のはなし!?

本作の設定はまたぶっ飛んでいますね。

私が住む国はイスラム教国で、イスラム教徒なら五人まで奥様を持つことが出来ます。まあ現実的には殆ど見ませんが。ほらやっぱりお金が、ね。

で本作は逆バージョン。奥様は一人でそこに群がる?かのような旦那様方。ストーリー中は奥様はほとんど登場せず、旦那様方とその一人息子が中心の活劇。

 

ちなみにポリアモリ云々というより、ライトにエンタメ的に設定がしつらえてある感が強いですね。

 

四人の父親たち

それと、もう一つ面白いのは、生物学上の父親が誰だかが分からないという所か。

高校生の息子由紀夫に、四人の親がそれぞれ父親顔をしつつ、すり寄り(媚売り?)、そして「やはり俺の息子だ、俺に似たんだ」とばかりに、したり顔。でも、敢えて検査もせず、四人が四人とも四人の個性で子育てに関与する。

 

因みに四人のうち悟と勲さんはちょっと印象マジります。悟が大学教授で、勲が中学教師。私の中では、中盤以降、上記のキャラがごっちゃになり父親が三人になっていました。

 

おわりに

ということで今回も面白かった伊坂作品です。

そういえば今回は東北が舞台ではなかったのかな?多恵子ちゃんの気持ちを汲まない由紀夫の様子がほんのりと青春ストーリーでもありました。全体感としては、予想もしない展開、ツイストの妙と洒脱な会話、が売りの作品かと思います。

 

伊坂ファン、家族ものが好きな方、学園もの・高校生が主役なのが好きな方、純然たるエンタメ好きの方、等々にはお勧めしたい一作です。

 

評価 ☆☆☆☆

2023/08/25

哲学的キャリア論!? |『だれのための仕事』鷲田清一

昨年、まだ娘が中三であったときに購入した本作。

娘はキコクというくくりで、日本語力も英語力もどちらも未熟なローティーンでしたが、国語ではとりわけ論説文が苦手でした(多分今も)。大学受験でも往々にして出題されますが、小難しい日本語論、日本文化論、科学技術の功罪、みたいなトピックです。この論説文の強化の一環として何か良いものがないかなと考えておりました。

 

物語文については素晴らしい師匠との出会いがありました。重松清氏、瀬尾まい子氏、森絵都氏らの作品で彼女も日本語に慣れてくれました。論説文はねえ。。。。何しろ親が分かっていないといざというときに説明できないし。

 

ということで、本作は今から考えればミステイクなチョイス。何しろ娘が高校に入ってから読んでるし(だってメンドクサそうであんま面白そうじゃなかったんだもん。。。)。

 

さて、鷲田先生。哲学界隈ですとかなりの有名人だと思います。大阪大学の総長まで務められ、サントリー賞も受賞されました。若いころ、縁あって1タームだけ授業を受ける機会がありましたが、所謂「流行り」っぽい哲学という印象を当初もっていましたが、どうしてどうして、西洋哲学ゴリゴリの世界の方だなあという感じの授業風景でした。

 

 

ひとこと

本作の内容は、さらっと言えば「自分らしいキャリアの築き方」、敢えてそれっぽい言い方をすれば「「労働」という概念における実存的間主観性の地平」、でしょうか笑

 

つくり

四章+補章の計五章の小品ですが、一章から三章は労働と余暇という二つの概念の分析で、いかにもテツガクっぽい話で、残念ながら私のサメ脳にはあまり入って来ませんでした。

 

おすすめは、四章と補章で、こちらはアツめで面白かったです。

 

なぜ現代の「労働」はつまらない?

そこでは、家事という無給の仕事をとっかかりに、ボランティアという無給仕事を対比させ、さらに阪神淡路大震災以降のボランティア熱の高まりから、労働に必要とされる新たな要素を抽出します。

 

他者からの「認知」

これからの労働に必要なもの、それは、他者からの認知、ということでしょう。給料が高いだけで人は満足を感じるわけでもなく、交換可能な歯車的な業務に対し、自分が仕事につく必然性を見出せないわけです。家事もそうですが、まずもって他者からの認知がなく、蔓延する「やってあたりまえ」感。さらには金銭的報酬(認知)もない。自分である必然性は家事にもあるやもしれないですが、自己決定権と周囲からの感謝がなくては、ねえ。。。

 

世界の中で、他人との関係で、自分を位置づけること

もちろん、ボランティアであっても自分である必然性は見出せるとは限りません。が、少なくとも他者から認めてもらうという体験はきっと大きいのでしょう。そうしたことから、終盤筆者は、他者との関わりの中から自分の立ち位置を見出す・形作るという責任を果たそう、というようなことを仰って終わりになります。

 

結論的には、あれですよね、先生?

ひらめきみたいに、「ああ俺の天職はこれだ」という決まり方はきっとしないんですよね。不安や疑心の中でキャリアを恐る恐るスタートさせ、経験や人間関係のなかから何がしかの方向性を見出しなさい・作り出しなさい、ってことでいいんですよね、鷲田先生?

 

おわりに

ということで、分かったような分からないような理解(つまり分かっていない)でありました。ごめんなさい。

どこぞの高校の受験問題に出ていて、それをきっかけに購入しましたが、これは高校生にはちょっと難しいと思います。

 

小難しいのが得意な高校生以上、社会思想系好きは大学生、キャリア関連・人事関連業務のかた、教育関連の方は手にとってもらっても良いかもしれません。

 

キャリアのことをよりプラクティカルに考えるのならばより良い本は沢山あると思います。労働という概念やその歴史をさらっているところあたりに、きっと本作の価値は多く存すると思います。

 

評価 ☆☆☆

2023/08/31

海外オヤジの読書ノート - にほんブログ村
PVアクセスランキング にほんブログ村