子供を立派な人間に育てたい。親ならまあ考えるでしょう。できればいい大学に入れたい、エリートにしたい。マストではないにせよ、まあお金とか素質があればねえ、とか親なら思うと思います。
この本は、そんないわゆる勝ち組の子供を育てるための本ではありません。寧ろこの本で語られるのは、大人も含め学ぶ人にとって、知っていることの意味は何か、を語る本です。
多くのエッセンスが語られていますが、私なりにまとめると、知ることによる効果を①世の中の理解、②人とのつながり、③自分の意見を育てる、という点でとらえました。
筆者は受験勉強も重要だと主張していますが、これはまさに知ることで世の中の理解が進むからです。米国の覇権、ロシア情勢、中東問題などすべてここまでに至るのに歴史があるのです。その歴史を学ばずして現今の意味合いはわかりません。それは世界史の授業で勉強できるものです。更にこれらのバックになっている思想史を学ぶことで理解度はさらに深まるはずです。私が言葉にすると薄っぺらですが、彼の文章は事象と事象の結び付けが秀逸です。
次に、こうした知識は、世界のエリート層と戦う時には共通のバックグラウンドとして必要になるでしょう。つまり、人とのつながりで必要になる。その点では、米国の外交官の例を出していたが、米国は世界を理解できないのは自明かもしれません。なぜなら、米国人外交官でギリシア語が読めた人はいないが欧州のそれは大体読める(P.33)そうだから。そこに他者の歴史へのリスペクトはないし、共通の基盤を築く努力もない。これは外交官に限った話ではなく市井の人であっても他者を理解するという観点において示唆に富む話かと思います。
また、佐藤氏の秀逸な点はかといって知識オタクになれというのではなく、自身の意見やバランス感覚を保つように促しているように見える点。例えば吉野文六の例(P.181)を挙げ、外交官としての建て前上のアクションと死ぬ前に発表した本音の部分に垣間見える人の倫理観や本音の大切さ。
文中は一部知識のひけらかしに見えるような部分もあります。弁証法論的、という言葉を見ると、ヘーゲルの原書読みに挫折した私は、本当にわかってんのかよと少し拗ねました。インテリジェンスという裏の世界を知る人という色物を見る目もあるかもしれません。また佐藤氏以上に学ばないと佐藤氏が言っていることが本当なのか検証のしようがありません。
しかしながら、書かれている内容は至極全うで子供に限らず大人であっても常に学ぶ必要があると感じさせる書籍です。おすすめしたいです。
評価 ☆☆☆☆☆
2019/12/15
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