娘が祖母から送られた本を積ん読していたので、失敬して読んでみました。
個人的には面白く読めました。
実はこのレビューを書く前にAmazonの評価を見てみたのですが、ボロクソに評価した☆1つのレビューが参考になった数でトップを走っていました。それはどうかと疑問に思い、大勢とは別の視点からの読書を提案してみたいと思います。
漫画版を作ったところに意図があるのでは?
先ず漫画である点。改めて考えると漫画という形式は伝わりやすさを優先しているものと考えます。わざわざ文芸作品を漫画にしている時点でそこには省略も想定されます。誤解を恐れずに言えば原作とは異なる作品と言ったほうがいいかもしれません。それでも漫画化したのは、一部を省略してでも伝えたい何かがある、そしてそれを年少者(あるいは漫画ならより伝わる層)に届けたいと編者が思ったからだと想像します。
文字でしか伝わらない内容もある
他方で、漫画のわりに文章が多すぎるという批判も見えました。一理あります。ここは悩ましい。原文の美しさや大事な部分はやはり文字で味わってほしいという編者の思いだと解しました(まあ確かに文字が多いですが笑)。例えば詩集をオール漫画化・映像化したとしても大切な部分は伝わらないでしょう。最後は文字で味わう部分が必要だと思います。語感やリズム、そこから紡ぎだされる雰囲気。
簡単ではないけど正しく生きよう
上記のような観点から、私は、小説「君たちはどう生きるか」とは別の作品として本作を読みました。私の読み取ったポイントは以下の通りです。
正しいと思った信念を持ち続ける。ごまかさない。貴賤の隔てなく人と接する。対して自分の恵まれた環境に感謝する。自らの誤りを認め、受け入れる。そのうえで自己決定していく。
初版の1938年とは、満州事変(1931)や226事件(1936)を経た後です。軍部の台頭により閉塞感とともに戦争への足音が社会へ色濃く滲み出してきていたことでしょう。その中で、上のような人道主義的で清廉な考えを言うことは実に難しいことだと思います。
初版から80年余りの時が過ぎた現在、自由主義全盛の中で、それでもなお本作が流行するということは、引き続き日本は、言いたいことも言えない社会であり続け、自己決定が難しい社会なのでしょう。また、本書の掲げる道徳律が変わらず日本人から求められているという事なのでしょう。その限りにおいては、この作品は今でも失うことのない価値があるのだと思います。
最後に。この本はあくまで触媒です。道具です。この作品で感じ取ったことを生かして、どうやって私たちの人生を作り上げていくか、それこそが大事な点なのだと思います。そして簡単ではないからこそ、引き続き向き合うことに価値があるのだと思います。
評価 ☆☆☆☆
2020/03/30
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