本の概要
ドロッドロの米国史を第25代大統領マッキンリー(1897-1901)~第44代大統領オバマ(2009-2017)まで辿ったもの。なお筆者の一人、オリバー・ストーンは『プラトーン』でアカデミー賞を受賞した映画監督。
感想
アメリカ、素敵な国!一度は行ってみたいところ!ウォール街、ハリウッド、自由の女神、ジャズの国、NBA、グランドキャニオン等々。とにかく楽しそうなもの沢山!しかしながら歴史を紐解くと、そこには今の今まで連綿と続く、帝国主義的欺瞞の数々。寧ろ目を背けたくなるような事実の連続。
欺瞞の数々
ざっと挙げてもこれだけの欺瞞がある。
メイン号爆発を勝手に攻撃とみなしてけしかけた米西戦争。中立と標榜しつつイギリスとフランスに融資し、戦後は敗戦国のドイツに賠償金の融資を行う周到さ(他方、大戦中はドイツ系アメリカ人は憎しみの対象となる)。民族自決を標榜しつつロシアや中南米へ内政干渉を繰り返す1920年代。理想主義的なウォレス副大統領を追いやり、凡庸なトルーマンを傀儡的に君臨させた第二次世界大戦期間。日系米国人への謂われなき差別と収容所送り。不要であった原爆の投下。共産主義国への共感なき反発とCIAを使ったアジア地域への内政干渉。未だに一度も公式謝罪がないベトナム戦争。軍縮を提案したゴルバチョフを裏切りSDIを進め軍拡を推進したブッシュ。他国の国勢を考慮せず、反発分子(タリバン、、ノエリガ将軍、サダム・フセイン等々)を支援し、都合が悪くなると捕えて殺した90年代以降。・・・溜息がでます。
凡庸な大統領は担ぎ上げられただけか?
かつてハンナ・アーレントは、ナチスドイツで大量殺戮を行ったかどで起訴されたアイヒマンをして悪の凡庸さと呼んだ。本作で出てくる大統領も、似たような凡庸さを感じる。途轍もないほどの共感力の無さ。
陰謀論じゃないかと揶揄されるかもしれないが、そのような凡庸な政治的リーダーを支配している影の存在を疑わずにはいられない。少なくとも、作中でも言及されている通り、軍需産業の隆盛と冷戦以降更に軍需費が増加していることを鑑みれば、関連性は類推できる。
まとめ
最後に。私はこの本を、歴史に興味のある方すべてに強くお勧めしたい。米国が汚いと言いたいのではない。米国にも本作が生まれるくらいの良心は依然として残っている。
寧ろ私は、米国の歴史を我が事として教訓的に捉えるべきだと感じている。いかに人がプロパガンダに流されやすいか、いかに人が短絡的に判断を下すか、いかに人が他人の立場に立てず人を見下すか。少なくとも私は、これらすべてを自分の中に見出すことができる。21世紀になっても未だに人は精神的に進歩していないのではないかと思わずにはいられない一冊。
評価 ☆☆☆☆☆
2020/04/23
〔ダイジェスト版〕オリバー・ストーンの「アメリカ史」講義 オリバー・ストーン/ピーター・カズニック 早川書房 2016年07月22日 売り上げランキング :
|