海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

明治の日本人論。実はアイデンティティ・クライシスの克服が原因か?―『武士道』著:新渡戸稲造 訳:岬龍一郎

かつて五千円札の肖像となっていたことで有名な新渡戸稲造。そしてこの『武士道』も国際的に有名な作品ですね。少なくとも名前は結構聞きますよね。

 


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明治維新期の日本人論 in English

 こちら、一言で言えば、日本人論です。もっと詳細に言えば、日本人の道徳論です。

 明治の開国以来、それまで明文化されていなかった日本人道徳論を文字に表した初めての作品であろうと思います。

 

 ただこれ、理解するのはなかなか簡単ではないと思います。

 まず、日本人が意識せずに持っている中国の儒教的思想を知らないといけません。本書では、義、勇、仁、礼、誠、名誉、忠義、等々が語られます。これらが大まかにどのような意味なのかを知っていないとちょっと分かりづらい。ってか、学校でやりませんよね、こんなの!

 

 さらに、これら日本人道徳観の具体例として多くのエピソードが語られます。市井の武士の話から、太田道灌源義家林子平新井白石、などなど。人選が現代人からすとちょっとビミョーな気もしますが。

 で、この後がすごいん。これら具体的エピソードは実は西洋の中にも見られるものだ、ということで、プラトンシェークスピアニーチェバルザックモンテスキューヘーゲルソクラテスドン・キホーテディケンズオリバー・ツイスト)、等々の引用、リファーをしまくるのです(ちなみに時代からすると、彼はこれらはすべて英語で読んでいるはずです!!)。

 武士がこれこれするというのは、かつて林子平がなした○○のごとくであるが、西洋ではそれをバルザックが××と唱えたのと一致するものである、的な表現です。

 

 実を言うと、なんだ引用ばかりで結局よくわからないや、この人は自分の知識をひけらかしたいだけにしか見えないや、と感じました。

 

解説を読んで見方が変わる

 しかしながら、解説を読んで考えが変わりました。

 彼が本作を出版したのは1899年、アメリカはカリフォルニアで英語で執筆したものです。当時は明治開国から程ない時期、日清戦争を経て、西洋社会で日本と言う小さい野蛮な国があるとやっと認知されたばかりだったのだと思います。

 おそらくは偏見に満ちた物言い、心無い誹りもあったのだと思います。白人でもないし。また、本人にも日本人とは、日本とは何かというアイデンティティ・クライシス的なものも、西洋に赴くなかで持ち始めたのではないかと思います。

 

 そのように考えると、本作は、彼が彼自身のために書いた本ではなかろうかという気がしてきました。自分が書くことで日本人の道徳とは何かをはっきりさせたかった、と。相当の博識の持ち主であったことは疑うべくもありませんが、持てる知識を総動員して日本人の道徳観は西欧にも通じている普遍性を持つと説明したかったように思えてなりませんん。

 

 でも、スーパー凡人の私は通読二回目にして、やっぱり十全に理解したとはいえません。もっと西洋の話も儒教の話も勉強してから再チャレンジをしなければと思いました。

 ましてや、解説にあるルーズヴェルト大統領が読後感動して家族や友人に配りまくったというエピソードがありますが、私はこの大統領は内容は殆ど理解していないに賭けますよ笑 そんなに簡単じゃないと思います。

 

おわりに

 おわりに、きっかけを。

 本作は以前読んで本棚に眠っていましたが、先日、戦争の本で某イギリス人作家が日本兵の暴虐を表現して、これが彼らのBushidoなのだ、と批判しており、いやいや違うでしょ、と思い、再読してみたものです。

 

lifewithbooks.hateblo.jp

 

 私自身、今回読み終わった後でも日本人の道徳心を他人に説明できる気がしませんが、ましてや外国人が本作を読んでも決して日本人を理解できないだろうなと感じました。

 であるならどうするか。私たち自身が日本人の道徳心・感じ方・考え方を私たちなりに言葉に紡いでいく必要があるのでは?と思いました。海外に住んでいるから特にそう思うかもしれませんが。

 本作はまた儒教系の本を勉強したら再読してみたいと思います。

 

評価 ☆☆☆

2021/07/04

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