昨年、現在居る国のいわゆる永住権を申請しました。移民局に何度か赴き、家内と一緒にインタビューを受け、さらには警察本部で現地語のインタビューも受けたのでした。英語ならまだしもローカル現地語はさらりとしか勉強しておらず、「妻を愛しています!」「この国が好きです!」「〇〇(食べ物)が好きです!」など恥ずかしい限りのサバイバル現地語に終始した発言しかできなかったのでした。
その時、「まあ現地語は難しいけど、国のこととかよく勉強しておいてよ」といわれ、正直に手に取ったのが本作であります。なお、合否は分かりません。知人は三年間以上合否を待っているとのこと。この緩さもまた東南アジア的であります。
キーワードは「多様性」
タイトル通りの東南アジアについての近現代史をコンパクトにまとめた新書です。
陳腐ですが、テーマは「多様性」ということでしょうか。
EUがキリスト教という文化的価値観が通底する統一である一方、東南アジアとほぼ同義になったASEANでは、宗教(キリスト教、イスラム教、仏教、他)、民族、政治体制(軍政、独裁制、民主主義)までバラエティに富んでいることが特徴でしょう。
とりわけ政治体制はバラエティに富んでいます。社会主義国を加盟させ、軍政であるミャンマーの軍政を迎え入れる一方、独裁的民主制?とも言われかねないシンガポールやフィリピン、内戦から復興中のカンボジアなども入っています。
こうした政治体制の違いは、ASEANでの全会一致というルールの下、当該組織の限界を規定していると揶揄される一方、現在のミャンマーのように国際社会で孤立した軍政国家へのリンクを確保するという点では非常に貴重であろうかと思われます。こうした緩やかな連携と多様な価値観が混在している様がよく書かれていると思いました。
中小国家の悲哀
もう一つ。
そもそもなぜこうしたASEANが発足したのか、何を目的としているのか。
20世紀の二度の大戦で大国から蹂躙を受けた中小国家群。これが東南アジアでありASEANの核である旨、記載がありました。中小国家が強国・大国に伍する、伍するまでいかずとも立場を確保するためには、やはり結束する、というのが有効なのでしょう。
蹂躙した側の子孫としては心苦しい限りですが、こうした歴史的背景は、こと東南アジアとのつながり・連携が強まる昨今、我々が学ぶべきことであると感じます。
おわりに
ということで東南アジアについてのザックリわかる歴史書でした。
2017年初版ということで、時事的な内容はちょびっと古いかもしれませんが、当該地域の近現代史の初歩を押さえるという点では非常にまとまっているものと思います。
参考文献がしっかりまとまっていることから、大学生が東南アジア関連の課題でまず手に取るのには適しているかもしれません。それと、ASEAN圏へ駐在されるような方は事前にこの程度の内容は理解しておくと良いのではないかと思いました。
評価 ☆☆☆
2023/01/21