いやあ、甲子園、終わりましたねえー。
息子の部活引退をきっかけにドはまりした高校野球でしたが、非常に面白かったですね。汗、涙、信頼、結束。
なんだろ、一匹狼の私ですら刷り込まれている価値観に、涙目になりっぱなしでした。
普段出ないようなミスが大一番で出たり、動揺したり。でも高校生ですからね。ミスがでるという子供らしさがまた、一層選手たちを応援したい気持ちにさせます。はい、もう完全親目線です。
バーチャル高校野球には大感謝でありました。
ひとこと
少し時間がかかりましたが何とか読み終わりました。いやあ、面白かったです。
ひとことで言えば、アイデンティティ措定に苦しむ米国、とでも言いましょうか。米国有数の政治学者による作品。
アメリカ人というアイデンティティとその変遷の歴史
自分は一体なにものか、という問い。
若者ならずとも問うのではないでしょうか。
そうしたアイデンティティ、これが俺だ私だ、という「何か」。人はそれを名前に求めたり、国籍に求めたり、肌の色だったり、所属する会社だったり、職業だったり、色々なわけです。
類似の事が国にも当てはまりましょう。アメリカ人ってなに?アメリカ人らしいってどういうことか? アメリカという国の、そのエッセンスは一体何か、を問う意欲作です。
・・・
誤解を恐れずにまとめます。
アメリカとは、
「a)国教会を除くプロテスタント系キリスト教をベースに持った、b)自由や平等等を理念にもった、c)揺れながらもアイデンティティを流転させてゆく国」
ということを先生おっしゃってる気がします。
a)の部分は本作前半程度までの大部をしめます。移民の国・人種のるつぼ等の言い方もあります。南北戦争など、カルチャーの違いもある。またユダヤ系、スラブ系キリスト教徒などサブ・アイデンティティに留まるグループもいる。結局、「米国」という一つのブレンド・まじりあいがなされない、所謂「サラダボウル」の議論。ただし、それでもやはりウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義』にあるような、宗教と勤勉=成功のフォーミュラが通底しているというものです。その理由付けは・・・すみません、忘れました。プロテスタントの人口割合だったかな。
b)は、911を経たアメリカが、共産主義のように理念で国家をまとめられるか、という議論がありました。対立軸に対する『正義の味方』という役割は、一種のアイデンティティであった。こうしたものはグローバリゼーション以降、そして911以降の対立軸を失ったいま、アイデンティティになりえないのではないかという疑問。ハンチントン先生は理念=アイデンティティという考えに否定的だったように思います。
とはいえ、国家アイデンティティの構成要素としては、自由の国・理念の国というのは事実成り立っているように思いますし、自他ともにそれを利用しているようなイメージに見えます。
そしてc)なのですが、ここは米国で激増するヒスパニック系のこと(本作では8-10章)を言っております。移民であるものの、英語が喋れない、かつアイデンティティとしてヒスパニックであることを誇る。そうした人たちが自分の言葉を喋る権利を叫び、住民から政治家が選ばれ、結果としてスペイン語教育が可能になる(ちなみに選挙討論もスペイン語でやる地域もあるそう)。また一部の移民は引き続きメキシコの選挙権を保持し、米国籍でありながら米国・メキシコ両国で投票ができる。これはアイデンティティの問題のみならず、国家や経済のボーダーが徐々に不明瞭になりつつある様を表していると思います。
私の目には教授からのソリューションは発見できず、こうした事態を憂う様子を察知しました。
とは言え巻末はそこまで暗くもなく、宗教への回帰のトレンド等が語られて終わってしまいました。
おわりに
ということで、米国政治学者による米国アイデンティティ論、アイデンティティの歴史についての本でありました。
教授の作品、今回はお初でした。米国史をたどりつつ、結局アメリカとは何か、ということには断言・確言はせずに終わったと思います。でもアメリカ(人・国)というアイデンティティを色々な切り口で説明してくれる知的好奇心あふれる作品でした。
個人的には思いますよ。アメリカはいつも不安定というわけでもなく、むしろ変動のダイナミズムこそがこの国の強さか、と。時にその変動に人生そのものを翻弄されてしまうこともあろうかとは思いますが、そうした個々の犠牲を糧として国家全体でバラバラに成長する国、それがアメリカか、とかそんなことを考えながら読了しました。
本作、米国政治、米国史、アイデンティティ、移民、ヒスパニック文化、中南米、こうした辺りに興味がある方にはお勧めできると思います。
これはまた時間をおいて再読したい作品です。
評価 ☆☆☆☆
2023/08/23