海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

ファシズムに進む日本の不穏さを描く |『魔王』伊坂幸太郎

東南アジアの果てで、本を読んでいて困ること。

それは本の処分です。

ドンドン増えていくし、売るって言っても古本屋はないし、重たいから日本に持って帰って売るのも、ねえ。

でもでも、私に万一のことがあったら妻が処分に困るだろうなと。日本の実家に国際引っ越しサービスで持って帰るのもお金がかかるし、なにしろ重いし、ブックオフにもっていっても二束三文。かといってここで捨てるのも、ちょっと・・・ってなりそう。

 

ならば、と、フィクションを中心に、こちらのローカルのメルカリ的なアプリで本を売っています。

驚くことに、結構売れます。一時帰国から帰ってきてここ10日間ほどで20冊くらい売れました。

さらに驚くのがすべて現地の方が購入くださること。昨年からやっていますが、日本人に売れたことは一度もありません。皆、日本語の学習のお供に、あるいは趣味に、買ってくださるのです。一冊150円程度なのでこちらの方でも買いやすいのかもしれませんが。

ちょっとした驚き+お小遣い稼ぎの喜び、です笑

 

 

ひとこと

伊坂幸太郎が日本を批判し始めた? と一瞬思わせるも、伊坂作品らしい、清廉さを持つ人々が紡ぐ現代日本と政治のお伽噺。

 

憲法談義!?

日本国憲法第九条。

日本が誇るべき平和憲法という声もあれば、米国から押し付けられた憲法・(自衛隊という軍隊をもって)実態にそぐわない憲法という声もあります。

こうした憲法を、是々非々で議論し、必要ならばしっかり変えて行こう、と主張するリーダーが現れたら、皆さんならどのように反応するでしょうか?

 

本作は、そのような歯切れのよい強烈なリーダーが日本を変えようとし、人々が一方向に進みつつある状況に挑む、ちょっとした力を授かった男と、その家族の話です。

 

概要

二部構成で一部はそのちょっとした力を持つ安藤(兄)の話。ファシズムが忍び寄る世の中に、どのようすれば流れを変えられるのか、と思案しつつ、己の『力』で状況を打開しようとします。その正義感や倫理観が伊坂作品らしいですね。

 

そして第二部は安藤(弟)の奥さん、詩織ちゃんの視点。安藤(兄)が死んでから5年後の日本の話です。ぼんやりしていて、ちょっと頭が弱めなキャラ設定の詩織ちゃん。その心根の良さと真っすぐさで、ファシズムの異論を許さない雰囲気への恐怖や、日本の改憲論議で人々が分裂していく様を、じんわりと俯瞰的に、ある意味他人事的に表現しています。

 

そんなんですので、すわ日本批判かとか思ったのです。さしずめ首相犬養のモデルは小泉元首相とか橋本元大阪市長あたりかなと。無批判に歯切れのよいリーダーに従う衆愚を批判したのかと思ったのです。

ところが筆者自身による解説によると、単にその不穏な雰囲気を書いてみたかったそうで、まあその雰囲気は伝わりました、はい。自分と意見の違う人に対して、受け入れるより説得にかかろうとする人とか、たまにいますが、確かに面倒だなあって感じながら読みました。ま、うちの奥さんもそのタイプです笑

 

これまでの伊坂作品とは異なる

話の筋的にはややSFチック、ディストピア的ですが、伊坂作品らしい真っすぐな登場人物の行動が気持ちよい作品です。ただし、従前のびっくりトリック的な展開は少ないかな。そうしたツイストを期待しているのであれば、本作は全く異なる毛色の作品であります。

 

おわりに

ということで一風変わった伊坂作品であったかもしれません。

ひょっとすると、民主主義とか、マスコミ・ジャーナリズム・政治・投票・意見の多様性とかについて中高生くらいに考えてもらう際に読んでもらっても良いかなあと感じました。寓話的に読んでもらった方が、議論に入りやすそう。

個人的には十分たのしめましたが、純粋なエンタメを求めるのならば、先ずはスキップした方がよさそうな伊坂作品かと思います。

 

評価 ☆☆☆

2023/07/31

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