海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

20世紀米国で造られた金融業界の「常識」の数々 ― 『アメリカ金融革命の群像』著:ジョセフ・ノセラ、訳:野村総合研究所

50近くにもなって語彙の少なさに我ながら呆れてしまいますが、これ、すごい本だと思います。お金、証券、金利、等々に興味がある人は読んで損はないと思います。特にFP業務とかに興味ある人は是非お目通し頂きたい作品です。金融商品・サービスのみならず、その背景にあった社会事象や米国人のメンタリティまで丁寧に描かれています。


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概要

米国というと、概ね好んでリスクテイクする、借金もガンガンする、目先に集中、というイメージがありませんか。偏見であるかもしれませんし、あるいは一抹の事実を知覚しているかもしれません。しかし、こと金融周りにおいては、実は20世紀半ばくらいまでは決してそのようなメンタリティではなかったことが本作を読むと分かります。

本作は、米国での20世紀の金融史を辿ったジャーナリスティックな本です。現在ごく当たり前に享受している金融商品やサービスが、どのような背景でそしてどのような抵抗を受けつつ産声をあげ、そして米国に定着してきたのかが分かります。

 

具体的には

端的に言えば20世紀の米国金融市場、こと本作で取り上げられている内容はいわば「金融の民主化」と言えるムーブメントでして、リテール取引の拡大、商品のリテール化、そしてその立役者となった企業群がストーリの中心となります。ざっくり挙げると以下のような内容です。

・イタリア移民が作った”仲間のための銀行”(バンカメ)
・株式取引をウォールストリートから”メインストリート”へ(メリル・リンチ)
・個別与信から包括与信への進化をすすめたプラスチックカード(バンカメ・カード)
・インフレと借金とクレジットカード(VISAカード
MMFと銀行と政治家との闘い
・ディスカウント・ブローカーの黎明(チャールズ・シュワブ)
・ミューチュアルファンドの隆盛とマネー誌(フィデリティ)

概ね以上のような内容がテンポよく語られています(テンポはいいですが650頁近い2段組の大作です。。。)。

知らなかった事実は、大衆が銀行からお金を借りる時は冷蔵庫購入資金、自家用車購入資金など個別の与信を取らなければならなかったこと。こうした手間を省くためにクレジットカードが開発されたこと。当初はマニュアルの事務処理をしていたために、多くの不正取引がクレジットカードで発生したこと。市場金利が8%や10%にもなっても銀行預金金利は一律5%程度に抑えられていたこと。銀行の特権に抗いインフレ対策としてMMFが開発されたこと。MMFを売る証券会社に対し、銀行がロビー活動をして政治家を動かして州内販売を停止しようとしたこと。インフレを背景にカード借金が増えるも、それまでは借金は悪という考えが米国にもあったこと。401Kの広がりとともに渋々ながら米国民が証券投資のリスクを取るようになったこと。増えすぎた投資信託は個別株を選ぶのと同じくらい複雑な作業となり、マネー誌の情報価値が出てきたこと。

 

・・・どうでしょうか。こうして振り返ると、今では当たり前となっているお金にまつわる事象はすべて20世紀の米国で開発・推進されたと言っても過言ではありません。また概ね米国人が決して喜んで株式市場へ資金を投入しているのではなく、インフレという現実から渋々リスクテイクしているという話は実に意外な話でした。

 

おわりに

原題は”A PIECE OF THE ACTION”といい、意訳すれば「分け前」、つまり金融市場は特権階級のものから一般市民のものへとなったことを意味しているものです。著者はジャーナリストだそうですが、多分に訳者の野村総研の皆さんの能力もあるのだと思います。流石です。1997年初版の古めの本ですが、お金に興味の有る方には図書館で探してでも読んでほしい一冊です。金融商品の裏にある米国の社会事情や米国民のメンタリティまでもがしっかり描かれている秀作だと思います。

 

評価 ☆☆☆☆☆

2022/01/24

 

 

因みに日本の現代の金融史だと以下がおすすめ

lifewithbooks.hateblo.jp

 

 

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