自分の感触とあらすじを読んで、全く印象が違う・なんじゃこれ?という体験、お持ちではありませんか?
初めの十数ページを読んだ後、へーなるほど、と思う。そしてその後どうなるのかなと思い、改めて裏表紙のあらすじを確認する。え?そんな話なの?まったくそういう風じゃないじゃん!?てか、違う本のカバー読んでる!? それくらい読み始めとあらすじが異なった作品でありました。
そして、読後の強烈な『やられた』感、『そうくるか』のつぶやきに笑み。
実によくできた、伊坂幸太郎さんらしい作品でありました。
改:決意
えー、決めました。
突然ですが、今年は伊坂幸太郎さんの作品を沢山読むことにします(注:安く買えるもののみ笑)。
今年初めに、偶々他所でまとめ買いし再読しはじめた伊坂作品ですが、再読にもかかわらず存外に面白い。追加的に数冊購入して読んでも、他もまた面白い。で、決めました。読みます。集中的に読みたいです。今年勉強しようとしていた本とか、コムズカシイ本がどうも最近頭に入ってこず、年後半に入り、若干の方向転換。
安定の、「意表をつく」展開
で、作品ですが、これまた伊坂作品らしい内容でした。
まずもって奇想天外な舞台設定。『実はお父さん浮気していました』というウケないおやじギャグのようなかわいらしい(状況はかわいらしくない)言い方で始まり、しかもそれを意外にも平穏に受け止め、家族解体へ静かに取り組む親子3人組。その家族3人の最後の晩餐で、父親のケイタイ(実際にはPHS:古いね)に届く『友だちになりませんか』というメッセージ。
・・・このあたりまでで、私は一体どういう展開になるのか分からず裏表紙をガン見した次第です。すると、何という事でしょう。この家族の話はあらすじの『あ』程度も書いておらず、どうやらワルのグループがお話の中心らしい。で、確かに物語は大きく旋回し、不倫解散家族、ワル足洗い話、ワルだけどメッチャ手の込んだ人助けする話、等々へと展開していきます。
とにかく驚きに理解が追い付かない、というような小説であったと思います。
構成も伊坂節にて怒涛の展開
さて、構成も伊坂節全開ですね。5章立てですが、全て独立しており、それぞれの章の登場人物が別の章でリンクしています。こうした作りは『チルドレン』『終末のフール』にもみられた構成でありました。
また、章により時間軸を前後させるとか、ある章でさらっと触れられる事件が別の章でメインテーマとなるなどの伏線の張り方、なるほどねえーとなる構成でありました。
ついでに言えば、何度か繰り返している『まっとうな倫理観』なるものを持つキャラ設定も健在。溝口です。アタリ屋・ユスリにもかかわらず、ちょっとアホでべらんめえで、岡田という仲間の仇討ちをしようとする、「憎めない」存在。ノワールなテーマだけど、絶妙のバランスで紐帯とか信頼とかの倫理観、そしてユーモアを混ぜ合わせる。英語でいうところ、Oxymoron的(例:善良な悪党、真面目な不良、みたいな)な面白味にあふれた作品でありました。
おわりに
はあ、ということで、またもや楽しい伊坂作品でした。
今回の作品は何というか、クリフハンガーのまま、ぷつっっとホワイトアウトしてしまうかのような終わり方でした。作品の解釈は読者に任せるというのでしょうか。まあでも、そこもまた、伊坂作品を幾つか味わった後では、アリかも、となるのではないでしょうか。
伊坂幸太郎さんの作品の風合いが好きな方はもちろん断然お勧めです。とりわけ「グラスホッパー」的なノワール系が好きな方は比較しつつ楽しめるかもしれませんね。
評価 ☆☆☆☆
2023/08/25