滞在先のAirbnbの宿からアルノ川を望む。一泊一部屋一万一千円也。
皆さん、こんにちは。
フィレンツェで感じたのですが、こちらは「犬天国」であります。電車の中にも犬、お店の中にも犬、散歩のお供に犬。本当に多くの現地の方が犬を連れて歩いています(ちなみに小型犬が多いですね)。
結果よく見るのは糞です。歩道の真ん中に鎮座するもの。誤って踏みつけられた茶色いくつあと付きのもの。誰かが蹴ったのか、散乱しているもの。
で、家内は動物嫌いかつ匂い敏感な方なので、まあ臭い臭いと煩くて・・・。生返事しかできぬ至らぬ夫であります。
ひとこと
村田さんの作品を読むのはこれで二作目。本作は155回芥川賞受賞作品となります。
一言印象を言うとすると「狂気」。狂気の凄みに満ち満ちた作品。
一般からの逸脱具合に薄ら寒さを感じる
まず第一に感じるのは恵子の、「ねじの外れ」具合。
主人公恵子は、社会のルール、語られないルール(間違っていても先生は偉い、スーパーで売っている鶏肉と他の肉食可能な鳥は「異なる」等)、その他いわゆる「雰囲気」などについては理解できません。
とりわけ、子ども時代はこの画一的でなく柔軟性を要求する社会的規範から逸脱し、しばしば周囲を慌てさせます。
幸いなのは(長じて)彼女自身が、自分が他人と違うということに気づけたことかもしれません。「あ、これは皆の常識から外れた」と感じた途端、自分以外の「世間」に合わせる能力があるのです。
ただし、ある意味でこの「勘の良さ」が彼女の不幸を深くしている可能性があります。というのも、この迎合により摩擦が避けられ、彼女の本性は引き続き周囲と共有されず、理解もされないからです。
画一性を強いる世間の同調圧力
他方、周囲の同調圧力も同じくらい怖いものがあります。
他人に合わせて暮らしていた恵子の化けの皮が、友人たちとの集まりの中で徐々に剥がれてゆくところはまさにそうした場面。結婚した方がいいよ、就職した方がいいよ、体が弱いって就職しないでコンビニでバイトしているって矛盾していない?
こうした追いつめるかのような科白は恐ろしいばかりでした。
もちろん小説ですから、現実よりもやや脚色されまたテンションも強めに描かれるのではあろうとは思います。が、やはりこれはこれで恵子の極端さと同じくらい恐ろしい画一的な世界を描いていると思います。
多様性とか他者理解とか
で感じたのは、筆者の村田さんは、世間の欺瞞みたいなものを強く感じているのではないか、ということです。
多様性とか言いつつ、自分の価値観以外の価値観を認めない人がいかに多いことか。他者理解を標ぼうする人々がどれだけ他人の考えを理解しようと努力しているか。おそらく多くはないのではないでしょうか。
少数派は常に弱い立場におり、排除か同調かを迫られるものです。そして美しいスローガンは、誰も責任を取らないマニフェストのようなもの。少数派を安心させ、「異端」をカミングアウトしたかと思うと梯子を外すかのようなものであろうかと思います。
村田さんは強く世間という形なきものにルサンチマンを覚えているような気がした次第です。
電子版には解説がないのでわかりませんが、ほかの方が本作をどう読み解くのか気になりました。
おわりに
ということで村田さんの作品を読了いたしました。
この前読んだ「信仰」もそうでしたが、生きづらさ、息苦しさ、社会との折り合いの悪さ、みたいな雰囲気を感じました。その著者の危うさみたいなのが一読者としてちょっと心配になる作風でありました。
村田さんには天寿を全うして頂き、これからも暗くも鋭い、そして魅力的な作品を書いていただきたいと思った次第です。
評価 ☆☆☆☆
2024/01/31
村田さんの作品、癖になります。こちらも秀逸なディストピア的短編集。