海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

村田さん、天才か!?すごいディストピア |『信仰』村田紗耶香

皆さん、こんにちは。

たまには気まぐれを起こすものだなという話を。

 

私はかなり頑固だと思います。決まった仕事を決まった計画で淡々とこなすことが好きです。

読書に関しても同様で、価値の定まったものに一定の時間を割き、じっくりと堪能し尽くしたい思いがあります。現代の作品よりもできれば西洋の文学をたしなみたいと思いますし、将来残るかどうか分からない現代作品(とくに軽めなかんじのやつ)に時間を費やすのはどうか、と考えてしまう傾向にあります。要は偏屈です。

 

ただし、です。旅行中など普段と異なる環境、異なる雰囲気では、こうした偏屈が「気まぐれ」に弱まることがあります。

 

そうやって出会ったのが、今回の村田紗耶香さん。これはすごい。驚いた。いや、天才かも。ああ、同時代人としてこうした天才と同じ空気を吸える幸せ? ちょっと褒め過ぎでしょうか。

いずれにせよ、同じ時代文脈で注釈なく作品を読める幸せは同時代に生きるからこそ齎されるものであると強く感じた次第です。

 

ひとこと

村田紗耶香さんの短編集。

表題作『信仰』はじめ8つの作品を所収。ディストピア的SFチックな作品6つと自己を省察するエッセイ的作品2つ。どれもがほの暗い、それでいて辛辣に現実の行き過ぎや異常さを清冽に指摘する作品群。

美しい文体が描く現実はグロテスク極まりない。そのギャップに酔いしれます。

 

すべて刺さりますが、なかでも四つ

それでですね。短編ですがどれもすごかった。印象的過ぎました。どれか一つ一番を決めろ、と言われたら、これは実に難しい。8篇の短編の内、ぜひとも読んでほしい4つを簡単にご紹介します。

 

『信仰』・・・これはカルトを始める若いグループの話。その中でもいつでも正しすぎる永岡の哀しい姿が印象的。ビジネス的に読み解けば、はブランド価値が分からない悲しい女性の話、という至極単純な話ではありますが。製造原価という『信仰』以外に信じるものがなかったのですね。あと、他人の価値観も、信仰の対象外だった、ということですね。

 

『生存』・・・これも怖かった。世の中のすべてがAからDまでランク付けされ、それによって生存率が決まる世界。ランクの異なる結婚にはさらに子どもの生存率が低下する。愚行権や生存率以外の価値観が許されないような点がかなりディストピアです。なお、続く『土脉潤起』は『生存』で野人にかえったクミを家族の側から描いたような作品。

 

『書かなかった小説』・・・自分のクローンを4体購入し、あわせて5人の『自分』を運営していく話。クローンの内の一体が亡くなり、クローン同志で反乱?が起きたり、ひいてはクローンが実人物として働き、本当の自分がクローンに支配されるような生活へ。

 

最後の展覧会・・・失われた概念『ヒュポーポラヒュン』を求め宇宙を旅するK。ある星で類似の概念『ゲージュ』(要は芸術ですね)を守るマツカタに出会う。彼らは尽きゆく寿命を前に展覧会を催し、宇宙に招待状を投げる。星新一的雰囲気。

 

そのほかも本当に良かった!

 

おわりに

ということで村田さんを初めて読みました。

うまく言い表せませんが、『わかる、そうなんですよね』と言いたくなる作品でした。世界が一方向へ向かう恐怖というか。

 

できればまたほかの作品も読んでみたく思いました。

 

評価     ☆☆☆☆

2024/01/28

海外オヤジの読書ノート - にほんブログ村
PVアクセスランキング にほんブログ村