本の概要
日本の現代思想のトップランナー(と私が勝手に思っている)東氏の作品。
インターネットによって世界はより近くより便利になった反面、世界はより固定化されてしまった(リコメンド機能やサジェスト検索)。そのような閉塞感に対し、旅という”未知”や新たな検索ワードを“ノイズ”としてネットの世界へ投げ込むことで、新たな地平・体験を得ようという試み(概要になっていない?)。
感想
一般に哲学や思想というのは小難しい。派生して、意図的に難しく述べることを哲学的と言ったりするきらいもある。その中で東氏の語り口はいつもなめらかで、優しい。そして興味深い問いを投げかけてくれる。本作ではそのような検索窓に固定されがちな我々の生活を、我々自身が意図しない体験に自ら身を投げ込むことで新たな可能性を探ろうという提案である。
ネット炎上の止め方
偶然性を薦める上で、導入としてネット炎上を持ち出す。ネット炎上はどうすれば止められるか?通常の言い合いではまず終わりがこない。延々と続く水掛け論。なぜか?理由はメタゲームが永遠に続くから。なぜ、なぜ?の連続や、そもそも論の発生により核心へたどり着かない。
これを止める方法が、モノ。どういうことか?
モノ(人)に実際にリアルに触れることで文字から伝わる以上の経験が得られるということだと思う。例えば、旅行で他所へ行く、現実に人に触れる、人と会う。そうした人に対しネットで繰り返すような罵声を浴びせることは難しい。また、このような体験を旅行で得るということは、文字から得た知識とは全くちがうビビッドさを持っているという。チェルノブイリや福島を例に、被災地の観光地化・旅などを取り上げている。なぜ観光や旅がビビッドなのかというと、逆説的だが時間やお金がかかり、不便であるからだ。より安くよりよいもの、そして効率性が叫ばれる現在、このような不便さに可能性が見いだせるという。
逆説的選択の強み
逆説的な自由という言説。旅行という不自由さから論は始まり、あえて主流じゃない検索ワードで“ノイズ”を作る、そして人間の弱さや偶然性こそが予定調和から外れた強い絆になるとしている。謂わば蓋然性の高い因果よりも、偶然から生まれた絆の方がより強いということだ。分かるようなわからないような話ではあるが、日本流に言えば一期一会のような感覚であろうか。その希少性があるゆえにその出会いにかける気持ちも強くなろう。と、解しました。だから強い。お見合いよりも同じホームで偶然であった異性に対しての方が恋愛感情が燃え上がりそうな感じ?
まとめ
まとめますと、ソフトでわかりやすい思想系エッセイでしょうか。スパイスは”旅”。自己啓発的にあえて書いたと筆者は言っていますが、何か違う気がします。第一この内容をきちんと消化して自分の言葉で再構築するのは結構難しいと思います。ただ、思想の系譜で言うと実存論的とかそういういかにも暑苦しいやり方ではなく、予定調和から外れてみようぜという軽いノリの自己決定の勧めと言えそうです。小難しめなお話しが好きな人にはおすすめです。
評価 ☆☆☆☆
2020/04/29