本の概要
世界で進むグローバル資本主義・新自由主義への流れに対し警鐘を鳴らし、その原因や背景について分析。また、今後の日本の在り方について提言する。著者の中谷巌氏は一橋大等の教授を歴任した後、小渕内閣で経済改革研究会に参画するなど、所謂新自由主義寄りの人物であったが、その後転向を発表。
感想
小泉前首相が進めた郵政民営化前後から、日本では新自由主義という思想が徐々に浸透してきました。その核は市場原理主義と自己責任という二つの言葉に集約できると思います。そのような新自由主義(グローバル資本主義)は誤った方向であるというのが著者の意見です。扱っている射程が広いのでここでは幾つかのパートへの感想だけ述べたいと思います。
グローバル資本主義のどこがダメなのか?
グローバル資本主義経済の欠点の指摘は的確だと思います。端的には「生産と消費の分離」(P.108)。国際的水平分業により先進国の工場は人件費の安い後進国に移転し、先進国がより安い製品を輸入するという生産消費スタイルが確立されました。結果、先進国のブルーカラーは消費は続けざるを得ないのに生産に関われないという事態に至ります。投資家と一般消費者は得をしますが、先進国ブルーカラーは失職ないしより賃金の低い仕事を探さざるを得ないことになります。国により政府の補助や支援はまちまちでしょうが、自己責任の旗印の下、格差が広がる構図ができます。
グローバル資本主義。先導者は誰なのか?
また、かような市場原理主義の推進者が居るであろうことを暗にほのめかしていますが、ここは私も同感でした。「政府の干渉が減り、規制が緩和されたマーケットが実現すれば得をする勢力がいたからこそ」(P.133)。筆者は決して陰謀史観に与するわけではないと断りを入れていますが、私は、物事に因果があるということは何某かのグループがお金と時間をかけて意志をもって方向性を作ったと考えます。
震源はピンポイントでアメリカ!そしてキリスト教!でもナイーブ過ぎないか?
他方、以降第四章から終章まではややナイーブな議論が続きます。グローバル資本主義の源泉は米国建国の理念にまで遡っています(P.212-P.219)。単純な還元論には疑問が残りますし、歴史がない国とは言え400年前後の歴史があります。その歴史過程を分析しないのは片手落ちにも見えました。
それ以外にも欧米の一神教を背景とする人間中心主義や、江戸時代の誇り高き武士の精神、さらには自然との調和を図る神道的日本について懐古的に言及していますが、寧ろ感傷的に映るため省いた方が良いのではと感じました。
まとめ
まとめますと、本書でなくともグローバル資本主義について学ぶには他に良い本があると思いました。確かに、どのようにしてグローバリズムが格差社会を引き起こしたか、を考える上では参考になります。しかし、議論の射程距離が広く、米国の歴史の精査や一神教の思想性の分析は甘く、人によっては中盤以降読む気を失う可能性があります。本書の論点は経済、米国史、比較宗教学、日本文化等々多岐にわたりますが、エッセイとして読むのであればこの限りではなりません。
評価 ☆☆
2020/05/09