海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

美しい表現がちりばめられたイヤミス未満の純文学作品―『妊娠カレンダー』著:小川洋子


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感想

 以前から気になっていた小川さんの作品ですが、芥川賞受賞作品とのことで、ミーハーな気分で購入しました。

 

 小川さんの作品は以前『ブラフマンの埋葬』を読んで以来、そのなんとも言えない素敵な文章に魅了されてしまいました。

 

lifewithbooks.hateblo.jp

 

静かで穏やかで、そして何といっても、美しい。本作品でもその美しい表現力がいかんなく発揮されています。なお、本作は3つの作品からなる短編集です。以下簡単にあらすじと感想を。

 

『妊娠カレンダー』・・・一人称の「わたし」、姉、そして義理の兄の三人暮らしの中で、妊娠と共に変わりゆく姉の姿を描写しています。大きな起伏はないものの、精神科にかかっている神経症的な姉が壊れてしまいそうで、サスペンスとは違った「はらはら」というか気持ち悪さを感じます。その姉に気を使いすぎる私もいつか壊れてしまいそうで、物語の進行中、常にイヤーな緊張感を味わえます笑。

 本作品を読んでいて、嫁が妊娠中のことを思い出しました。とある日、帰宅すると炊飯器がベランダに置いてありました。壊れたのかと思ってよく眺めてみると、ベランダからコンセントが伸びており、窓際のタップにコンセントが刺さっています。聞くと、炊飯器のお米を炊くにおいが臭くて耐えられないと言います。そんなことをぼんやり思い出しました。

 

『ドミトリイ』・・・こちらもなんとも言えない不安感に包まれた作品。首都圏のはずれに位置する、体の不自由な「先生」(寮長)が営む寮での話。こちらも一人称の「わたし」、が主人公。「わたし」は寮の卒業生であるが、今度は甥っ子がその寮へ入寮することに。ところが「先生」は、かつて「わたし」がいたころとは寮が大きく変質してしまったという。そんな「先生」は日に日に弱ってゆき、「わたし」は先生を訪ねしばしばお見舞いに行くことに。しかし、親戚の甥っ子はいつ訪ねても姿がない。そしてとある日、「先生」の部屋で天井から滴り落ちる粘質の液体。。。これは一体!?。。。。イヤミスチックな作品。

 

『夕暮れの給食室と雨のプール』・・・こちらの「わたし」もまた、ぶっ飛び系。離婚歴のある、相当年の離れている、高血圧体質で偏頭痛もちの司法試験受験生の男性(つまりお金がない)と、家族の反対(そりゃ反対しますよ)を押し切って結婚、田舎に引っ越してきたという話。そこで出会う新興宗教の信者とその子供との不思議な交流を描いた作品。給食室に熱中するというその信者男性と子供。反応に困る趣味じゃないですか笑。内容全体は決してつまらなくはないのですが、展開が全く読めず、とりとめもないストーリーが淡々と続きます。そして別れは突然にきます。

 

おわりに

 いやあでも、本当に不思議。特段起伏がないのに、何かありそうでついつい読み進めてしまう。そして兎に角、文章が綺麗。ただ、サスペンスなどの娯楽ものでもないし、好き嫌いが分かれそうな作品だと感じました。裏表紙にも「透きとおった悪夢のようにあざやかな三篇の小説」とありますよ。何じゃこりゃって反応が起こるのではないでしょうか。だって本の内容、想像つきませんよね笑 私はでも、この美しい文章、嫌いではありません。

 

評価 ☆☆☆

2020/09/25

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