海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年は会計と英語を勉強します!

相思相愛が結ばれない悲恋を美しく重厚に描く―『マチネのおわりに』著:平野啓一郎


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 ふぅー。読後感が重たい。でも面白かった。

 

 平野氏の作品は初めてである。芥川賞受賞当時、会見で自分と同い年(当時23歳)ということが分かり、しかも京大卒。何となく自分との彼我の差を感じ、勝手に嫌な奴っぽいと決めつけて食わず嫌いを通してきました。

 

 しかし、見回る書評ブログの方で存外に褒めているものを見て、そうなのか、考えを改めるかと思った矢先にまたもやAmazonのKindle50%オフのセール。そこで本作を見つけて購入に至りました。

 

 内容は、天才ギタリストとハーフの映画監督の娘との運命的な結ばれない悲恋、と言ったところです。

 

 印象は、まるで濃厚なチーズのような印象。

 丁寧に美しく織り込まれた文章は、なめらかながら男性的な力強さを感じました。クラシックギターの奏でを実直かつきらやかに描くさまは圧巻という他ありませんでした(因みに読後に聞いた『幸福の効果』は優しい音色の素敵な楽曲でした)。また結ばれない二人のすれ違いやそのすれ違いの原因を作った早苗の罪の意識など、人間の感情に寄って描くさまは映画を見るかのような迫力。

 

 相思相愛のまま、キスすらすることもなく、結ばれることなく別の人生を歩むようになった二人。しかしその悲恋も、最後にお互いが結ばれなかった理由を理解することで、一読者たる私は一種カタルシスを得た気がしました。カタルシスというか、まあ悲しい話だけどすれ違いのままで終わりじゃないのならよかったじゃん、いや良くはないけど理由が分かるから消化できるかな、というような。自分の実らなかった恋なども重ね合わせ、あの人はいまどうしているのか等と過去の出来事へ想いが飛びます。

 

 付随的に少し考えました。

 お互い所帯を持った後に、相手と相思相愛だったとわかったらどうするか、とか、その相思相愛を妨げたのは今の妻だったとわかったらどうするか、とか、なぜ妻は嘘をつき続けるという優しさを示さなかったのか等々、意見が割れそうなポイントが多く見いだせるのですが、まあ酔っ払いの与太話にしかならなそうなネタですのでここらへんで。

 

 一つ残念だと感じたのは後書き。

 甘酸っぱいまま、あとがきもなくそのまま終わりにして余韻を味わいたかった。だけど実際にはクラシックギターの大家、福田進一氏へのお礼の言葉などが連なり、私はこれがただの作り話であったことを強烈に思い知らされました。現実に引き戻されました。

 

 ついでに言えば、たまたま私は学生時代にフラメンコギターをやっていた。そしてそういうことがフラッシュバックのごとくよみがえりました。
 当時、三澤勝弘さんという方に師事しており、この師匠はレッスンが更けてくるとウイスキーとピーナッツをもってきて、ささ、と酒をすすめてくれ、お互い飲みながらレッスンをつけてくださるのでした。折に触れて、『いやー、村治さんとこの娘さん。上手になったねえ』と当時はデビュー初々しい村治佳織のことを誰に問われるまでもなくしゃべっていらっしゃたことまで思い出してしまった。三澤さん元気かな。

 ということで余韻どころでなくなったと笑。

 

 でも総じて楽しむことができました。平野氏の作品は重厚感があります。美しい文章で大好きなギターや音楽が語られており満足しました。また、結ばれない愛の行方にも勝手に感情移入して楽しみました笑。ギター好き、パリ好き、結ばれなかったけど未だに気になる人がいる方、そんな方々には一層おすすめできる作品だと思います。

  

評価 ☆☆☆☆

2021/04/01

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