いわゆるユダヤ陰謀論をコンパクトにまとめたものです。タイトルにもある通り金融の内容に比重が重いのが特徴だと思います。
お金の仕組みについては面白い意見かと
ユダヤ陰謀論の系譜にあたる本だと思いますが、これまでの陰謀論と比べて新味が感じられるのは通貨論に踏み込んでいる部分でしょうか。
米国で通貨発行権を持つFRBという私企業(!)から米国政府へ貸し出されたドル。通貨発行にかかる費用と実際貸し出される価値との差異はFRBの儲けになります(シニョリッジ)。ドルがWW2以降基軸通貨として世界に流通するのですから、流通に応じてその差益は膨大になります。しかも金本位の停止を経て金の裏付けがなくなても流通している現在、ドルの発行・管理にかかる差益は膨大であることが想像されます。
とまあ、ここまでは陰謀論では見かけるお話です。
本作で面白かったのは、上記に加え、信用創造と金利についての議論を展開していることです(P.47-P.54)。中銀から市中銀行が金を借り、その金を企業に貸し、その企業が預金する(ないし一部使う)などして他の銀行に記帳された預金は更に別の企業に貸し出され、、、というように金は流通します。筆者は、この貸金と返済という連綿たる取引関係を数えられる程度の閉じた関係図で例示し「利子分のお金は椅子取りゲームのように誰かから奪わねば支払えません」(P.50)と述べます。つまり、当初の元本は変わらないのに、市中に流通し貸与された金を巡って各経済主体が金利分を埋め合わせるために、その余剰分をどうにかして他人から奪わないといけないと。
世の中はここまで単純ではないと思いますが、付利された貸金の返済とは、常に我々が追加的な付加価値を創造し、我々を常なる競争に追い立てているのかなあ、と感じました。別の言い方をすれば、発券銀行からの発券・貸与・付利という通貨システムは、交換の手段としての通貨以上に必然的に我々を競争社会に巻きこんでると主張しているようにも見えました(うーん、うまく説明できてませんね。ごめんなさい)。
著者は、地域通貨をユダヤ対抗のための代替手段として考えているようです。単純に交換機能と貯蔵機能に特化したようなイメージでしょうか。私も多少電子マネーとか使っていますが、確かに通貨や貨幣そのものが現在揺らぎ始めているような気もします。その点では改めて通貨や貨幣について学びたくなりました。
詰めが甘いかもしれません
他方本作には、物足りないというか全般的に調べが甘い点が散見されました。
例えばウェッブサイトの引用。確かに半恒久的組織や団体のサイトは読者が再確認できるという点で信用に値しますが、筆者は個人のサイト?も数点引用されています。例えば『歴史情報研究所』というサイトが引用されていましたが今はリンク切れ。そしてこうしたサイトの内容は大抵二次情報であるはずなので初出の一次情報にあたって確認までしてくださると信憑性も高くなると思いました。
更に、概ねユダヤ=他民族を地獄の底に陥れようとしている、という捉え方をしているように感じました。しかし、『ユダヤ人とユダヤ教』(著:市川裕)という本などを読むと、ユダヤにもいろいろあり、真摯なユダヤの営みの一端もまた知ることができます。
とすれば、もし悪いユダヤ人がいるとして、むしろそのメンタリティの理由について考えてほしかったなあと思います。先祖代々からのルサンチマンなのか。他民族を恨むよう教育されてきたからなのか。あるいは、このグローバル社会の中でそうした悪意が権威を持ちつつ存続することは可能なのか等々です。
おわりに
一部の人間が世の中を自分たちの良いようにコントロールするという陰謀論。
陰謀論と言わずとも、自分たちの思うように政治や金をコントロールしようとする勢力が居るというのは常識であろうと思います。ロビー活動、政治献金、軍産複合体等々はマスコミ報道でも一般的な言説であると思います。
そんな中では「まことしやか」な背景説明や理由付けこそが陰謀論の肝(!?)ではないかと思いました。それがなくては陰謀論も単なるセンセーショナルなデマゴギーであり、それこそフェイクニュースの廉で国によってはお縄頂戴になるやもしれない代物に成り下がってしまいます。
都市伝説のように、あるかもしれないけど確認のしようがない、そんな論拠をもとに陰謀論が展開されれば、陰謀論は一つの文学ジャンルになりうる、あるいはより正確な歴史研究の第一歩になりうるのではないかと感じました(ただ、911取材に関わった元NHKの長谷川氏の不審死はちょっとぞっとしましたが)。
評価 ☆☆
2021/12/09