今期より月一回自分に課している自主出社?を先週して参りまして、休憩室にある本棚に置いてあった本作を持ってきて読んでみたものです。
二十年前以上に発表された本作。日系銀行から米系外資系投資銀行に移籍したやり手のインベストバンカーと、その同期で日系銀行に留まるエリート銀行員を中心とした、ロンドンを舞台にしたディール獲得を巡る金融系小説です。
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バブルが弾けて21世紀が産声を上げたころ、外資系投資ファンドはハゲタカなどと揶揄され、貪欲だとか強欲だとか言われた時代が日本にありました。しかしグローバル化が十分進んだ今、外資系金融機関を即強欲な投資銀行、とみなす風潮は殆どなくなったように思います。
対して日系金融機関はどうでしょうか。上意下達、イエスマン、学閥や派閥に守られた異動・昇進・人事、といったイメージがありました。日本で銀行に勤めた経験はありませんが、金融庁検査やコンプラ重視のコーポレートガバナンスが進み、さすがに本書に出てくるように素人行員が初の海外駐在でトレジャリー部門に異動し自己勘定で大損をこくとかは、今の時代はもうないでしょう。
しかし、ことなかれ主義であるとか、上の顔色を見て組織が動く、というのはいまだに色濃く残っているように思います(あくまでアジアの外野からしか見ていませんが)。それゆえか、本作の日系銀行次長今西が社内外の妨害にくじけずにディールを成立させる姿にちょっと胸が熱くなるのを感じました。
本作のこうした勧善懲悪的・ハッピーエンド的結末が私以外にも受けるとすれば、その受けの原因は、物語の筋がリアルとか面白いとかいう要素以上に、どの会社でも多かれ少なかれ正当な努力が認識されないとか、マネジメント層が上しか見ないとか、形式・しがらみ・前例なしとか(ひっくるめて合理が立たないこと)のためにまっとうに仕事が進められないということが今でも依然として多くあるのだろうなあと思った次第です。つまり本作の日系銀行は日本企業の縮図なのではないか、と。
そう考えると、みんながハッピーに働ける社会というのはやっぱりユートピアで、実らない努力は今後も出てくるし、報われない正直者も今後もいるだろうし、小手先や日和見でうまくいく人もまた出てくるのだろうと思いました。だからこそ本作のような(勧善懲悪的)成功譚が受けるのだし、今でもリアルに面白いと感じるのではないかと思った次第です。
おわりに
中表紙の作者欄を見ると、作者は都市銀、証券、商社に勤務経験ありということで、結局職務経験が全部本作のファクターとして組み込まれているようです。道理でリアルなはずです。しかも中東研究で修士号をとられているとのことで中東マーケットやトルコの場面が多いのもうなずけます。
私の働くアジアの金融機関とは180度とはいかないまでも150度くらいは状況は違いますが、同じ金融の中でもキラキラした銀幕の世界を見るかのように楽しめました。
銀行業務のほんの一部分しか切り取っていませんが、銀行業務の一部として銀行業・投資銀行業を知りたい方にはお勧めできると思います。
評価 ☆☆☆
2022/07/09