近くの新古本を売る書店で一年ほど前に500円ほどで購入したもの。でも寝かせておいて正解でした。その後デカメロンとカンタベリー物語を読んだので、相応の下地ができました。にしてもAmazonで評価4.5。本当か? 評価を確認してから購入しましたが、読後に評価見返しました。そんなに英国中世史って人気あるのか?って。でもどこぞの国で鎌倉時代の大河ドラマがそれなりに人気らしいので、さもありなんってことかしら。まあ楽しく読めたから良かったんですが。
本作は、カンタベリー物語の舞台となった14世紀英国を中心にした文化史的読み物です。
従い、カンタベリー物語は事前に必読です。世界史もかるーく舐めておくとより良く理解できます。
英国中世文化史を網羅
さて内容をより詳細にお話ししますと、中世英国文化史のグリッドです。たて糸にカンタベリー物語の登場人物を中心に職業を置き(騎士、牧師、修道院長、法律家、調理師、粉屋等)、横糸にトピックとして服飾、騎士道、旅行(巡礼含む)、料理、税金、法律、医療・手術、教会、修道士、英仏100年戦争、等々を配置し、中世英国の様子を描き出すものです。
当然の事ながら膨大過ぎてすべてをご紹介できませんが、私がへぇーと感じたトピックを2つ紹介。
1つは料理の話です。皆さん、当時はどうやって料理の時間を測っていたんだと思いますか。電子レンジ、冷蔵庫は当然ながら、時計もなかった(ようやく15世紀くらいにイタリアやドイツで開発されたそう)!ましてやキッチンタイマーもないですよ! で、答えはですね、聖歌を歌うことで時間を測っていたそうです。へぇーってなりませんか? 聖歌の歌詞を忘れたらタイミングがズレて料理が失敗するじゃないかとか、歌うことに集中しちゃって手元がおろそかになるんじゃないかとか無粋な突込みはいれてはいけませんよ笑
もう一つはアーサー王伝説について。こちらの起源については諸説ありそうですが、本作によると大陸への対抗意識?から生まれたとか。大陸ではシャルルマーニュは欧州キリスト教世界のヘゲモニーを作り出した先駆者としてアイコン的存在らしいです。しかし英国にはそうしたものがなく、それに対抗する中で出来上がってきたとか。初めは英国王室はトロイの末裔によって作られたという伝説、しかし根付かなかったらしい。キリストの聖杯や聖遺物などを権威にヒーローっぽい人たちが幾人も出てくるも「これぞ英国」というヒーローに育たず、その中で出てきたとのアーサー王伝説とのこと(P.238)。私がへぇーと思ったのはシャルルマーニュに対抗してっていうところ。そんなに昔から英国人は自意識強かったのかなあと。
英語は単語が難しい
そのほか、英語は単語が難しいです。職業名ですが、召喚吏(summoner)とか粉屋(miller)とかreeveとかflanklinとか。こうした多くのこまごまとした職業は日本語に直接置換しづらいものも多く、かつ表音文字の英語だと想像すら及ばず、知らないと分からないのが痛いところです。あと教会用語も多く難儀しました。
おわりに
そういえば筆者は英国の国税局(Inland Revenue)で弁護士として勤務し、退職後執筆活動に入られたそう。理想的な老後だなあと心底羨ましく思った次第です笑。
ということで、本作、英国中世史に興味のあるマニアックな方にはお勧めできる本です。
評価 ☆☆☆
2022/07/06
本作の下地となるカンタベリー物語は読みものとしても楽しく読めます。