海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

「心」「意識」があればこそ、世の中は楽しくまた辛い |『劫尽童女』恩田陸

こんにちは。

長男の受験が突然終わりました。ラッキーなことに所謂帰国試験なるもので大学に拾ってもらえることになりました。

高校でも帰国試験、大学付属校なのにアホすぎて内部進学できず。そして大学入試も小論文と面接の帰国試験。

30年前の私。私大文系ながら一般入試で、一日十時間くらい千本ノックかの如く勉強をしていました。隔世の念がありますね。

 

馬車馬のように働かねば。

 

ひとこと

何となく「アキラ」っぽい印象。

何らかの目的のために「不自然に」生み出された生命。そんな生命が「私っていったい何なの」と自問するパターンです。

 

老成した小学生が自問する。私って何なの?

父伊勢崎博士に遺伝子をいじられたかしたで、超能力(身体能力、鋭い五感等)を獲得した伊勢崎遥。父の謂われるがまま殺戮を繰り返す。

彼女は設定上は小学生中学年か高学年という事だが、意識としては老成した50代程度みたいな設定です。

倫理的な思考はできるものの、殺戮への罪悪感は薄い模様。ただ、物語の後半でニューメキシコかシェラネバダあたりの貯蔵施設で核爆弾の処理(誤爆→周囲の汚染)に騙されて加担するというくだりがありました。これが応えた?模様。

 

「心」「意識」があればこそ

このあたりの「心」未熟さが面白いところかもしれません。

ミュータントやロボットは自尊心を持ちうるのか、とでも言い換えることが出来るのかもしれません。キチンと情動もそなわっているのに、他人の為に労働を強いられる。感じる心が無ければ労働だって殺戮だって呵責もないものを、わざわざ心が、感じる能力が備わっている。だからこそ主人公の遥も他人の計算通りに動かずサプライズを起こす要因にもなりましょう。

 

で、ふと思い立ったのが、「アキラ」です。かの作品でも超能力を使える子どもたちが隔離され、訓練されていました。彼らもまた周囲の他人の為に自分の人生を犠牲にすることを余儀なくされていました。

同様に思い出されたのが「私を離さないで」のキャシー。詳らかにされませんが、臓器移植のために生み出されたクローンのような人々。これまた自己意識があるために、「なんだかんだで自分の人生悪くなかった」と必死に思い込もうとするような、まあどんよりした作品でした。

 

「人間は考える葦である」なんてパスカル某が言ったとか言わないとか。

その「意識」「思考」こそが人・生き物を崇高にもすれば、苦しみもさせるのかもしれません。

 

おわりに

ということで、恩田陸さんの作品でした。相変わらず作風に富んだ作家さんであると感じました。

本作単体ではそこまで響くところは個人的になかったのですが、非人間の生き方、生き様、生命の優劣、自己決定権は人工物に及ぶのか、みたいなテーマで考えると世界が広がってゆく作品だと思いました。

 

ですので、本作はエンタメ好き、恩田さんファン、SF好きやディストピア好きのみならず、生命倫理等に興味がある方にもお勧めできると思います。

 

評価 ☆☆☆

2023/09/21

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