海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

ハッピーエンドのディストピア? スリリングさに洒脱とユーモアが入り混じる傑作 |『ゴールデンスランバー』伊坂幸太郎

皆さんこんにちは。

月末憂鬱なこと。私は家計簿つけですね。お手製のエクセルで管理です。

私と家内は国外で、子どもたちは日本ですので、邦貨と外貨で2シート作成し、トップに合算ベースのサマリーシートと3シート構成のエクセルです。

いやあ、今年はもう残高が減るというより、溶けるという感覚。

 

下は高校初年度ですし、上は高校最終学年で、修学旅行やらなんやら。彼の塾代も高校の授業料一年分くらいしたなあ泣。すごいわ。大学初年度の前期分の納入もありました。。そして何でしょう、最近は合宿免許云々言い出しています。これも親が出すのかね?

私も私で今年は一時帰国を2回もしてしまったし、この前は子どもたちが親族の結婚式でこちらに帰国。まあ慶弔事だけど。旅費も半端ないですなあ。

病気も見つかる中、「あの世に持っていけないからと使い切りか?」と思われかねない散財?というか旅行が計画中されつつあります。。。

 

今年はかなり円が弱めなので、弱小アジア通貨で稼ぐ私も、子どもたちの学費では助かっています。んが、年一回のボーナス(7月)まで残高が持つかどうか心配な今日この頃です。

なお当地では、駐在員のお給料はローカル平均給料の約四倍。くぅー、辛いねえ。同じ年の副支店長に「私も駐在になれませんか」と真顔で聞いて、「いやー、厳しいです」と即答されたのを思い出します笑

 

ひとこと

いやあ、いいです。ホントいい。

今年は伊坂氏の作品を集中的に読み、ここまで本作含め16作(!)読んできました。出来るだけ年代順に読んできたつもりですが、その中では本作が一番ぐっときました。いやあ実に面白かった。

洒脱な表現と情景描写はもとより、テーマ、ストーリ展開、キャラ設定、全てが好みかも。

 

ゾクゾクしながら読めるディストピア的展開

まず、個人的に、この陰謀論ディストピア的な展開が好み。

当然のことながら本作はフィクションですが、国家が個人を本気でハめようとすることって、きっとあるのだろうなあと思うんです。作中でも取り上げられていたとおり、有名なケネディ大統領暗殺の犯人オズワルドとか(さらにはオズワルド殺しも)。

個人情報(いわゆる個人情報のみならず、ネットへの投稿、通信状況、ケータイの位置情報など)が容易に権力者によって収集・管理・アクセスされ、さらには捏造されることもが可能な社会。マスコミやネットを通じて醸成される根拠なき確信と熱狂。名もなき群衆の無責任な盛り上がりが濁流のごとき暴力となり個人への打撃を与える。

もう、ひりつきながら読んでいました。

 

度々あとがきで、フィクションですと断りながらも、ありそうな具合が絶妙で怖い。例えば、自衛隊や警察は、当然の事ながら上官の指揮命令系統には絶対だと思います。むしろその命令に疑問を持つようだと、組織として機能しないでしょう(まあ会社も一緒ですが)。このような場合、主人公青柳のごとく冤罪者に対して、コミュニケーションを持とうとしないわけです。無関心。聞く耳を持たない。国家で唯一暴力が保証される団体がコニュニケーションを拒否して飛びかかってくるのですから、これは怖いことですよ。主人公青柳みたいに逃げるしかないですよね。

 

なお、このようなディストピア的な作品というと、伊坂作品では「魔王」とそれに続く「モダンタイムス」がありますが、本作はまた少し毛色が異なる作品ですが面白いのでこちらも是非。本作のほうがやや明るめなテイスト。

 

構成と展開もまたよし

また、節の区切りの前後で同じセリフを使いつつ、全く異なる時間軸へ移行するというのも、伊坂氏らしい小憎らしいトランジションでした。

「ここは本当に俺の知っている仙台なのかな?」と青柳逃走中のタクシーで運転手に語らせて節が終わり、次節は再び「ここは本当に俺の知っている仙台なんすかね?」と、ほぼ同一の表現で開始し、10数年前の学生時代の後輩カズに語らせる。同じ表現をつかい、緊迫感も状況も全く異なる場面に展開する。このような連関が作中に幾つかありました。

 

それと、エンディングについて。主人公青柳がその後どうなったのかは、書き尽くさずに余白・余韻を醸して終わっていたところも良かったですね。「ロック」岩崎さんがキャバ嬢との浮気がばれたシーンと、青柳父が事件後に「痴漢は死ね」の送信元不明の手紙をもらったシーンですね。晴子娘が親指でエレベータの開閉ボタンを押す男に気づくシーンとかもそれですね。

 

あと、構成というと、一度読み終わってから再度初めのあたりの第三章「20年後」を再読することをお勧めします。改めてディストピア感を味わえます。

 

人物・キャラ設定

そして、やはり人物設定が私好み。

どこぞの伊坂作品の解説にあったのですが、作品のキャラにはどこかまっとうな倫理観が通底しています。世の中が殺しにかかってきているのに、倫理観を失わない。

首相殺しの冤罪をかぶせられた青柳は、巻き込んでしまった道行く人には実に済まなそうです。

 

青柳を取り巻く登場人物も同様。疑問であることにはきちんと声を上げる。皆が簡単にやばい・怖いと軽々しく発言するのに対し、意見する。なかなかできないことです。

例えばそれは、結婚して子供までいるのに、危険を冒して、微妙に青柳を助ける元カノの樋口晴子。どう見ても青柳とは犯人とは思えず、樋口とともに青柳を信じる後輩カズとその彼女。テレビ取材に立ち入られ、「とっとと逃げろ」と息子宛てにカメラに語る青柳の父。

 

このほか、友達の助けの電話に、電話口で「課長、これから有給いいですかぁー」とさっぱり言ってしまう平野昌や、常にロックかロックじゃないかの判断しかしない宅配ドライバーの岩崎など、愛すべきキャラが多かったと思います。

 

おわりに

ということで、今のところ、私の中でナンバーワン伊坂作品となりました。

伊坂作品が好きな方はもとより、SFやディストピア設定が好きな方、仙台が好きな方(相変わらず仙台が舞台)は楽しめると思います。

 

評価 ☆☆☆☆☆

2023/11/23

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