海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

自動化する「組織」に対し、個はどのように反応・反抗するのか |『モダンタイムス』伊坂幸太郎

皆さんこんにちは。

急に秋らしくなりましたね。部活で出ていた娘が、LINEで、「今日ご飯何?」「できれば鍋がいいんだけど」と送ってきました。それほど。

日本の秋は本当に美味い。かつて女子の食べ物と考えていた焼き芋ですが、今期より私も参戦。シルクスイートという品種に激ハマり中です。家で焼き芋にして毎日食べています。

加工せずそのまま火を入れるだけでおいしいって最高ですね。

 

ひとこと

今回も洒脱な表現にユーモアセンスあふれる作品でした。当初は展開の分からぬコメディかと思いきや、読み進めていくと政治ドラマやディストピアにとどまらない、「結局個々の人間の生きる意味って何なのよ」と問いかけるようなお話でした。

 

マジの恐妻家

話のつかみは「恐妻家」でした。

男性諸氏の中でもこれを営業トークに使ったり、社内での潤滑油として話題にしていたりすることは多いかと思います。

主人公の渡辺拓海は、元夫が(理由は分からないが)死亡している、飛び切り素敵な女性と恋に落ち、結婚。奥様は「浮気したら殺す」と謂い、以前彼女の勘違いから、派遣されたヤクザ?に押し入られ、危うく指を折られそうになった経験があるという。そして再び、ブラックな感じの方に押し入られる。しかし今度は奥様の勘違いではない。という事は指は折られる?というか切られるか!?

こうした猟奇的とも言える奥様の、想像を絶する愛?執着?はフックとしては十分な働きをしていました。

 

個人はシステムを変えられるか

さて、上下巻読んで感じたのは「人はシステムを変えられるか」という事だと感じました。解説でも「国家という社会システムが敵となる」とあります。

 

作中で輝くのは、5年前の惨事である播磨崎中学校乱射事件をきっかけにヒーロー転じて政治家、ひいては首相にまで上り詰めた永嶋。彼は国を動かしているのは事実ではあるものの、国全体のシステムの中で「首相」というポジションを演じているだけという事も自覚している。過去の事件を隠蔽するも、それもまたやむなしと主人公に告白する。

 

そのような真実を話し、また首相をそこまで追い詰めた拓海たち。結論として彼らが示した行動とは「少しずつでも周囲を変えて行く」ということでしょうか。本文では『人間は大きな目的のために生きているんじゃない』という事になりましょう。

ここにきて想起されるのはミーム利己的な遺伝子、ではないでしょうか。

 

人類という種が、(個としてではなく)種としての生き残りをかけ自己展開していく、そこには個々の人生の充実などは幻想にすぎない等ということが主張されていたと記憶します。

 

類似のことは、別の表現で多く見られると思います。

例えば『企業文化』とかどうでしょう。私が属する銀行グループには、度々「前例は?」等脊椎反射のように聞く方がいました(沢山います)。硬直化して官僚化してルールが弾力的でない。勿論そうでない方も多くいますし、パーツである個々の人は入れ替わるものの、それでも「ハコ」としての企業があたかもそれ自身が有機物であるかのように『社風』を維持する。国家、文化、企業、地域社会、いつの間にかそういう「ハコ」が意識を持つかのように変化を嫌う。

 

本作『モダンタイムス』で主張されているのは、言わば「ミームへの反抗」「個の反抗」とでも言おうモノではないかと感じました。チャップリンの同名映画では、人が社会のシステムの中で偶然にもパーツとして意図せず役割を演じてしまうシーンがありました。そうした圧力、あるいは「社会的要請」もしくは「同調圧力」?に抗するかのような本作主人公には、ディストピア的作風にあって、将来への希望を感じさせるものでありました。

 

魔王」の続編

さて、伊坂ファンとしては、本作が「魔王」の続編として扱われていることはもう自明というか常識であろうと思います。

かの作品では、右傾化する日本で憲法改正へ向けての不穏な空気が描かれていました。また政治家犬養のカリスマとそれを止めようとする微超能力を持つ安藤兄弟が印象的でした。本作では安藤弟は既に他界し、彼の連れ合いの詩織(70代)が生き残っている状況。時代的には「魔王」の50年後という所でしょうか。

歴史としての関連はあるものの、テーマ的には続編とも言い難いように思います。ただ、併せて読むほうがもちろん面白いと思います。「人」の関連があります。

 

おわりに

ということで今回も伊坂作品を美味しく頂きました。

個々人は真面目に働くのに(働くゆえに)全体として悪が遂行されるというディストピア的設定のなか、それを個々の小さな改善により打ち破るという希望を持てる作風には好感が持てます。

他方、謎だらけの美しく猟奇的な奥様、彼女からの愛を「感じる」「確信」するにとどめ、敢えてその背景や過去に迫ろうとしない主人公の姿勢もまた趣がありました。

煎じて言えば、「知ること」「行動すること」には様々な様態があると改めて感じます。広く知ろうとしないで眼前に集中しすぎる近視眼的姿勢はよろしくないものの、全てを知ることが幸せなのかというとそうでもない、と。その塩梅はやはり個人の選択ですね。

 

本作、伊坂ファン、エンタメ好き、それ以外にもディストピア作品が好みの方、政治や官僚に批判的?な方にも読みやすそうです。

 

評価 ☆☆☆☆

2023/09/18

 

 

前編とも言うべき魔王、面白かったです。

lifewithbooks.hateblo.jp

 

システムの側で忠実に仕事をするという意味ではどうしても官僚のことが思い浮かびます(ごめんなさい)。官僚がシラを切る作品としてはこちら。

lifewithbooks.hateblo.jp

 

 

貴重なお時間を頂きまして、有難うございました。

 

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