海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年はセカンドライフとキリスト教について考えたく!

ホテルではお客様の仮面を剥がしてはならない-『マスカレード・ホテル』著:東野圭吾

マスカレード・ホテル (集英社文庫)

マスカレード・ホテル (集英社文庫)

  • 作者:東野 圭吾
  • 発売日: 2014/07/18
  • メディア: 文庫
 

 

ホテルには数多くの人、多種多様な人たちが投宿する。そしてこれをマスカレード(仮面舞踏会)に例えた本書の舞台は、言うまでもなくホテル。

 

連続殺人事件の次なる舞台はホテル。執事然としてゲストに相対し、心からのサービスを提供するホテルウーマンの山岸と、警察の最前線の捜査一課で活躍する新田。

多くの人間を観察する職場は共通しているが、一方は性善説として顧客にサービスを行い、他方は性悪説として人の裏側をえぐろうとする。そんな二人が連続殺人事件の為に共に働くことになる・・・。

 

一言で言うと面白かった。犯人は最後に結果が分かるまで全く読めなかった笑。

 

本作は大部に渡るため、途中でやや展開がモタれるように感じられたこともある。しかしながら、様々な“奇妙”なゲストの描写は秀逸。まるでテレビでホテル業界の内部を見ているような感覚になった。筆者が想像で描いた部分もあるだろうが、恐らく本当にホテルには多くの奇妙なゲストが投宿するに違いないと想像した。

 

また刑事の新田が次第にホテルマンとして順応していく様は、ある意味自己陶冶小説として読める

 

そして、一番の出色は『マスカレード・イブ』とのリンク。

lifewithbooks.hateblo.jp

私は『マスカレード・イブ』をはじめに読んだが、『マスカレード・イブ』の話を伏線にして本書の内容が展開する(本書のスピンアウト版として『マスカレード・イブ』があるのかもしれないが)。そのリンケージを楽しめる点でも本作はエンタテイメント性が高い作品であると感じた。最後に映像化したら面白いのでは、と書こうとしたが、2019年にすでに映画として公開されていた(主演:木村拓哉)。納得。

 

評価 ☆☆☆☆

2020/03/27

マスカレード・ホテル

東野圭吾 集英社 2014年07月18日
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上級者向き(英米向き・非アジア向き)或いは日英文化論として-『「とりあえず」は英語でなんと言う?』 著:ルーク・タニクリフ

 

 

ポップな装丁とキャッチ-な題名に惹かれて購入しました。

 

うーん。残念ながら、題名のキャッチ-さに反し、実用的に使うのはちょっと難しいかなと感じました。

 

私は現在アジアに住み、社内の公用語は英語という環境。そして趣味で英語のスピーチもたまにします。それでもこの本で紹介される言い回しについては半分程度は知らなかったと思います(レベル低くて済みません)。

 

特に第一章(「自分の気持ち」を伝える)、第二章(「自分の状態」を伝える)、第三章(「性格」を表現する)は、使えたらいいなあと思う反面、英語を母語としない英語話者には”こなれ過ぎ”ていて伝わらない可能性があります。

ただし、英語がネイティブの方に対して使えればより仲良くなれるかなと思いました(こいつは喋れるなと誤解される恐れもあります笑)。

 

他方、文化論として読むとすれば、非常に興味深い読み物だと感じました。特に第五章(会話がはずむ英語)や第六章(知って損はない便利な英語)では、日本語の同音多義語の奥深さも味わえます。例えば日本語でひと事“微妙”と言っても、英語に訳すときには場面や内容で訳し分ける必要があります。とかく逐語訳に陥りがちな我々日本人にとって、言語の違いとともに、日頃意識していない日本語の深さも再発見できます。

また、英語圏との文化や生活習慣の違い(ごちそうさま、いただきます、お疲れ様、など)も知ることができます。

 

結論。大きさや価格も手ごろなので買っても損はないでしょう。ただ、上記で述べた通り、実用本として使うには上級者しか使えなさそうな気はします。また英米豪などのネイティブ英語圏に住む人にとっては当たり前すぎる可能性もあります。

 

評価 ☆☆☆

2020/03/27

「とりあえず」は英語でなんと言う?

ルーク・タニクリフ 大和書房 2016年10月
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アンガーマネジメントとは自己とのコミュニケーション-『アンガーマネジメント入門』著:安藤俊介

アンガーマネジメント入門 (朝日文庫)

アンガーマネジメント入門 (朝日文庫)

  • 作者:安藤俊介
  • 発売日: 2016/09/07
  • メディア: 文庫
 

 

米国のトランプ大統領とのやり取りで時の人となった環境活動家グレタ・トゥーンベリ氏も言及したアンガーマネジメント。その技術についての入門本です。

 

私は日頃そこまで怒る方ではないとは思いますが、それでもたまに、怒りから判断を誤った・もっとよくできたという事があります。また、普段から日記をつけて自らの怒りに振り返りをしてなぜ怒ったのかを分析しているつもりですが、それでも突発的な怒りをしばしば感じるため、本書を購入して勉強してみました。

 

結論としてはなかなか面白かった。

なるほどと思ったのは、怒りが「動物が行う闘争-逃走反応」の一部(生物学的に正しいのかはわかりませんが)であること、事象の解釈を行う自らの価値観を認識すること、歪んだ価値観のリフレーミング、怒りを引き起こす周囲の原因の整理(重要か否かの軸、変えられるかどうかの軸)等々。

 

通読して思いましたが、結局は怒りのコントロールも突き詰めれば自己認識なのかなあということ。自分がどういう人間かということについては皆ぼんやり認識はあると思うのですが、怒りの源泉を探ることで自己の価値観を掘り下げる経験はなかなかできないと思います。怒りの源泉のみならず自分自身がどういう人間かも知ることができると思います。その意味でこの本が指南する自己分析・自己認識は非常に意義深い。

 

人間は感情的な動物であるしそれをなくすことも難しいし、なくすのではなく上手にコントロールするという本書の方向には大いに賛成です。怒りっぽい人や怒りで損している人以外にも現代人が読むことで得るものが多いと思います。おすすめです。

 

評価 ☆☆☆☆

2020/04/04

アンガーマネジメント入門

安藤俊介 朝日新聞出版 2016年09月07日
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よくある内容も、ゆるーく読める本-『思考の整理学』著:外山滋比古

思考の整理学 (ちくま文庫)

思考の整理学 (ちくま文庫)

 

 

メンターが私に勧めてくれたので読んでみました。

ぎすぎすした世の中にあって、ある意味、癒しの自己啓発書。エッセーに近いかな。

 

筆者は英文学・言語学の専門家でお茶の水女子大名誉教授。

 

本書の中では思考にまつわるエッセーが多く書かれていますが、繰り返し出てくるのは『自ら考える』ということと『寝かせる』ということ。

 

学生をして飛行機人間とグライダー人間と分け、グライダー人間になるなと諌めます。オヤジの小言みたいで少し嫌ですが、わからなくもないです。社会人であっても、世の中でできらりと光るためには自分なりの意志や欲がないとだめなのでしょう。

 

さらに、らしさという点に関連して筆者は敢えて新聞や読書などから離れることも勧めています。今で言うとケータイもネットも見ずに生きてみる感じでしょうか。流れる情報に踊らされるのではなく、そこから一歩離れることで自分の中から何が出てくるのか確認してみよと勧めているものだと解しました。

 

もう一つ、寝かせる(熟成させる)という考えもいいなあと思いました。解きたい問題、解かなくてはならないと意識しているものの、なかなか解けない問題ってあります。これを敢えて寝かせるというのは含蓄のある大人でないと言えません笑 寝かせることで発酵し、次第に整理がついていく。こうした問題は、ノートの端なり、日記なりに記録し、見返さないと『発酵』しなさそうです。私の日記にも発行したアイディアがそれなりにありそうですが見返す作業が苦手で腐ってそうだ笑。

 

纏めます。

一言で言えば普通なエッセーです。内容は既知のものばかりです。古い本であるため、一部時代錯誤的に感じられる箇所もあります。それでもなお現在この本が多くの方に読まれているのだとすると、筆者の洒脱さやにじみ出る人間性にあるのかなと思います。移り変わりのスピードの速い現代にあって、ある意味逆行する意見(寝かせる、熟成、発酵)を述べており、そうしたところが受けているのかなとも感じました。

 

評価 ☆☆☆

2019/03/20

思考の整理学

外山 滋比古 筑摩書房 1986年04月
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設定の妙と人間観察の面白さを味わう-『マスカレード・イブ』著:東野圭吾

マスカレード・イブ (集英社文庫)

マスカレード・イブ (集英社文庫)

  • 作者:東野 圭吾
  • 発売日: 2014/08/21
  • メディア: 文庫
 

 

ドラマの面白さとは何か。

マンネリの中に光る予定調和と安心感。水戸黄門の昔から始まり、ドクターXの大門未知子、半沢直樹もそうであろう。どんなに難しい展開でも、最後に言い渡される決め台詞と主人公の勝利。うむ、カタルシス

或いは、普通は知ることのできない舞台設定。警察、弁護士、医師、家政婦、等々。勿論、職業として異常ではないもの、割合としては日本では圧倒的に少数である。他人の仕事や生活は、それが特殊あればそれだけ興味がわく。

・・・

本作マスカレード・イブでは、後者の”なかなかお目にかからない舞台”が設定されている。

特徴的なのはこの舞台が二つあることだ。一つは警察、そしてもう一つはホテルだ。どちらもドラマ的には使い古された舞台ではある。

ただ出色なのは、この舞台がそれぞれ独立していることだ。刑事側は新田、ホテル側は山岸という主人公がおり、物語が交互に続くことで使い古された舞台設定に新味を与えていると思う。

4つの短編は、最後に表題作でもある『マスカレード・イブ』で結実するが、主人公たちはここでもニアミスしかせず、具体的にな協働は行われない。

・・・

本来は別作の『マスカレード・ホテル』のスピンアウトとして読まれる作品なのかもしれない。私は左記の作品は読んでいなかったが、それでも本作は楽しく読むことができた。

 

刑事ものはありきたりに感じるものの、ホテルマン(正確にはウーマン)、わけても女性がその観察眼を使って場面をさばいていくところが本作の面白さだと思う。

 

単純にミステリを楽しみたい方のみならず、ホテル業界に知見を得たい方にもおすすめできる作品だと思います。なお、巻末に取材協力としてロイヤルパークホテルの名がありました。ロイヤルパークはきっとこのような素晴らしい従業員がいらっしゃるのでしょうね。

 

評価 ☆☆☆

2020/03/24

マスカレード・イブ

東野圭吾 集英社 2014年08月21日
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儚いなと感じたスパイの自伝-『理想はいつだって煌めいて、敗北はどこか懐かしい』著:史明 構成:田中淳

 

2019年の夏過ぎにYahoo!ニュースで紹介されており気になって購入、しばらく積ん読していました。

まとまった時間ができたので、寝る前に手に取って読み始めたところ、非常に面白い。どんどん引き込まれ、寝る間も惜しく、結局4時間程度ぶっ続けで読み続け、読了。

 

良いか悪いは別として、この史明というおじいさんはもうハチャメチャ。平穏な現代社会から考えると殆ど映画のような話です。

 

映画のような人生

本で読むと100倍面白いのですが、簡単に書くとこのような流れです。

日本統治下の台湾で裕福な家の跡取り息子として生まれ、早稲田大学へ留学。共産主義へ共鳴し、卒業後は中国へ渡りスパイ活動に従事(その間、パイプカットを断行)。中国潜伏中に共産主義専制的抑圧に幻滅し、愛人の平賀協子と共に命からがら台湾へ逃れる。おりしも台湾は中国国民党が逃れてきており、彼らが覇権をとると今度は中国共産党のスパイと疑われる厳しい状況へ。次第に民族自決的意識を高めつつ、追い詰められ捕まる直前で日本へ逃れ、亡命。以降、協子と中華料理屋を営みつつ日本より台湾の独立を目指し後進を指導し続ける。長年台湾当局より危険人物として扱われるも、1993年に台湾へ帰国し、台湾内部より革命をサポートしている。

 

強権的な台湾に驚き

このような劇画的描写の中で私にとって衝撃的であったのは、台湾という国が非常に強権的に描かれていること。確かに10数年前のテレビ番組などでは韓国や台湾の国会での乱闘騒ぎが面白おかしく放映されていたこともありました。しかし今台湾といえばグルメやフォトジェニックなシーンの多い国というイメージ。ところがつい1980年代までは著者のような志の高い人々を国家反逆罪というなのもとに逮捕・処刑をするような国でもあった。国は時に人の予想をはるかに超えて変わりうることをまざまざと見せつける。

 

人生は儚い。思想は怖い

加えて感じたのは、人の人生は儚いなあということ。この史明というおじいさんは自分の人生に満足しているのだろうか、と考えてしまった。もちろん本人は今も現役で理想に燃えているかもしれない。ひょっとしたら台湾の民主的な変化に意気揚々としているかもしれない。しかし、私からすると、彼は国・思想・エゴ・歴史に翻弄されつづけた人生に見える。家を継ぎ次世代につなぐことも果たせず、円満な家庭を築くこともできず、そして自らは「時代遅れ」と世の中からみなされつつある。

本人が満足していればもちろんよい。本人が周りとのギャップ(時代遅れになってしまったとか)に気づかなればまたそれも良い。しかしながら一番身近な家族を犠牲にしてまで捧げてきた共産主義民族自決主義も結局結実せぬまま氏を余儀なくされるとすれば、いみじくも共産主義が言うように宗教はアヘンであり、思想もまたアヘンであると思ってしまった。

  

まとめ

最後に纏めますと、本書はインテリジェンス、近代史、日本史、民族主義、中国および台湾に興味がある方にはおすすめできると思います。100まで年を数えることができたスパイの自伝であり、そのまま日本を含めた東南アジア近代史でもあります。

 

評価 ☆☆☆

2020/03/23

100歳の台湾人革命家・史明 自伝 理想はいつだって煌めいて、敗北はどこか懐かしい

史明/田中 淳 講談社 2018年12月17日
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むしろ若手が反面教師的に読むと良い-『40歳からの仕事術』著:山本真司

40歳からの仕事術 (新潮新書)

40歳からの仕事術 (新潮新書)

  • 作者:山本 真司
  • 発売日: 2004/03/01
  • メディア: 新書
 

 

題名からして30代後半から40代の方が手に取って読まれると思います。

はい、私、40代半ばのおっさんです。

 

ドンピシャ世代。端的な感想は、いまいちです(厳し目で済みません)。古い、そして単純。

 

10年以上前の本を今更読んで古いというのも申し訳ない。また身も蓋もない。

もちろんいいところもあるので、夫々述べさせていただきます。

 

ここがいいところ

まず、普遍的な話ですが“自分をもつ”“自分で考える”という点を繰り返し主張しています。この点は非常に大事だと思います。私も大手グループの子会社で勤務していますが、素敵な学歴の年下の上司が2-3年に一度来ては帰っていきます。その多くは前例主義でそこから外れるリスクやプロコンについては判断できず、新たな提案には大概難しいという言葉でつぶす。また自分のいる部署・会社をどうしたいのかという自分なりの思いを持ちません。彼らに文句を言っているのではなく、彼ら自身が自分の可能性や会社の可能性をつぶしているのが惜しくてならない。

 

一年目は生活に慣れるのに精いっぱい、二年目は仕事を理解するので精一杯、そして三年目になると次の任地のことで気もそぞろとなる。

転勤の功罪でもあろうかとは思いますが、大手企業社員の中堅どころの官僚化は会社を淀ませます。

そうです、皆さん、自分なりに考えましょう!会社人生のみならず今後の人生全体について自分なりにどうしたいという想いが必要と私も考えます。

 

ここがいまいち

逆にいまいちなところは、冒頭でも述べた通り、今これを書いている2020年からすると些か古いと感じます。いや、実際に古いですよ。2004年の本です。確かにMBAコンプレックスや英語コンプレックスは今でも一部の中堅社員には残っているとは思います。とは言え、同期三人で他の同期を助けようという設定があり得るのかと疑ってしまいますし、登場人物と同じく45歳の私からすると、そんなに素直に同期と喋れるかと疑念が沸きます。そういう点では中年サラリーマンリバイバルという夢物語と言っても過言ではありません。

 

実は若手にはよいのかも

ということで、全般的にはあまりおすすめできません。内容や設定が古すぎ、それが気になってしまうのです。他方、古びれないバリュー(“自分を持つ・自分で考える”)も提示されています。そういう点を考えると、登場人物のような40代にならぬように、20代30代が反面教師的に読むと良いのではないかと思いました。因みに、筆者の『30歳からの成長戦略』は非常にアツくておすすめです。むしろ40代に読んでほしいくらいの本です。

 

評価 ☆☆☆

2019/03/16

40歳からの仕事術

山本真司 新潮社 2004年03月20日
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