筆者と作品について
台湾で行われる島田荘司推理小説賞の第二回受賞作品であり筆者のデビュー作。筆者の陳浩基氏は香港人で元エンジニア。来歴等についてはいくつかのサイトで見ることができる。
「『人』そのものが一つの謎である」―陳浩基さんブクログ大賞受賞記念インタビュー | ブクログ通信
感想
2年程前にYahoo!ニュースで紹介されており、気になって購入しました。再読して改めて感じましたが、一言で言うと、いやあすごいミステリ小説だ、と思います。特に後半の展開には驚きっぱなしでした。まるで映画を見ているかのよう。
刑事の許友一は朝起きるて、気づくとなぜか記憶がない。署に戻ると丁度自分に来客で、6年前にすでに解決したはずの事件について記者の盧沁宜が取材したいという。。。なぜ記憶がないのか、そしてそもそもその事件の真相とは・・・!?あとはご自身でご確認ください笑
記憶が大きなテーマに
今回の小説のテーマの一つが記憶、です。記憶というのはかなり重要なアイデンティティだと思います。名前や所属団体にアイデンティティを感じることも多いと思いますが、記憶は中でも最も重要なアイデンティティの一つだと思います。そのアイデンティティを失ったとしたらそのインパクトはどのようなものでしょうか。
また、思い込みとか勘違いというは我々の日常にままあることですが、事実と異なる記憶を本物として思いこんだとすると人はどうなるのか。
これだけで大分ネタを明かしてしまったようで申し訳ないのですが、この記憶の妙を上手に使ったことこそ本作の面白さだと思います。
日本へのオマージュと香港ローカル描写
また本作は筆者が日本文化に結構通じていることを思わせる部分(古畑任三郎や青島刑事等)が散見され、日本人としては筆者にちょっと親近感がわいてしまうところです。また、筆者が香港人ということであり、香港の様子が細々と記述されています。香港に行ったことのあるかた、住まわれたことのある方は懐かしみと共に楽しめると思います。
終わりに
まとめますと、非常に面白い推理小説でした。展開も良し、記憶など人間のアイデンティティにかかわるテーマも仕掛けられており物語に深みを与えています。香港という土地柄の描写も旅情を誘います。そして最後に大事なこと。アジアの推理小説という新しい世界に出会うことができます。題名が世界を売った男ですが、私には新しい世界を買うことができました笑
評価 ☆☆☆
2020/06/20