海外オヤジの読書ノート

中年おじさんによる半歩遅れた読書感想文です。今年は世界史と英語を勉強します!

往時のスパイ活動の様子が生々しい。考えるヒントも多い―『GHQ 知られざる諜報戦 新版ウィロビー回顧録』著:C.A.ウィロビー 監修:延禎


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概要

 第二次世界大戦終了後、マッカーサー率いるGHQの下で、G2と呼ばれる諜報活動を担うグループを統括したウィロビー氏による回顧録。史実と異なる回想については監修者の延禎氏が丁寧にコメントを入れている。なお延禎氏は本文中にもある通りGHQの別チームで業務に従事し、朝鮮戦争時には工作活動にも従事している。

 

感想

 諜報やスパイ活動。俄かには信じがたい。創作や映画の中の世界であると考えてしまう。しかしながら、本作品を読むと、この日本でも、そして朝鮮でも、あからさまな諜報活動が繰り広げられていたことがわかります。

 

思想のために散った命の儚さよ

 ところで、第二次世界大戦時のスパイと言えばゾルゲの存在は有名です。彼の日本でのスパイ活動については章を割いての記述があります。なんと表現すればいいかわかりませんが、うん、衝撃を受けました。人を騙すってことは普通は後ろめたいと思うのです。しかも人にも打ち明けられない。何か強く信じるものがないとなかなかできないだろうと。ゾルゲは共産主義を信じ、そして日本の警察に捕まり、処刑されてしまいました。

 

 しかしまあ、なんというか、「儚さ」を感じてしまいます。

 ゾルゲをはじめ多くの処刑された共産スパイ、そしてきっと中国やソビエトなどの共産主義圏でも、身バレして処刑された資本主義側のスパイが多くいたはずです。彼らの死から時は流れ、現在では純共産主義国家は北朝鮮キューバのみとなり、中国やベトナムも資本主義を実質的には採用する世界となりました。

 つまり当時命を懸けて実現しようとしていた思想はほぼなくなり、また資本主義陣営でも資本主義が決して完全ではないと、人が薄々欠陥を感じているような時代になったわけです。

 

lifewithbooks.hateblo.jp

 その中で命を落としていったスパイ達の命は一体何だったのでしょうか。そういう時代だった言われればそれまでですが、数十年経った今から見れば、思想のフロントラインで戦い死んでいった人たちの死は犬死ににしか思えなくなってきてしまうのです。

 

 こうした死を積み重ねて人類の進化があると言えばそれまでですが、他方で歴史は繰り返すという恐ろしい言い回しを前にすると、マルクスが「宗教は民衆の阿片である」と語ったのは言いえて妙と言えます。身の安全を真っ先に考えるのならば思想や宗教にはコミットしすぎないのが一番いいのかもしれない、とぼんやり考えてしまいました。

 

入り乱れるスパイ。ひょっとして米国でも?今も?

 また、ゾルゲと同じくらい印象的であったのは、GHQに多くの怪しげな人物が雇用されていた事実です。

 戦後、資本主義陣営では反共の嵐で吹き荒れていました。更にウィロビー少将はコテコテの反共主義者で、偏執狂的にGHQ内の親共産主義者をつぶしにかかっています。

 

 それでもなお、米国本国の承認の下、親共産主義者GHQに職位を得ているのです。今よりも社会の流動性や自由も少なかった時代ですよ。なぜでしょうか。親共者の雇用を可能にしている勢力がアメリカ本国にもいたはずなのです。つまり、当時の米国にも既にソ連や中国の流れを汲むスパイが存在していたはずなのです。でなければ親共主義者がGHQへ就職ができた理由には説明がつきません。

 

 ならば国家の政策や方針とは、畢竟一様には決まらないのでしょう。私たちが単純に資本主義とか社会主義とかと捉えている国や社会は、実は考える以上にモザイク様を示すのかもしれません。

 

諜報と政治の距離感:日本では諜報機関は成立しない

 また、軍と政治との温度感の隔たりが大きいことも非常に印象的でした。

 マッカーサの意見はもとよりウィロビーが諜報の末に得た情報も、必ずしもワシントンの政治家に聞き入れられたわけではないようだからです。

 特にトルーマン大統領はマッカーサを毛嫌いしたようですが、軍人はじめ謂わば『専門職』の方は、目の前の事実だけをぶち上げるだけではなく、政治家をも動かす懐の広さ、現代流に言うと『部下力』が問われるのでしょう(ある意味政治力でしょうか)。現代のわれわれも仕事人として身につまされる話です。

 

 ここから想像されるのは、仮に日本でインテリジェンス機関があってもそれだけではきっと機能しないのだろうということです。使う側でも情報を受け止める懐の深さや判断力・知見が必要になるからです。しかるに日本の政治家のレベルは言うまでもないため、日本が諜報機関を持っても有効活用には程遠いという哀しい見込みが立ちます。この点、元外務省の佐藤優氏が『インテリジェンス 武器なき戦争』で日本もインテリジェンス機関を持つべき、と主張していましたが、政治家の使用者資格についてはどう思っているのか知りたく思いました。

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おわりに

 改めて書きますと、本作はこてこて反共主義の軍人の書いた日本占領時代の諜報活動の回顧録です。非常に資料的価値が高い読み物だと感じました(山川出版社ですから)。大分長々と書いてしまいましたが、結構考えるヒントが豊富な本だと思います。歴史や思想に興味のある方にはお勧めできます。

 

評価 ☆☆☆☆

2020/07/27

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