世界史を勉強していると、度々”20世紀最大の宗教”などと呼ばれる共産主義。その中枢であったソ連はすでにこの世にありませんが、その”宗教の”瓦解の過程を知りたいと思い、まず本書を手に取りました。
訳者に記憶あり
ちなみに、内容よりも訳者の志水速雄という名前を見て手が止まりました。はて、どこかで見た記憶があるなと。ググって調べてみて、学生時代に繰り返して読んだハンナ・アレント「人間の条件」の訳者であることを確認しました。
スターリン一人が理想郷の悪者だったのか?
さて内容ですが、フルシチョフが前権力者のスターリンをミソくそに批判している、というそういうものです。
人や国家、宗教の妄信は恐いなあと、身も蓋もひねりもない感想しか出てきませんでした。国家の為とか共産主義の為とか或いは反革命的とか言いつつ異論反論を許さない社会は暴走するとなかなか止まらないと感じました。
この前マッカーサの自伝を読んだ時も思いましたが、当書もまた解説が面白い(というか、これがないと作品の正しい理解はできない)と思いました。スターリンを支えていたフルシチョフがなぜこのような批判をぶち上げたのかということについて、色々と説明しています。曰く、「先取り」理論とありました。つまりスターリンが根も葉もない理由で多くの同士を虐殺したことや、多くの同士をラーゲリ送りにしたことはいずれ明るみに出る。その時スターリンを支えていた彼ら後継者たちも当然のことながら糾弾される。そうなる前に、自分たちのスターリンへのサポートは棚に上げておいて、大いにスターリンを批判しよう、ということのようです。
実にくだらない理由で大切な人命が損なわれたのだと思います。
多くの理由のない殺戮は、器の小さい独裁者の君臨とそのお相伴たちによってなされたのです。そして猿山のボスがいなくなった途端、新たなボス猿は権力保全のため、これまでの悪事の責任を前ボスに押し付けようとするのです。貧富の差の解消とか平等を目指すとか、そういった貴い理念は、実に人間的な自己顕示欲や権力争いの露と消えてしまったのだと感じます。改めて共産主義とは何だったのかと問いたくなります。
ただ、社会の暴走というのは資本主義でも共産主義でもどのような社会形態でもあるのだろうなとぼんやりと考えています。集団にはそうした力があると思います。
暴走した時の悲劇を避けるため、また、社会が健全であるためには、異論を許す雰囲気や土壌、ひいては異なる考えを受け止める努力が、社会のみならず個人においても必要だろうな、と思い至りました。加えて言えば、そうした考えを異とする人ともキチンとコニュニケーションを取ることが絶対必要だと思った次第です。この点で、すぐへそを曲げてしまう私なぞは本当にまだ精神的にひよっこです。
おわりに
20世紀思想史・文化史・政治史からみれば歴史的資料としては価値は高いと思います。共産主義の暴走の極致、その暴露さえ政治闘争の道具にしてしまう汚さ、あるいは崇高な理念をこんな卑小な争いにしてしまう人間の哀しさにシニカルな気分になってしまいます。ソヴィエトやロシアに興味がある方、共産主義をはじめとした思想に興味がある方等には興味深く読めると思います。
評価 ☆☆☆
2021/04/23